2012/11/29

フィリップ・コトラーのラテラルマーケティング実践編 2


今回も引き続き、コトラーのラテラルマーケティングの実践方法を見ていきます。
いよいよギャップを故意に生み出し、それをビジネスアイディアに落としこむプロセスを解説します。

もっと深く学びたい方は、原著の「コトラーのマーケティング思考法(東洋経済新報社)」をご参照下さい。


■ ギャップを生み出すメンタルオペレーション

いよいよここからが実践的な話になります。
前回のポストの説明の通り、ラテラルマーケティングの思考法ではマーケットレベル、製品レベル、マーケティング・ミックスレベルのうち一つの要素だけを水平移動させてギャップを生み出します。この水平移動を行うときに使える6つの技法があります。

・代用
・逆転
・結合
・強調
・除去
・並べ替え

どこかで見覚えあるな、という方もいらっしゃるかもしれませんが、よくアイディア発想本で出てくるオズボーンの発想法やその他のアイディア発想法とほとんど同じです。他の発想法の技法で代用も可能でしょう。

実際の例で水平移動させてみましょう。髪の毛が伸びてきたので、美容院でヘアカットをする、というごく普通の購買行動を水平移動させてみます。

代用:髪の毛が伸びてきたので、レストランでヘアカットする(製品レベル)
逆転:髪が伸びていないのに、ヘアカットする(マーケットレベル―状況)
結合:ヘアカットとストレス解消を同時にする(製品レベル)
強調:坊主にしてしまう、またはほとんど切らない(製品レベル)
除去:カットだけしてシャンプーやスタイリングはしない(製品レベル)
並べ替え:髪が伸びる前にカットする(マーケットレベル―ニーズ)

見ていただいてお分かりかと思いますが、どれを見てもなんのこっちゃ?という感じでとてもビジネスに繋がりそうな発想は見当たりません。これがまさにギャップが生じている状態です。このギャップが新規性のある商品を生み出す土壌となるのです。昨日のポストでも書きましたが、ギャップがなければ従来の垂直型マーケティングのおけるセグメンテーションと変わらないのです。

ちなみに、上記のヘアカットの例では発想しやすいようにマーケットレベル、製品レベルのアイディアが入り交じってますが、実際ははマーケットレベル、製品レベル、マーケティング・ミックスレベルのうちどれか一つにフォーカスして水平移動させるのが原則です。


■ ギャップを埋めるためのストーリーで連結

ここからが最も重要なステップです。水平移動させただけではただ突飛なだけで意味のないアイディアですが、現実と連結させることで実践的なアイディアに落とし込みます。

具体的に何をするのかというと、水平移動で出てきた突飛なアイディアが現実に商品として提供されていると仮定した場合に、それはどのようなものかを現実に破綻を来さないように考えるのです。このフェーズはアイディアを広げる水平思考とは違い、アイディアを現実的なものに収束させるフェーズです。本当に現実的に考えてその製品やサービスが成立するのかを評価します。ここでも幾つか技法があります。

1. 購買プロセスを順に辿る

この技法では、水平移動で生まれた架空の製品をターゲットユーザーが購入に至るまでのプロセスを想像します。例えばレストランでヘアカットするサービスなるものが存在した場合、このサービスを利用するのはどのようなユーザーで、どこでこのレストランのことを知り、情報を集め、どんな理由でこのヘアカットレストランへの来店を決めて、そこにはどのような動機があるのかを順を追って考えます。
ヘアカットと食事という組み合わせなら反応するのは若い女性の可能性が高いでしょう。こうした新しい業態のサービスを知るのは、いまならSNSである可能性が高いでしょう。食事もガッツリ系はヘアカットの邪魔になるので、手軽に食べられるスィーツとかならありえるかもしれません。スィーツなら友だちと連れ立っていく女子会のような場のほうが良いでしょうか。「みんなで会話しながらお茶しながらヘアカットしながら女子会」というサービスは実現可能性があるかもしれません。

2. ポジティブな側面だけにフォーカス

どんなお客様でも坊主にしてしまうだとか、ほとんど切らないというのはネガティブな側面ばかりに見えてしまいますが、わずかながらポジティブな面があればそこに徹底的にフォーカスを当てて活かす方法を考えます。ほとんど切らないというのは失敗せずに少しずつ調整できるという事でもあります。ここから転じて、ヘアカットの料金を1ヶ月いくらという期間で請求し、その間は何回でも来店してカットしてもらえるという新たなサービスに結びつけることができます。

3. 水平移動アイディアが意味を持つ状況を探す

水平移動アイディアそのものは、全く意味不明なアイディアの種に過ぎません。例えば、髪が伸びる前にカットするというアイディアはそのままでは意味をなしません。逆に意味を成す状況はどのようなシチュエーションでしょうか?卒業式や入社式といったイベントの前は何かと美容室にいって髪を整えるものです。髪の長い女性はカットしてスタイリングしてもらえばバッチリなのですが、髪が短い男性はある程度伸びた状態を想定して髪を切られるので、いかにも髪を切ってきました状態の違和感がある髪型になることが少なくありません。ここから転じて、Googleカレンダーのようなカレンダーサービスにイベントを入れると事前に髪を切るタイミングをレコメンドしてくれたり、さらに発想を拡大してイベントに合わせた服装の提案やその服を購入できる店舗をレコメンドしてくれる、おせっかいなカレンダーサービスという発想に繋げられるかもしれません。


ここまで見てきたように、ラテラルマーケティングは購買活動を3つの要素に分解し、そのうち一つの要素だけを分解し、出てきた水平思考アイディアを現実と連結させて現実的なアイディアに落としこむというプロセスで行います。よくあるアイディア思考法の書籍を読むと、水平思考アイディアを出して終わっている場合が少なく有りませんが、現実と結びついていない水平思考アイディアは価値がありません。

原著にはもっと分かりやすい豊富な実例付きで説明されているので、興味があればぜひ読んでみて下さい。そして明日からのビジネスアイディア発想に活かして行きましょう!

コトラーのマーケティング思考法
フィリップ・コトラー フェルナンド・トリアス・デ・ベス
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フィリップ・コトラーのラテラルマーケティング実践編 1


昨日のポストで、なぜコトラーが従来型の垂直型(バーティカル)マーケティングだけでなく、新たな水平型(ラテラル)マーケティングを重要だとしているかについて書きました。

現代の市場は競争激化、及びセグメンテーションとリポジショニングを手段としたバーティカルマーケティングの普及により、マーケットが細分化されすぎてブランドが乱立しています。今ある市場に新たなセグメントを見つけようとしても、もはや細分化されすぎて十分なマスが存在していないません。飽和したマーケットで生き残るには、新たなセグメントを見つけるのではなく、新たなマーケットを作り出すことだとコトラーは言っています。新たなマーケットを作り出す方法として、ラテラルマーケティングの非連続的アイディア発想が有効なのです。

今日はそのラテラルマーケティングの実践的手法をお伝えします。

興味を持ったらぜひ原著である「コトラーのマーケティング思考法(東洋経済新報社)」を読んでみて下さい。


■ 購買活動を3要素に分解する

まず、最初の手続きは購買活動を3つの要素に分解することです。購買活動を一つのシステムとしてみると、その構成要素は(1)マーケットレベル(ニーズ、ユーザー、用途・状況)、(2)製品レベル、(3)マーケティング・ミックスレベルの3要素に分解できます。
従来型のバーティカルマーケティングでは、まずマーケットを観察して新たなニーズをあぶり出して新たなセグメンテーションを作り出し、そのセグメントにフィットする製品を開発し、4Pのマーケティング・ミックスを経て消費者へ提案する、という五月雨式のプロセスをたどります。


■ 1つの要素だけを水平移動させる

一方、ラテラルマーケティングの手法ではマーケットレベル、製品レベル、マーケティング・ミックスレベルの3要素の内、2つは従来のまま固定し、一つの要素だけを水平移動させてギャップを生み出します。この説明ではとてもわかりにくので、例を上げて説明します。

マーケットレベル、マーケティング・ミックスレベルを固定し、製品レベルにフォーカスをあてたラテラルマーケティングを実践するとしましょう。例としてiPadをラテラルマーケティングで生み出すプロセスを試みてみます。マーケットレベルは従来から存在するターゲットとニーズで、外出先でもメールやWebを見たいというビジネスマンや個人事業主です。マーケティング・ミックスレベルは、従来と変わらないWebやCMでの宣伝とリテールショップやApple Store経由の販売です。しかし、製品レベルでこれまでのモバイルPCとは全く違う製品を考えます。従来のモバイルPCとモバイルルーターという組み合わせから非連続的な発想の飛躍をとげ、PCのような性能を持ったタッチパネルの巨大な携帯電話という発想で生まれたのがiPadです。(もちろん開発者がこのような思考プロセスを経てiPadを思いついたと言っているのではありません。ラテラルマーケティングの思考プロセスからiPad生み出すとしたら、というシミュレーションです。)

