2012/10/27

新興国を見込み顧客とした伊藤忠のプロダクトフロー戦略

伊藤忠商事は売上総利益(売上じゃありませんよ)が1兆円を超える言わずと知れた超巨大商社です。繊維業から始まった事業なので、いまでも繊維業の強みが突出しています。しかし現在では総合商社なので、衣料だけでなく食料から機械、資源、不動産から金融までなんでも幅広く取り扱っています。

私は商社のビジネスに明るくありませんが、商社の原型は「売りたい商品を持っているけど売る先を持たない人」と「買いたい商品があるけど手に入れられない人」を結ぶビジネスです。インターネットの登場のお陰で小さくなったこの世界では、売りたい人と買いたい人を結ぶプラットフォームはいくらでも存在します。そんな中、商社のビジネスモデルはアパレルメーカーの新興国での工場設立の支援や現地企業との資源開発など、単純にモノを右から左へ流すだけのビジネスからより高付加価値なビジネスへシフトしています。
どんな商品を取り扱っているにしろ、商社のビジネスには二種類の顧客がいます。商品を買ってくれる顧客と、商品を売ってくれる顧客です。商社の場合、仕入れられる商品が買ってくれる顧客にもたらす価値を決定づけるので、売ってくれる顧客が買ってくれる顧客と同等に重要です。この関係性は商社の特殊性と言えるでしょう。

他の産業と比べて、商社は非常に早い段階で新興国とのビジネスの開拓を進めていました。なぜなら、新興国は商社の扱う商品を必要としている前途有望な買い手であると同時に、安い労働力や資源をもつ有望な売り手でもあるからです。総合商社はこのような新興国と特定の商品カテゴリだけで点で接したいのではなく、さまざまな商品カテゴリで面で接したいわけです。
伊藤忠の新興国へのアプローチは、明確に接点を増やして面にしていく戦略が見受けられます。

伊藤忠は新興国でのビジネス進出を果たし、拡大していく上で、プロダクトフローに則った戦略を実行しています。プロダクトフローとはマーケター佐藤義典氏のコンセプトで、見込み顧客に対してまずは売れる商品(利益率が低い、またはタダのフロントエンド商品)を提供し、無理なく売りたい商品(利益率の高いバックエンド商品)へ誘導していく方法です。
伊藤忠は、繊維や食品という生活関連事業をフロントエンドビジネスとして、最終的にインフラや資源、不動産、金融といったバックエンドビジネスを手がけられるよう、新興国にはたらきかけています。いきなりインフラや資源開発をさせろと要求すると、相手側新興国は自国の重要な資源や利権が奪われるのではないかと警戒させますが、生活関連事業は相手国にとってそういったリスクが低く、確実に雇用を生み出し国民の生活水準を上げてくれます。まずは相手が受け入れやすい生活関連事業で十分に信頼を得て、インフラや資源開発に乗り出すという戦略です。

この戦略が功を奏していることを示す記事が日経産業新聞にありました。

日経産業新聞 2012/10/22 p.22―――――――――――――――――――
伊藤忠商事が中東や東南アジアなどで「ポスト中国」を探っている。その先兵役が、アパレル製品や食料品などの生活関連事業だ。 (中略) 川下事業(注釈: アパレル・食料品などの生活関連事業)で深く根を張り、現地のビジネスを資源やインフラ分野まで太くしていく深謀遠慮がある。伊藤忠が「川下」から新市場に入り、「川上」まで攻め上がる経験は初めてではない。最大の成功例が中国。1990年台に広がった中国進出ブームの中、日本のビジネス界で定着した「中国なら伊藤忠」の定評も始まりは、他社に先行して進出した繊維などの生活関連ビジネスだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――

商社のように売ってくれる顧客が買ってくれる顧客と同等に重要であるビジネスの場合、売り手の顧客化は買い手の顧客化と同じくらい戦略的に行わなければなりません。プロダクトフローは本来、買い手の見込み顧客を顧客化するための方法論ですが、商社ビジネスにおいては売り手の見込み顧客を顧客化するためにも活用可能であることを示しています。



 にほんブログ村 経営ブログへ

0 件のコメント :

コメントを投稿

LinkWithin

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...