同じように製品とマーケティング・ミックスを変えずに使用するユーザーや状況だけを変えてみたり、ユーザーや状況と製品はそのままに販売手法だけを変えることによって、革新的な商品や売り方が生まれます。これが新たなマーケットを切り開くブレイクスルーになるのです。


□ 重要なのはギャップを生み出す発想

前項の例であるiPadの発想法は、実はラテラルマーケティングとしてはあまり良い発想ではありません。何が足りないのかというと、ギャップが足りないのです。

外出先でメールやWebを見たいという従来型のニーズに対し、これまでと変わらない広告手法や販路で、全く革新的な製品で応えるというのがここでのラテラルマーケティングの発想のスタートラインです。既存の製品レベルがモバイルPCとモバイルルーターの組み合わせであるのに対し、新しく提案されたアイディアが「モバイルルーターとモバイルPCとを合体させたようなモノはどうだろう?」という提案はある意味順当な発想というか、ありがちな発想です。ありがちな発想ということは、そのアイディアにギャップを感じないということです。ギャップがなくてすんなり受け入れられるアイディアは、既存のマーケットをブレイクダウンしてセグメンテーションしているだけに過ぎないのです。

iPadは確かに革新的でわくわくする商品ですが、ラテラルマーケティングの発想からすると、実は昔から存在したパームやスレートPCなどと変わりはなく既存マーケットの新たなセグメンテーションを満たしているに過ぎないのです。


明日は生み出した水平思考アイディアを実際のビジネスアイディアに落としこむ方法について考えます。

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2012/11/28

コトラーのマーケティング思考法

マーケティングの大家と言えば真っ先に名前が上がるだろうフィリップ・コトラー。コトラーのマーケティング理論といえば、ファイブフォースやポジショニングという現代マーケティングの教科書的手法です。「コトラーのマーケティング思考法(東洋経済新報社)」ではこれまでのコトラー理論と違い、マーケティングにおける水平思考(ラテラル・シンキング)の重要さとその手順を示しています。

■ 細分化されすぎたマーケット
コトラーは現在のマーケットについて、細分化されすぎており従来型の垂直型(バーティカル)マーケティング思考では新製品で十分な利益を上げるのは困難になっているとしています。垂直型マーケティングの手法では、あるマーケットに対して既存製品が満たしていないベネフィットまたはユーザーでセグメンテーション(細分化)し、リポジショニングした製品を送り出すことが王道でした。例えば、コカ・コーラが従来の顧客だけでなく、健康に気を使うユーザーに対してアプローとするためにダイエットコークやシュガーフリーのコーラを提供するのがこれにあたります。しかし、多くの企業がこのスタンダードなマーケティング手順を活用した結果、市場は過度な細分化が進み一つの商品なカテゴリでブランドが乱立する事態になってしまいました。

■ 成長の鍵は水平思考
こうしてブランドであふれた現代のマーケットへの新たなアプローチとして、水平型マーケティングをコトラーは提起しています。水平思考とはアイディア発想の時によく使われる、非連続的なアイディアの飛躍を得るための思考方法です。垂直型マーケティングではマーケットを注意深く観察し、取り残されたユーザーやニーズを発見してセグメンテーションし、そのユーザーに対して訴求効果を高めるマーケティングです。これに対して水平型マーケティングでは、まだ顕在化しておらずユーザーも自覚していないニーズを満たすアイディアを提起して、新たなマーケットを作る手法です。
本書であげられている例としては、テープデッキといえば持ち運びができなくて再生と録音ができる製品しか存在しなかったマーケットにソニーが投入した再生専用のポータブルテープデッキ「ウォークマン」がこれにあたります。ウォークマンは当時はどこにも顕在化していなかった「外で歩きながらでも音楽が聞きたい」というニーズを生み出し、新たな製品カテゴリを創出しました。

■ 垂直型マーケティングと水平型マーケティングをどのように使い分けるべきか
コトラーによると、従来型の垂直型マーケティングを採用すべき場面は、その商品カテゴリのライフサイクルが初期段階にあるマーケットだとしています。ある商品カテゴリが生まれた時、マーケットにはその商品を初めて投入した企業だけが存在します。すぐに2番手が登場し競争が生まれますが、3番手以降が全く同じ価値をもつ商品を投入しても得られるシェアはたかが知れています。そこでセグメンテーションとリポジショニングを行い、他の競合商品では満たせていない新たな価値、例えばもっと安価な商品が欲しいというニーズを満たすために低価格商品をそのマーケットに投入します。
一方水平型マーケティングを採用すべきはマーケットが成熟して成長が見込めない商品カテゴリだとしています。既存製品が到達できないユーザーのニーズを満たすため、水平思考による非連続的なアイディアによって生まれた商品を投入し、新たなカテゴリを切り開くことがポイントです。

水平型マーケティングは新しいマーケットを切り開くには適していますが、一度切り開かれたマーケットで競合と相対していくにはやはり従来型の垂直型マーケティングが必要です。それぞれの特徴を踏まえてマーケティング戦略を組み立てることが重要です。

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2012/11/27

シャドープランニング: 携帯キャリアの次の一手

国内大手3社の携帯キャリアはほとんど価格的にも付加価値的にも違いがありません。AUとSoftbankが買ってNTT Docomoが一人負けなのはキャリアの優位性によるものではなくて扱っている端末(iPhone)の影響に過ぎません。これらの国内大手キャリアのうち一社が抜きん出るにはどうしたらよいのでしょうか?

携帯回線は技術による差別化が難しい分野です。そのキャリアが提供しているのはCDMAOneなのかCDMA2000なのかW-CDMAなのか、なんてことは利用者にとってはどうでも良いことで、どれだけ繋がりやすくて早くて安いのかが重要なのです。国内大手3キャリアは利用者にとっての価値ではほぼ三すくみ状態です。
MNPにより心理的なスイッチングコストが下がったので容易にキャリアを乗り換えられるようになりました。回線は所有物ではないため所有する価値を持たせにくく、コモディティであるためブランド価値を持たせることも難しいのです。ゆえに品質面でもコスト面でも情緒的価値でも差別化が非常に難しく、競合他社よりも高い値付けをすることが困難です。

今後携帯キャリアが取るべき手段は、基本的にキャリアの本質機能である回線の付加価値ではなくて、回線以外の付加価値をアドオンして収益化することが基本戦略となるでしょう。基地局の増設や通話品質の改善は、不満足による会員の流出を防ぐために強いられるネガティブな投資であって、新たな顧客を呼び込むための呼び水には成り得ません。

これらを踏まえた上での成長の芽を考えてみます。

■ PB(プライベートブランド)アナロジー
携帯端末、スマートフォンを、キャリアで企画して製造委託するという考えです。あまり詳しくはないのですが、携帯電話の販売店は基本運営委託しているので端末販売代金はキャリアに入ってこないはずです。新しい収益源として携帯電話端末を企画開発してハード販売収益を得るのも一つの方法です。

■ キングソフトアナロジー
パソコンソフト販売のキングソフトは、広告アプリを仕込んだEden TabというAndroidタブレットを販売しました。あくまでも広告アプリを仕込んであること前提で売り出しており、そのかわり広告収益の分本体代金を割り引くというモデルです。同じように、キャリアがOSに広告を仕込んで月額料金を値下げし、利益を減らさずに価格で優位性を築くことができるかもしれません。

ただし、ユーザーが広告の内容や頻度に不満を覚えて他社に乗り換えてしまう可能性もありますし、上手く行ったとしても競合他社が真似するのはそれほど難しくはありません。

■ コンテンツパッケージ化
コンテンツやアプリは今や自分が必要としているものを探しきれないほど巷にあふれています。例としてカレンダーツール、天気予報、電話帳、乗換検索などのビジネスツールをパッケージにしたオールインワンパッケージを安価に提供するのは需要があると思います。選択肢が増えすぎると、必要な物をピックアップして自分用にカスタマイズしてくれるサービスへの需要が発生します。プロフィット・ゾーン経営戦略のポストでも紹介したスイッチボード利益ですね

■ ソリューションビジネス化
既に実現している部分も多いですが、買い替え時のデータ移行請け負いやクラウド・ストレージの提供などです。しかし、コンシューマーの要求(=ソリューションによって解決されるべき課題)は機種本体の機能性や回線のつながり易さといった技術的な改善に集まりやすいため、ソリューションの提案が難しいのが現実です。企業であれば、使用感よりも目的の達成に主眼が置かれるため、ソリューションが提案しやすいんですよね。

■ 決済端末化
EdyやWaonのような電子マネーがこれだけ普及しているのに、携帯電話での決済が電子マネー決済のメインストリームにならなかったのが不思議です。おサイフケータイはある程度普及していますが、新たにカードを持たせるEdyやWaonよりも、もともと持っている携帯電話での決済のほうが普及しそうなものなのですが。

唯一NTTドコモはNTTデータのような大手開発会社をグループ会社に持っていて、しかもNTTデータはカード決済システムCAFISの開発・運営実績があるのです。携帯電話の決済端末化を本気で推し進めていればスタンダードを取れる可能性もあったでしょう。


いろいろ頭を捻ってみましたが、回線プラスアルファの付加価値提供も容易ならざる道です。今後それぞれの会社の差別化が進むとすれば、他の多くの業界が歩んできた細分化という道なのかもしれません。万人に同じ回線サービスを提供する今のような形態ではなく、ロースピードローコストのブランド、ハイスピードハイコストのブランドを立ち上げて、より小さなセグメントを狙い撃ちするマーケティングを行っていくのかもしれません。

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2012/11/26

人材市場は有期雇用・自由市場化すべき

日本経済を活性化するためには、今よりも人材流動化を進めることが必須だと思います。ややアバンギャルドな考えだとは思いますが、終身雇用は一切撤廃して全ての企業が1〜3年程度の有期雇用であるべきだと考えています。整理解雇や再雇用があたりまえな自由な人材市場になるべきです。

ようやく国内でも企業で働くことに対する意識が人材流動化の方向に変わりつつあります。例えば、「パフォーマンスに対して報酬をもらう企業との契約関係」という認識や「スキルアップやキャリアアップをする場」(これは個人が企業を搾取する考え方なので良くありませんが)という、会社と個人の契約関係に過ぎないという考え方です。

人材市場がもっとフラットで流動的になると、個人と企業双方にとってメリットが生まれます。

■非正規雇用者の中に優秀な人材が眠っている
まず第一に、今の非正規雇用の人たちは不遇すぎると思います。基本的に非正規雇用として社会人生活をスタートしてしまうと、一部の上澄みの人たちだけが正社員雇用というチケットを手にすることができます。もちろん実力主義といえばその通りなのですが、その入り口が狭すぎることが問題だと思います。

いくら実力やポテンシャルを持っている人でも、報われないと分かっていながらパフォーマンスを発揮し続けるのは難しいでしょう。今の正社員雇用の人が同じ境遇に陥って、また正社員雇用に戻れるほどの実力とモチベーション維持が可能な人がどれだけいるでしょうか。

この入り口が広くなれば、驚くほど非正規雇用者のパフォーマンスが上がり、企業に貢献してくれることでしょう。

■フラットな人材評価と企業評価
自由化により、人材と企業に市場原理の力が働き悪しきは淘汰され、善きはより高く評価されることになります。より良い経験やスキルを持つ人材は市場で高く評価され、努力を怠った人材は低く評価され、評価通りの報酬を得ます。長く勤めているだけで付加価値の低い人材が高級をもらっていたり、実力があるのに報酬が低いままの若手がいる現状がある程度是正されるでしょう。

企業も同じで、ブラックな企業は終身雇用という釣り餌がなくなれば、安い代わりに実力がない人材しか雇用できなくなり、立ち行かなくなるでしょう。

ただし、人に関してはセーフティネットが絶対に必要です。自由市場の難点は爪弾き者を生み出してしまう点にあるので、この点は今以上に考えられた仕組みが必要です。

■自らのキャリアに責任を持つ
シャープの大量解雇で自分で自分のキャリアを考えてこなかった人々が市場に放り出されました。定年まで勤められると思い込んで自分のキャリアを会社に任せきりにしていた人にとっては北極に放り出されたような感覚でしょう。

優秀な技術者はサムスンや台湾企業に拾われることもあるかもしれません。しかし、それもサムスンや台湾企業に雇用の余裕があるという外部要因に依存してしまっています。もちろん人材市場は企業の雇用動向に大きく左右されるものですが、自分のキャリアという唯一自分でコントロールできるものを手放してはチャンスが減ってしまいます。

労働組合も不要です。労働組合は自分のキャリアを会社に預けた人たちが自分たちの利益を守るために生み出した政治組織に過ぎません。

大企業の多くが利益を失っている現状、大企業の雇用数や給与は減っていくのは必然です。そんな中、人材市場を流動化し、前途ある企業に人材という血液が流れることによって日本経済は活性化すると思います。

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2012/11/25

なぜソフトバンクモバイルは躍進しているのか

そのやり方に賛否両論あれど、ソフトバンクモバイルは躍進しています。キャリア大手三社で比較すると、直近5年間での契約数増加率が王者Docomo12.6%、AU31.5%に対し、ソフトバンクモバイル55.1%と圧倒的な躍進を見せています。

何がここまでソフトバンクを成長させる原動力になったのでしょうか?仮説は数え切れないくらい存在すると思いますが、私なりの考えを書いてみます。

□■ 強みが明白 ■□
ソフトバンクという会社は価格破壊で回線・携帯ビジネスに参入してきました。YahooBBのルーター無料配布を鮮明に記憶されている方も多いかもしれません。やり方の強引さや(とは言え強引だったのは現場監督の問題だと思いますが)サービスの品質はともかく、ソフトバンクは低価格という価値を消費者に提供してくれるのだという信頼が生まれました。別の言い方をすると、ソフトバンクは競合他社よりも安いというブランドを作り出すことに成功したのです。
まだ記憶に新しいiPhone 5の料金プランでAUとの熾烈な料金設定争いがありました。ソフトバンクはテザリングやMNPに対する料金プランで当初はAUの後塵を拝していましたが、よく分からないキャンペーン等で、最終的にはAUと同等以下の価格まで下げて、テザリングも実現しました。iPhone 5のケースで見られるように、サービス品質ではナンバーワンではないが、ソフトバンクを使っていれば料金的に他社を利用するより損をすることはないという安心感があります。

□■ 誰にでも分かりやすい目標と実行 ■□
経営者である孫正義氏は常に社内にも顧客にも契約数ナンバーワンを取るという目標を掲げてきました。社員にとっても顧客にとっても分かりやすい明確な目標です。社員にとってはこれだけ明確な方針があれば、自分がどういう動きをすべきかが分かります。単純化し過ぎた話ではありますが、もし社員が判断に困ったら、契約数を増やすことにつながる判断をすればいいという道標になります。そしてその目標がどんどん実現に向けて進んでいます。これは社員のモチベーションが上がらないわけがないでしょう。
顧客にとってソフトバンクの分かりやすい目標はどのような効果があるでしょうか。直接的な効果はあまりないかもしれませんが、親方日の丸の象徴であるDocomoに対して正面対決を挑む勇敢な新興企業というポジティブな印象を持つ人もあるでしょう。AUのように特徴のない企業と比較すると企業にカラーがついており、このことが多少消費者の判断に影響を与えている可能性はあります。

□■ 白戸家のお父さんというキャラクター宣伝広告 ■□
もはやほとんど知らない人はいない白戸家の広告宣伝は、話題性や認知度や好印象という点でCMとしては大成功していると思います。頻度といい物語のつなげ方といい、とても印象に残ります。
とは言うものの、購買の判断に対してどれだけ効果があるのかは疑問です。携帯キャリアの選択はスナック菓子や清涼飲料水と違いしっかり吟味して選ぶものなので、CMへの好感度が即購買行動には繋がりにくいでしょう。そもそも携帯キャリアは大手三社ともこれ以上認知広告をする意味はないと思います。

□■ 孫正義という圧倒的リーダーシップ ■□
ソフトバンクが上手くいっている要素は、どれを辿っていっても結局は孫正義氏につながっていきます。彼の圧倒的なビジョンとリーダーシップがあるからソフトバンクモバイルは躍進しています。
いろいろな企業を研究していて気付くのですが、躍進する企業は必ず独裁的なまでの一人のリーダーがいるか、複数のキーパーソンが役割分担をしてそれぞれの分担でリーダーシップを発揮しています。合議制で躍進する企業はありません。合議制を採っている段階で目的が自己存続になるからです。独裁的なリーダーの中でもひときわ強烈なリーダーシップに支えられて、今のソフトバンクモバイルの躍進があります。

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2012/11/24

経営者でない人が経営戦略を学ぶ弊害


これまでのポストで何冊か経営戦略に関する本を紹介してきました。私は経営者という立場にはまだほと遠い人間なのですが、どうも企業戦略という大きなことを考えるのが好きで経営戦略本を好んで読んでいます。そのなかで学んだのは、会社のどのポジションにいる人であっても個人であっても、物事を戦略的に考えることは重要だということです。人生でより多くの富や経験や友を得たいのであれば、戦略を持たない者より持つ者の方がより多くを得る可能性が高いということです。

しかし、経営から遠いところにいる会社員が経営戦略を学ぶことによる弊害があります。私自身が実体験として遭遇した弊害について書いてみます。

■自分の仕事が矮小に見えてしまう
経営戦略を学び過ぎることによる弊害は、ある意味ではお伽話の物語を読むことによる弊害と似ているかもしれません。それは、現実の自分の仕事が矮小に見えてしまうということです。経営戦略本のケースを見ていると、売上が右肩下がりで数期連続で赤字を重ねている青色吐息の企業にやってきた腕利き経営者が大胆に大鉈を振るってリストラと不採算事業を整理して利益を確保し次の一手で売上と利益を改善させてV字回復!なんて物語をよく見ます。
映画のヒーローのような経営者の話を読んでいると、自分が日々格闘している課題のスケールの小ささに意気消沈することがあります。もちろん、スケールの小さい課題をしっかりこなせない人間が経営課題を何とかできるはずがないだろう、と自分でも思うものですが、どうしても隣の芝は青く見えてしまうものなんですよね。

■今の仕事の課題にコミットできなくなってしまう
一つ目の問題が悪化したバージョンといえるかもしれません。自分の仕事が矮小に見えてしまうと、それにコミットすることが難しくなってしまいます。良くも悪くも、経営戦略を学ぶことによって自社の経営の舵取りの良し悪しが多少分かるようになってしまいます。すると自部門の小さい課題よりももっと大きな経営課題を何とかしなくては、という余計なおせっかい的考えになってしまうのです。もちろん平社員のときから経営課題に目を向けることができるのであれば、将来出世したり起業して経営者になったときに役に立つことはあるでしょう。しかし、自分の役割を全うしない社員ばかりの会社では、いくら良い経営戦略があったとしても決して成功しません。一社員として経営戦略に目を向けるのは良いのですが、まずは自分の課題に全力投球すべきなのです。

■現経営陣を見下してしまう
二つ目の問題がさらに悪化するとこのような状態になります。自社の経営状況が悪くなったのも、自部門の課題が解決できないのも全て誤った経営戦略を持っている現経営陣なのだという考えになってしまうのです。ここまで来ると、もはやただの批評家です。どの会社にもいますよね、批評家が。批評家は問題を正確にあげつらうので、優秀な人と思われがちです。特に官僚的な組織では意外と批評家が評価されたりします。
しかし批判するだけではなんの価値もありません。その問題点に対して解決策を考え、行動して初めて評価に値する批評になるのです。そうでなければ、黙々と自部門の課題に取り組む人のほうがよっぽど価値があります。とはいうものの、もし批評家から脱皮して、重要な課題について自ら行動を取り結果を出したのなら、その人はエースやホープと呼ばれるでしょう。

いかがでしょうか。勉強熱心な人ほどこういう傾向の人がいるのではないでしょうか。今日の内容は他人の観察も含まれますが、何より自分の反省としての自戒が多分に含まれています…。みなさんも批評家にならないように注意しましょう。

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2012/11/23

エムスリーという企業


訳あってエムスリーという医療向けネットメディア企業について調査する機会がありました。ユニークなバリューを提供し、株主価値も高い優良企業です。調査の覚書ついでにご紹介。

エムスリーは医療とメディアの融合により新しい価値を提供しようというネット新興ネット企業です。2000年に製薬会社向け情報サービスで設立し、2003年にソニーコミュニケーションズ(現ソネットエンターテイメント)の医療情報サービスを営業譲受しました。

医療に特化したポータルサービスを主幹事業としており、国内では比肩するサービスがないため、素晴らしい利益率と株主価値を提供しています。リーマン・ショック後から株価を3倍に上げています。

同社のサービスは医療従事者向け、関連医療産業向け、一般向けに提供されています。

□■医療従事者向けサービス■□
採用サービス/キャリアエージェントサービス
開業医支援サービス/コンサルティング、サポートサービス


□■医療産業向けサービス■□
製薬会社向けプロモーションサービス/ポータルサイト
医療従事者リサーチ/マーケティング支援サービス
臨床試験サポートサービス/コンサルティング、サポートサービス

□■一般向けサービス■□
診察予約システムASPサービス(関連会社)
医者へ質問できるポータル/ポータルサイト

主なサービスは医療従事者向けのm3.comというポータルサービスです。医師登録者は23万人ということで、医師全体29万人のうち約80%が登録しているモンスターポータルです。これだけの医師が登録しているということは、医師に製品を販売したい企業からするととんでもない価値を持っています。

ネットワーク効果が出るまでは相当苦労されたと思いますが、医師の約80%が登録している現在は刈り取りの時期でしょう。ほとんどの製薬会社にとってはm3.comをマーケティングに使わないということは考えられないでしょう。

以前のゼクシィのポストでも取り上げましたが、ポータルビジネスではターゲットとする企業(製薬会社や医療周辺産業)の顧客を握るというのが元も重要なKFSです。医師向けの採用サービスや開業医支援サービスのような、医師にとって付加価値の高いサービスを提供してKFSである医師の登録を増やすという戦略だったのでしょう。しかも、医師を集めて医療関連企業から売上を上げるだけでなく、医師から会員費を回収するという見事な収益モデルです。それだけ医者にとっても有益なポータルサイトなのでしょう。

m3.comでの2012年上半期売上は前年比22%増で77億円に達しています。そして利益率は驚異の56%!慢性的に利益率が低いITサービス業界に身をおく私としてはヨダレが出そうな利益率です…

海外事業や臨床試験や治験サポートサービスも含めた上半期トータルの売上は113億円で前年同期比34%増に達しています。トータルでの利益率も38%を記録しています。

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2012/11/22

利用・愛情関門をクリアするために


前回は、マーケターは広告・プロモーションだけでなくもっと利用・愛情に取り組むべき、ということについて書いてきました。では、その利用・愛情関門をクリアするためにどのような取り組みがあるでしょうか。

ほとんどの人にとって最も身近な手法がポイントカードです。ポイントカードの直接的な目的は顧客の来店回数を増やして購入機会を増加させることですが、それと同時に来訪回数を増やすことで店舗に対して愛着をもってもらうことも期待できます。心理学的にも、単純に接触回数が多いだけで人と人の親密度が上がるという実証結果があります。

次に、商品を使用するイベントを開催して商品への愛着を高める方法を取っている企業もあります。例えば車やバイクの特に趣味性の高い車種では、よくオーナーズクラブと呼ばれる特定車種のオーナーの集まりが箱根の大観山や高速のパーキングで催されています。趣味性の高い車やバイクは乗って楽しむだけでなく、人に見てもらって楽しみ、共通のオーナーと談笑して楽しむというのが全てセットで商品の価値になっています。こうした商品で愛情を高めてもらうには、これらの価値を全て一度に提供できるオーナーズクラブというのが有効な手段です。オーナーズクラブは必ずしもメーカーや店舗が主催しているわけではなく、オーナー達が自主的に運営していることも多いようです。

そこまで趣味性が強くない商品でも、普段商品の性能を100%使い切る機会がないような商品があります。例えば最近よく見かけるようになったロードバイクです。ロードバイクは普段使いやツーリングに行く事はあっても、なかなかレースに参戦する機会がないという人がほとんどでしょう。それでもロードバイクに乗る人は、いい自転車に乗っているのだからレースに出てみたいなあという願望もあることでしょう。
それを一般向けレースイベントとして提供したのがイオンです。

日経MJ 2012/11/7 P.9―――――――――――――――――――――――――――――
自転車専門店のイオンバイクは千葉市内で、一般参加型の自転車耐久レースを初めて開いた (中略) スポーツバイクの売れいきは好調だが、日本国内では一般人が参加できるレースは少ない。
岡内祐一郎社長は「商品を売るだけでなく、販売後に楽しめる空間を提供することも大事になる」と説明している。
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最後にとても基本的な手段ですが、こまめな顧客フォローもやはり愛情関門を突破するための正攻法になります。「割烹 松屋」という老舗割烹では顧客に定期的にハガキを出して関係を維持するという、とてもベーシックな方法で顧客ロイヤルティを高めています。

日経MJ 2012/10/26―――――――――――――――――――――――――――――――
これまでに集めた6000人分の情報を「1年以内の来店客」「2年以内の来店客」「その他」に分けて管理する。1~2年内の来店客を中心に、毎月少なくても1000枚、多い時は3000枚を送る。宛名やコメントはスタッフ全員が手分けし、全て手書き。1人で1時間に30枚は書けるという。ハガキを見て驚くのは、来店を促す言葉が一切ないこと。誕生日や記念日向け特別コースの案内と年4回の商品紹介という例外はあるが、それ以外は前回の来店のお礼や時候の挨拶が書かれているのみだ。
これはハガキの役割を「お客との信頼関係を築き、それを保つため」と割り切っているからだ。
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小料理屋の例のように、企業対個人のつながりよりも企業の中の個人対個人のつながりが求められる業種でうまくいく方法だと思います。別の言い方をすると密着軸の価値提供を主としている企業ということになります。

実は上記で紹介した3つの方法は、手軽軸、商品軸、密着軸の3つの価値軸をもつ企業がたどり着いた方法です。以前のポストでも解説した3つの価値軸ですが、少し補足説明をします。

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3つの価値軸とは、お客様に競合他社ではなく自社を選んでいただく3つの理由です。3つの軸はお客様がモノやサービスを選択する理由と合致しているので、企業はこの3つの価値軸のどれかに特化し一貫した戦略をとることにより顧客に選ばれやすくなります。

1. 手軽軸: 「早い」「安い」「手軽に手に入る」という価値
2. 商品軸: 「最高級」「最先端」「本場」という価値
3. 密着軸: 「自分だけの」「カスタマイズできる」という価値
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愛情関門に対する手法を纏めてみると、このようになりますかね。

1. ポイントカード = 手軽軸の企業向き
2. 商品を使用するイベント = 製品軸の企業向き
3. こまめな顧客フォロー = 密着軸の企業向き

しかし、必ずしも商品を使用するイベントが密着軸や手軽軸で使えないわけではありません。むしろ密着軸では相乗効果が見込める一方、手軽軸ではあまり意味が無いかもしれません。手軽軸で提供している商品はコモディティ化された製品であることが多いからです。
このように、事例を参考にしつつも他社の手法が有効である前提条件が自社の条件と同じなのか見極めたうえで実践して行きましょう。

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2012/11/21

マーケティングはCM・広告だけじゃない

消費者が自社の見込み顧客になり、商品を購入して顧客になり、他の人へ自社を推薦してくれるロイヤルティカスタマーになるまでの流れを見える化するためのマインドフローというフレームワークがあります。マーケター佐藤義典氏が著書「図解 実戦マーケティング戦略」のなかで説いているマーケティング戦略の一部です。

マインドフローでは、顧客が自社の商品も知らない状態からロイヤルティカスタマーになるまで、7つのステップに分解して考えます。7つのステップはそれぞれロイヤルティカスタマーになるまでの関門になっています。

  認知 : 知らなければ興味を持たない
  興味 : 興味が無ければ行動しない
  行動 : 行動しなければ、買おうと思わない
  比較 : 競合商品と比べて勝っていなければ買わない
  購買 : 買わなかったら使わない
  利用 : 使わなかったら愛情を持たない
  愛情 : ファンにならなければ、リピートしてくれない

このマインドフローのフレームワークが示す通り、マーケティングの最終目的は購買ではありません。そこから商品を利用し、商品に対する愛情を育み、ロイヤルティカスタマーになってもらうことが最終目標なのです。

マーケティングというと一般的には認知から比較までの領域しか脚光が当たらないことが多いです。認知・興味の関門に対する主な取り組みは、消費者向け商品であればCM・広告、エンタープライズ向け商品であればイベントや展示会、業界紙への広告といったところでしょう。電通や博報堂といったマーケティングの花形企業がCM・広告を販売しているため、どうしてもマーケティング=CM・広告という認識を持っている人が多い気がします。CM・広告は重要ではあるものの、マインドフローの7つの関門のなかで認知・興味の2つの関門に対する施策でしかないのです。

次の行動・比較関門に対する戦術はキャンペーンやプロモーションです。商品を見に来店してもらうためにメルマガで商品をアピールしたり、商品棚から商品を手にとってもらうためにPOPを置いたり、というプロモーションをよく見ると思います。これらは商品を見に来てもらうという行動、手にとってもらうという行動のためのプロモーションです。そして競合商品より魅力を感じてもらうためにパッケージを工夫したり、POPで商品の優れた点をアピールしたり、値引きキャンペーンを行なって相対的な価値を高めるのが比較関門への対策です。ここまではマーケティングの範疇だと言われてもまだピンとくるところでしょう。

マーケターは次の購買も含めてマーケティングデザインを考えなければいけません。購買関門は、比較の結果顧客の意思が買う方に傾いた時に、購買行動を阻害する要因を除外することです。「よし買おう」と思った時に近くの店で売ってなかったり、ネットショッピングで買えなかったりすると、その購入手段を提供している競合商品に流れてしまうかもしれません。これでは、競合他社のためにお金をかけて広告やプロモーションをしたようなものです。なので、マーケターは購買関門もよくよく注意してデザインを組み立てる必要があるでしょう。

最後の利用・愛情関門もマインドフローのなかで最も大事といっても過言ではないくらい重要なのですが、マーケティングを考える上で軽視されがちです。新規顧客を獲得するための広告・プロモーションと比較し、自社商品の購入履歴がある顧客にリピート購入してもらうほうがよっぽど低いコストで売上を伸ばすことができます。さらに、一般的にはリピート顧客がさらにリピート購入してくれる確率は高くなります。
自社商品に愛情を持ってくれているロイヤルティカスタマーの価値はリピート購入だけではありません。ロイヤルティカスタマーはお金をかけても得難い口コミの媒体になってくれます。口コミで得られた新規顧客がロイヤルティカスタマーになってくれる可能性は、全くの新規顧客より高くなるはずです。購買後の利用・愛情についても認知・興味と同じぐらいリソースを割いて注力すべきなのです。

明日はこの利用・愛情関門を突破するための方法を事例を交えながら考えていきたいと思います。

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2012/11/20

機が熟すまで待つというプロモーション


ファッション業界全体が停滞気味な中、しまむらは順調に店舗と売上高を伸ばし気を吐いています。私のイメージでは、しまむらといえば地方のロードサイド店で値段がユニクロよりも安くてカジュアルではあるものの、垢抜けない田舎っぽい印象がありました。そんな片田舎でしか見かけなかったしまむらも、現在では三軒茶屋の駅前にも出店するなど、都心部でも勢力を伸ばしています。

しまむらはもともと地方で全年齢層向けに低価格衣料を提供する安さだけが特徴のチェーン店でしたが、首都圏での出店を増やすにつれてファッション性の高い若者への訴求力を高めています。そのプロモーションが見事なので取り上げてみます。

しまむらは10年近く前からテレビCMでの広告を行なっていますが、特に近年になってから5分程度の天気予報番組をもつなど、かなりの広告予算を認知度アップのためのテレビ広告に割いてきました。その甲斐あってか、2009年頃にはオシャレな若者にも認知度が高まって、しまむら愛好者の「シマラー」やしまむらの服を来ていることがバレる「しまばれ」など、よくも悪くも話題になるようになりました。

国内での若者向けファッションイベントとして知名度の高い東京ガールズコレクション(TGC)に参加して、ファッション性の高い若者にアピールするのに十分認知度を得ている状態でした。しかし2012年までTGCへの参加を控えたのです。その理由は、機が熟していなかったから。

日経MJ 2012/11/14 P.1――――――――――――――――――――――
しまむらは当時(2009年頃)、若者の需要の受け皿となる都市型店舗の開発途上にあった。東京・高田馬場の都心1号店開業は07年。商品の改良余地もまだ大きかった。
その後、09年末の三軒茶屋店を皮切りに都市型店の開発が本格化。ソリデルなど若者向け衣料が品ぞろえの核となる店も登場し、売れ域に安定感が増した。こうした状況を見届けたうえで、TGC参加を決定。もくろみ通りの販促結果も得た。
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流行り廃りのスピードが早いファッション業界で、拙速よりも機が熟すのを待ったという行動が興味深いところです。一般的に言って、認知度を高める施策は早ければ早いほど効果が高まります。広告によってあらたに認知した見込み顧客が顧客になるまで時間がかかります。その顧客から得た収益を次の広告に再投資することを考えると、早ければ早いほど福利的に効果が増すのです。少なくとも論理的には。
しかし、しまむらは拙速をよしとせず、認知を得た見込み顧客をしっかり顧客化できる土壌を整えてからTGCでプロモーションを行ったのです。尊敬するマーケター佐藤義典氏のコンセプトを借りると、切れ目のないマインドフローを構築してから顧客獲得を開始したのです。

このしまむらのケースから得られる教訓は、認知されても店舗の不足や商品の魅力不足によって購買行動につながりにくい状態では、インパクトの強いプロモーションは機が熟すまで待ったほうが良いということです。しまむらは首都圏での店舗開拓と商品開拓を進めつつもテレビ広告や雑誌広告をずっと打ってきていましたが、TGCへの初めての参加という大きなインパクトが期待できるカードは効果を最大化する準備が整うまではとっておいたのです。ビジネスにおいては原則熟慮による遅滞よりも拙速を尊ぶべきですが、戦術によっては機が熟すのを待つべきこともあるということを覚えておくべきでしょう。

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2012/11/18

戦略論 大企業が良い戦略をもてないのはなぜか2

前回のポストでは良い戦略とはどのようなものかについて見てきました。現状を十分に分析、把握した上で方針(目標)を設定し、その方針を達成するために最も重要で最も効果のある一連の行動指針が戦略です
今回は大企業はなぜ優秀な人材を抱えているにも関わらず良い戦略に恵まれないかについて考えてみたいと思います。引き続きリチャード・P・ルメルト氏著「良い戦略、悪い戦略(日本経済新聞出版社)」を参考にしています。


なぜベンチャー企業が比較的良い戦略を持っていることが多く、大企業が持っていないことが多いのでしょうか。単なるエクスキューズではなく正当な理由として、大企業の方が事業環境が複雑であることがあげられます。ベンチャー企業は既存企業の正面衝突を避けてニッチな市場めがけてシェアを取りに行くビジネスモデルなので、自然と事業環境はシンプルになります。一方、大企業は競合も顧客もパートナーも多く、ひとつの方針転換が多くのステークホルダーの不利益になることが多いため、どうしても行動が取りにくくなります。

さらに事業自体が複雑でトップが全ての事業に精通することができないということも、適切な戦略を取ることの難しさに拍車をかけています。特に巨大コングロマリット企業のようになってくると、事業本部長やカンパニー長が事実上の社長になってしまい、実際の社長が正しい判断をするのは難しくなってしまいます。ホールディングカンパニーという形態はこのために生まれたのでしょう。

つぎに大企業が良い戦略を持つことができない原因として社内政治の存在があげられるでしょう。大企業の内部では出世レースという社内競争が発生します。大企業でなくどこでも社内競争は発生するのですが、大企業特有の問題は政党政治と同じで派閥ができてしまう点にあります。大企業になればプロモーションの対象になる優秀な人材はたくさん出てきます。一つの事業部でも数千人単位になる大企業では数多の役割があり、その役割で実績を出している人たちをゼロベースで比較検討して後任を決定するのは至難の業です。そうなると偉い人はヒューリスティックを使って後任を選び出すことになります。偉い人のヒューリスティックで選ばれためにはその人におもねることが正しい戦略になります(昇進のための「良い戦略」です)。こうして派閥というのが生まれるのです。

派閥が生まれてしまうと次期社長を決めるための派閥間闘争が生まれ、派閥間闘争では顧客のための事業戦略ではなくて「有権者を利するための事業戦略」が作られます。一方、現社長も会長に退いてからの影響力を保つために、シンパの中でもちょっと実力が足りなくて操作しやすい人間を後継者に推します。このような事態に至るともはや会社に最適な戦略を期待するのは困難です。ベンチャー企業はよくも悪くも社長と数名の取締役に決定権が集約されている独裁国家となっており、社内政治が生まれにくい土壌になっています。また、ベンチャーは大企業のように実力がないシンパにポジションを与えておく余裕はないため、政治的な人選も起きにくいでしょう。

成績不振にあえいでいる大企業のトップはリーダーシップに欠けています。その原因として、上記で見てきた事業や事業環境の複雑さと社内政治の影響力が強いと言えるでしょう。リーダーシップが欠如したトップは現状を正しく鑑みたシンプルで分かりやすい方針を立てることができず、戦略もうやむやなスローガンになってしまいます。私の会社の親会社はいわゆる親方日の丸大企業ですが、トップの仕事は各事業部の利益調整だと思っている役職者が多い気がします。こうした企業はこのままでは破滅に向かうか国営になるしかありません。大企業のトップはリーダーシップを取り戻すことが良い戦略を持つための第一歩です。


良い戦略、悪い戦略
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戦略論 大企業が良い戦略をもてないのはなぜか1


昨今総合電機メーカーの凋落やメガバンクの不振など、業界に限らず大企業の業績低迷が目立ちます。特に親方日の丸企業は特に惨憺たる状況です。こうした大企業が押し下げる日経平均株価を下支えしているのが元気なベンチャー企業です。大企業不振の主要要因の一つに明確な戦略とそれに対する一貫した行動の欠如があると思います。企業ページを見ていても、ベンチャーは戦略が明確に記されている一方、大企業ではスローガンのような耳障りがいいだけの言葉が並んでいます。
今日も引き続きリチャード・P・ルメルト氏著「良い戦略、悪い戦略(日本経済新聞出版社)」のコンセプトを借りて、なぜ大企業が良い戦略を立てられないのかについて考えてみます。

なぜ大企業が良い戦略を持つことができないかを論じる前に、まず良い戦略とは何かということを定義する必要があるでしょう。良い戦略とは最重点課題に対する最もシンプルな解決策です。実際に課題を解決するための行動は複雑であっても、解決の方針はシンプルに表現できます。例えばローカルなビジネスになりがちな園芸業者が、「成長のために全国展開」という方針(目標)を定めたとすると、戦略は「全国展開するために各地域ブロックごとの有力チャネルを開拓する」ということになるでしょう。方針も戦略も拍子抜けするほどシンプルですが、戦略に従ってすべての社員が一貫した行動を取るためには、これくらいシンプルであるべきでしょう。

ここで重要なのは、「成長のために全国展開」することが十分に現状を分析した上での結論だということです。思いつきやなんとなくの感覚で全国展開すれば売上が伸びそうだなぁ、程度の認識ではだめです。これ以上本当にローカルでシェアを上げることは難しいのか、シェアを上げなくとも顧客単価や購入頻度を上げることはできないのか、新たな顧客を開拓することはできないのか、一軒家からマンションへのライフスタイルの変化に対応する新たな新商品・サービスを提供するのはできないのか。このような現状への仮設を議論しつくされた上でベストな答えが方針であるべきなのです。そしてその方針は成長という最終目的に対する最も効果的な一撃でなければいけません。方針に従って行動されれば城の要石を破壊したように一気に目標が達成されるべきものなのです。

方針を定めたあとの戦略も同じように、目的の達成に考えうる手段について徹底的に議論を重ねて出された結論でなければいけません。ベストな答えを知ることはできませんが、最もベターな仮説を絞り出すまで議論するのです。全国展開する方法も、順次規模を拡大していくのか、一気に全国拡大するのかという方針を考える必要がありますし、拡大する方法は自社の支店を一つ一つ増やしていくのか、各地でパートナーを開拓するのか、M&Aで進出していくのか、というチョイスがあります。その中から自社のリソースを前提として、打ち立てた目標を達成するために最も効果的な方法を検討するのです。

さて、良い戦略とはなんぞやということについて説明してきました。本題である大企業が良い戦略を持てない理由については次回につなげたいと思います。


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2012/11/17

戦略論 ビジョンは必要か?

リチャード・P・ルメルト著「良い戦略、悪い戦略」という本を読んでいます。どういった戦略が結果を出せる優れた戦略なのか、どういった戦略が効果が出ない悪い戦略なのかを分かりやすく事例たっぷりに解説されています。

戦略の話をすると、最近では経営者のビジョンとか会社のビジョンというものが重要視されすぎている気がします。「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」だとか「いたずらに規模を追わず、誠意と独自の技術をもって、広く世界の文化と福祉の工場に貢献する」というビジョンが大企業で掲げられていますが、このビジョンがどれだけ企業の価値に貢献するのだろうかと疑問に思っていました。ルメルト氏も本書の中で、方針を示すわけでも目的を達成するための道筋を示すわけでもないビジョンは意味が無いとしており、企業の成功に必要なのは、一本芯が通った一貫性のある戦略とそれに則った行動だとしています。

例えば、AppleがアップルIIで大成功を達成した時、Appleと同じく「誰もが使えるコンピューター」というビジョンを実現しようとしていた起業家が沢山いました。ルメルト氏はAppleが勝利をおさめたのは、成功に至る明確な道筋を描いてその通りに行動し、さらに運も味方してくれたからだとしています。

アップルがそれに成功したのは、スティーブ・ウォズニアックという一人の天才によるところが大きい。ウォズニアックは、アップルIIの心臓部であるモトローラ製マイクロプロセッサを使って画像出力装置とフロッピーディスクを直接動作させる(したがって高価な後付製品を使わない)仕掛けを作った。さらに世界初のパソコン用表計算ソフト、ビジカルク(VisiCalc)が開発されるという幸運に恵まれ、それまで一部の人しか使わなかったパソコンを誰もが買うようになった。これが、アップルIIの爆発的ヒットにつながったのである。(p.105)

Appleは当時コンピューター関連の起業家が当たり前に持っていたビジョンを同じように持っていましたが、今後必要とされるオフィスでの計算処理に利用するというニーズに答えるための技術の開発を戦略として掲げ、実行したことが成功につながった要因だということです。誰よりも強くビジョンを持っていたとかそういった精神論はありません。さらに、ビジカルクが発売されるという追い風になる外部要因も大きな要因の一つでした。

ビジョンは経営者が起業する動機として持っていればよく、全社キックオフでわざわざ大々的に取り上げる必要はありません。ビジョンを達成するための一本芯が通った戦略を社員と共有し、一貫した行動を社員にとってもらうことに重点を置くべきだと思います。

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2012/11/16

アップセルは農耕型マーケティングデザインだ

昨日はクロスセルについて考察してみましたので、今日はアップセルについて考えてみたいと思います。

言葉の定義をおさらいすると、クロスセルはある商品を購入する顧客に、その商品と合わせて使用できる別の商品を勧めて購入点数・購入額を増やすことを目的とした手法でした。アップセルはある商品を購入した顧客に対し、さらに上位の商品を販売する手法です。定義では上位の商品を売ることを目的としていますが、実際は上位の商品を売り切って縁も切れてしまうよりも、ずっと自社の商品を購入してもらえるように自社のエコシステムにロックインすることが重要視されています。

普通の店舗でアップセルが実践されていることもありますが、アップセルでは前回購入履歴や購入者の趣味嗜好が重要になってくるので、会員制ビジネスやネットでの情報商材ビジネスのような顧客リレーションビジネスで活発に利用されている手法です。

百貨店の外商と呼ばれる富裕層向けの会員ビジネスがあります。富裕層の会員顧客宅に直接出向いて、購入履歴を元にその顧客に会った商品を提案し長くリピート購入してもらうことを目的としています。会員顧客の個人情報は細かな趣味嗜好まで押さえているのできめ細やかな対応ができますし、どのように提案すれば購入してもらえるかもよく心得ています。その結果、顧客を定期的に高額商品買い続けてくれるキャッシュマシーンにしてしまうのです。それだけアップセルはポイントを押さえれば強力な仕組みであるということです。

ネットビジネスの分野ではもっと露骨に活用されています。情報企業と呼ばれる分野では、アフィリエイトでの稼ぎ方や株式投資やFX投資での成功法などの情報商材が売られています。たいていの場合、初めは安価なセミナーやDVD講座、動画販売といったエントリー商品を用意しておき、エントリー商品を消費してもっと具体的な情報が欲しくなった顧客に、本当に売りたかった高額講座や塾、会員権といった商品を提案します。
このような典型的なアップセルのエントリー商品を「フロントエンド商品」、本当に売りたい高価格・高収益商品をバックエンド商品と呼びます。

私が尊敬するマーケター佐藤 義典氏はアップセルの流れをプロダクトフローと呼び、提供する商品と顧客の心の動き(マインドフロー)を対応させた手法として理論化しています。(参考URL:http://uretama.com/?page_id=111)
1つ目のステップは、「あげる商品(無料講座、または試供品など)」の提供です。目的は販売することよりもターゲットに認知してもらい興味を持ってもらって、見込み顧客化することを目的としています。
2つ目のステップは、「売れる商品(フロントエンド商品。低価格の有料セミナーなど)」の提供です。ここで初めて見込み顧客は自分の財布からお金を支払い、顧客化します。
3つ目のステップでは、「売りたい商品(バックエンド商品。高額な講座への加入など)」を提供します。この段階で顧客は商品を購入するだけでなく、そのブランドや人に対して愛着を感じ、そのエコシステムにロックインされた状態です。アップセルはこの顧客がロックインされた状態を目指してデザインされます。いかに認知もされていない状態からこのロックインされた状態までスムーズに顧客を誘導するかがアップセルのマーケティングデザインの肝です。

アップセルの優れたマーケティングデザインを築くことができれば、利益率の高い商品を販売できるだけでなく、顧客を自社のエコシステムにロックインすることができます。ある種、農耕型の仕組みで構築までに時間がかかりますが、一度システムができてしまえば少ない労力で利益を出し続けることができる仕組みです。もしあなたの商品が単発の販売だけになっている狩猟型のビジネスならば、アップセルのマーケティングデザインも考えてみてはいかがでしょうか。

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2012/11/15

クロスセルが成功する時、失敗する時



販売手法のテクニックとしてアップセル、クロスセルというものがあります。
アップセルは、次回購入時に前回よりも価格と付加価値が高いものを提案することと定義されています。吊り下げのスーツを買った顧客へ次回来店時にセミオーダースーツをすすめる紳士服店のようなケースを言います。
一方、クロスセルは購入時に別の関連商品を提案して購入点数を増やす手法と定義されています。マックでアップルパイもいかがですか?とすすめられるケースですね。
クロスセルは新規顧客の初回購入時にも使えるテクニックなので、短期的に売上を向上させる可能性をもっています。クロスセルが成功しやすいケース、成功しにくいケースを考えてみたいと思います。

クロスセルが成功する時の顧客の心境
顧客の中で何を購入すべきか明確に決定していない場合にクロスセルが受け入れられやすくなります。旅行での食事でどれにしようかなと迷っている時に、店員の方に勧められた通りに注文した経験が誰にもあると思います。ドラッグストアや雑貨店に多い、セット購入をすすめるPOPも迷っている顧客へのクロスセルを狙って設置されているんですね。

購入商品が決まっている顧客は成功し辛い
上記の裏返しです。これはわかりやすいケースだと思います。購入しようとする商品が断固として決まっていれば、別の商品を勧められたところで心は動きません。むしろ余計なお世話と感じることもあるでしょう。私はマルイで服飾品を買うことがありますが、指名買いする商品がない限りあまり行かないようにしています。見ているだけなのに商品を勧めてくるのが嫌なのです。

手軽軸の店はクロスセルが難しい
3つの価値軸で考えると、クロスセルの成功と顧客が求める価値軸が密接に関係していることがわかります。

久しぶりなので3つの価値軸を今一度おさらいします。
3つの価値軸とは、米国経営コンサルタントのトレーシー&ウィアセーマによるポジショニング理論を私が尊敬するマーケター佐藤義典氏がさらに分かりやすく再編した理論です。企業は3つの価値軸のいずれかを選択して特化することにより、競争相手から抜きん出ることができます。

1. 手軽軸 = 安い、早い、うまいという顧客のコストメリットを最大化するモデル
2. 商品軸 = 最高級、最高スペック、超レアモノのような、商品自体の価値を最大化するモデル
3. 密着軸 = 顧客の個別のニーズに応え、最適な商品を提供(製造する場合も)するモデル

手軽軸の店は、総じてクロスセルが難しいという特徴があると思います。手軽軸の店を選択する顧客は、アクセスのしやすさ価格の安さという価値に重きをおいているわけですが、中でも価格の安さで購入する店舗を決めている顧客に、買うと決めている商品以外の商品を売るのはなかなか難しいものです。価格軸の店を利用する顧客は基本的に目的買いだからです。
私はマックをよく利用しますが、その理由は私にとってマックは安いのにそれなりの食事ができ、またそれなりに快適に過ごせる場所だからです。1回あたりの総額が500円を超えるならばもっといいものを食べますし、勉強や仕事のために利用するならスタバに行きます。そんな私からすると、アップルパイいかがですかというクロスセルにまず応じません。単価の高いバーガー類もまず買いません。毎回100円マックか単価120円の商品の組み合わせで400円以下で済ませます。
それでも手軽軸の店でクロスセルを使う企業が多いのは、手軽軸のビジネスモデルで利益を減らさずに売上を伸ばす手法が限られているからでしょう。手軽軸のビジネスモデルで売上を増やそうとしたら、値下げが一番です。なぜならそれが顧客が一番求めているものだからです。しかし、これでは企業側が持ちません。クロスセルは新たにコストを生むことがないので、成功率が高くなくとも手軽軸の店で頻繁に使われるのでしょう。

商品軸の店舗はクロスセルが有効
手軽軸と比較すると、商品軸の店はクロスセルがしやすいはずです。商品軸の商品は専門性が高かったりプレミアム感があることによって、その商品を扱う店員の信頼度を高める効果があります。それゆえに商品軸の商品を求める顧客は店員のアドバイスをもとに商品を決めることが多いので、クロスセルが成功しやすい条件を満たしていると言えます。
化粧品がこのケースの好例でしょう。高級デパートで化粧品を買うような場合、販売員の方の勧めるままに複数商品の組み合わせを買ってしまうことが多いようです。専門家である販売員のアドバイスに従おうという心理が働くのでしょう。実際は2倍、10倍の値段の化粧品を使ったところで2倍、10倍美しくはなれません。しかし、それでも顧客の満足度は高くなる傾向にあるので、商品軸とクロスセルは相性が良い組み合わせなのでしょう。

クロスセルは密着軸の構成要素
最後に密着軸との関係性を考えると、クロスセルは密着軸の構成要素であると言っても過言ではありません。別の言い方をすると、密着軸を求める顧客は、クロスセルを受けることを当然としている、求めているということです。密着軸に価値を感じる顧客は自分に最適な提案を受けることを求めているので、アップセルやクロスセルを最適な提案を受ける上での必要条件と思っているのです。自分の感性に合うという理由で贔屓にしているメンズスーツのブランドがあれば、スーツを仕立てるのが目的で来店したときにもそのスーツに合うYシャツやネクタイやコートを提案してくれることを求めているのです。逆にこうした提案がないと、この店は密着軸の店舗としての価値を失ってしまうのです。

これらの考察は私の実体験に根ざしているものがほとんどですが、全部とは言わないまでもなんとなく共感を得られるのではないでしょうか?
これらの特徴からどのように自分のビジネスに活かせそうか、考えてみてはいかがでしょう。

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2012/11/14

サラリーマンがサイドビジネスを持つべき理由

私はサラリーマンも自分のサイドビジネスを持つべきだと思っています。戦略をもって出世コースを登ろうとしているのでなければ、会社の仕事に忙殺されるだけでなのは社畜です。サイドビジネスを手がけることによって、サイドビジネスでしか身につかないビジネススキルを獲得し、会社の仕事に活用して相乗効果を生み出すはずです。そして、経済的に自立した立場を勝ち取ることができれば会社と対等な立場に立つことができ、本当にやりたい仕事と向き合えるようになるのです。
サラリーマンがサイドビジネスを持つべき3つの理由をあげてみます。


自分でリスクを取ってビジネスをする感覚を養う
サラリーマンとして仕事をしていると、自分でリスクを取って仕事をする機会がありません。部下に責任を擦り付けるような会社は論外ですが、もしあなたが一般社員や課長レベルなら、普通の企業では自分が責任を取ろうとしても取らせてくれません。いつだって責任を取ることが出来るのは自分の上役なのです。
部下の失敗に対して上司が責任を取るというのは美談のようにも聞こえますが、自分でリスクをとって挑戦してみたい部下にしてみれば、自分の失敗に他人を巻き込む厄介な仕組みでしかありません。しかし、この仕組みは会社の存続のためには最適なのでしょう。地雷原にどんどん突っ込むような社員ばかりでは会社は成り立ちません。会社に所属する限り、出世コースを登って自分で責任を取れる立場にならないと、自分でリスクを取って自分の考えで推し進めることができません。
このような会社というシステムの中では、本当の意味で自分の仕事をする、という機会に恵まれません。自分でリスクをとって行うビジネスと、そうでないビジネスでは、真剣味が違いますし、そこから得られるスキルや学びも深さが全く違うでしょう。


ビジネスに対して本気で取り組む
これもリスクを自分で取るということにも通じますが、自営業者やベンチャー企業経営者のようにビジネスに失敗したらそこからの収入源がなくなってしまうという緊張感のある状況に身を置くことも大切です。
そういう緊張感の中にあってはじめて、本気でビジネスについて考えることができると思います。個人差はあると思いますが、会社から与えられた仕事に対して自分のビジネスと同じ位本気で取り組むのは難しいはずです。
とは言うものの、サラリーマンをしながらのサイドビジネスとオーナー社長のリスクは大きく異なります。サイドビジネスがこけてもサラリーマンとしての仕事は残るので、オーナー社長と同じレベルの緊張感を得るのは困難でしょう。しかし、サイドビジネスとはいえある程度自分の時間と資金を投じているので、失敗しても定額の給与がもらえるサラリーマン仕事よりは間違いなく本気で取り組めます。
サラリーマン仕事は組織単位で責任感が分散してしまうので、自分がビジネスオーナーになった時ほど真剣に考え行動できるものではありません。さらに、組織最適な行動原理が身についてしまい、顧客本位、ビジネス本位な見方ができなくなります。サイドビジネスを持つことによって、会社組織では得ることが難しいビジネスマインドを身につけることができます。


会社からの経済的自立を勝ち取る
正社員という雇用形態の最大のメリットは、よほど大きな失敗や、よほど使えない人材でない限り、安定的な給与にありつけると言うことです(今のところ)。しかしこれを逆の視点から見ると、会社にとらわれ、言いなりになると言うことで、自分のキャリアに対する権利と責任を実印ごと会社に預けているようなものです。正社員が安定した雇用になったのは戦後から始まった歴史の浅い習慣で、いつこのシステムが瓦解するかわかりません。社内でしか通用しない社畜になってしまった人がこのシステムから放り出されたら、生き残る術はありません。
サイドビジネスを持って会社の給与だけに頼らない仕組みを獲得できれば、自分に必要のないポジションへの異動は断ることができますし、給与が下がったとしても自分が追求したいキャリアを追求することができます。経済的な自由を獲得し、会社と対等な立場なのですから。


一つ誤解のないようにお伝えしておきたいのは、決して会社の仕事をおざなりにしていいということではありません。サイドビジネスはサイドビジネスである限り、本業をサポートすべきものです。サイドビジネスを本業にするときに初めて優先度を入れ替えるべきです。
最近は、ネットでアフィリエイトやオンラインショップなどサイドビジネスを始めやすい環境が整ってきています。この期を逃す手はないでしょう。


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2012/11/13

数字に騙されるな

数字はあなたが自分自身で分析のために使わない限り、常にあなたを騙すためにあると言っても良い。

コスト改善策の結果利益率が何倍になったという話をよく聞くが、もともとの利益率が0近いので、少し改善しただけでも数倍という結果を残すことができる。これは利益額でも同じことである。

では売上額ならどうか。売上額は、ある程度成熟した企業なのであれば、急激に何倍にもすることは難しい。しかしその背後に何があったかを調べなければ、やはり騙されてしまうことになる。M&Aや粉飾があれば簡単に売上も偽装できるからだ。

だから、新しくアサインされたCEOがドラマティックに数字を改善させたからといって合格と判断するのは尚早だ。いくらコストを切り詰めて利益を出しても、縮小均衡に陥っていないか質的な結果も見なければならない。

売り上げが伸びたとしても、それが本業によるものなのか、粉飾ではないのか、良い傾向なのかを判断しなければならない。

ビジネスにおいては、まず数字がなければ議論の土台が生まれない。日系企業は、この数字がなくても、思いや配慮やその人の評判で決断が下されることがあるが、これは大きな間違いである。経験がうまく作用したのか、当てずっぽうがうまくいったのか誰も判断ができない。たとえ経験値によってうまくいったのだとしても、再現性が全くない。

一方、数字一辺倒の外資が必ずしもいいわけではない。上で述べてきたように数字はいいように使われて自分の理論をサポートするために使われるからだ。だから、外資系の優秀なマネージャーは自分で数字の裏取りをするはずだ。極論すると、人が出してきた数字は全く信頼すべきないのかもしれない。

自分に都合の良い数字をレジュメに着飾って、目標とするポジションをゲットしようとしているSEがいるかもしれない。自分たちの提案した戦略を採用してもらうために、数字を操るコンサルタントがいるかもしれない。
もちろん部下だって自分に有利な数字を出してくるかもしれない。彼らは巧妙なトリックを使い、決して嘘をついているわけではないので、頭から彼らが出してきた数字を信用して決断をしてしまえば、責任をあなたに移ってしまうのだ。
自分が出した数字以上に信頼できる数字はない。


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