2012/11/06

「コアバリュー切り出し」によるビジネスモデル発想1

ビジネスモデルのイノベーションによる価値創造は決してビジョナリーな一握りの経営者だけのものではありません。優れた経営者のアートのようなイノベーションを、多くの経営学者がサイエンスで解明して再現性のある経営術を導く努力を続けています。その中で一つ演繹的に導き出されたビジネスモデルのイノベーションが「コアバリュー切り出し」によるイノベーションです。

コアバリュー切り出しのイノベーションとは、既存のビジネスモデルがもたらすバリューチェーン(例: 1>2>3>4の4つの付加価値ステップ)のうち、最も顧客にとって重要な一部(例: 4つのステップのうち、2>3だけを切り出す)を切り出すという考え方です。本稿で参考にしている山田英夫氏著「なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編(日本経済新聞社出版)」では「マイナスの差別化」としていますが、この方法論は顧客の付加価値を減じていないどころか、むしろバリューチェーンから付加価値ステップを減らすることによって顧客にとっての付加価値をトータルで高めているので、「コアバリュー切り出し」のほうが正確な意味が伝わると思います。

この発想法で生まれたイノベーションの代表例は、10分カットで有名な理髪店チェーンのQBハウスです。一般的な理髪店は、カット>ヒゲソリ>(場合によっては)マッサージ>洗髪>セットというバリューチェーンであるところを、QBハウスはバッサリと単純化してカットだけに絞って大幅に時間と価格を短縮したことが革新的です。理髪店の利用者の心理からすると、理髪店に行く理由は基本的にカットだけが目的で、ヒゲソリは自分でできますし、マッサージはなくても良いものです。洗髪も髪を洗うことが目的なのではなく、切ったあとに出た髪のゴミを綺麗にしたいだけなのです。これを理解していたQBハウスの創業者小西國義氏は、カットと髪ゴミの掃除だけに付加価値を絞って理髪店を再パッケージしました。ヒゲソリ、マッサージ、洗髪、セットの付加価値を省いても顧客にとっての付加価値はほとんど減らず、その結果得られた低価格と短時間という価値は顧客にとって大きな付加価値になっているのです。カット以外のバリューチェーンはむしろいつの間にか理髪店がこれまでと同じ料金をもらうためのエクスキューズになっていたのです。


■コアバリュー切り出しイノベーションのメリットとデメリット
コアバリュー切り出しによるビジネスモデルのイノベーションについて、メリットとデメリットを考えてみます。

コアバリュー切り出しによってバリューチェーンを簡略化すると、自然とオペレーションが簡略化されます。その結果コストダウンにつながり顧客価値を高めます。例えば、ユナイテッド航空は大手航空会社の一般的なモデルであるハブ・アンド・スポーク型を避けて2点間の往復輸送に特化したため、大手航空会社が複数種類の航空機を使用する一方、航空機を一種類に絞ることによってメンテナンスコストとトレーニングを含む人件費を下げることに成功しました。

また、新たなプレイヤーとしてコアバリュー切り出しによって既存の市場に殴り込みをかける場合、経営資源やノウハウがフルサービスのビジネスモデルよりも少なくて済むので事業を立ち上げやすいというメリットがあります。ベンチャー企業のスタートアップや異業種参入に向いた戦略です。しかも、大手は既存事業とのカニバリズムを恐れてコアバリューに絞ったビジネスモデルへ変更しにくいので、体力や資金力が豊富であるにもかかわらず新たな市場参入者がパイを奪っていくのを横目で見ているしかないことがあるのです。

既存大手の企業は守勢にまわらざるを得ません。既存のバリューチェーンの簡略版なので、踏み込もうとすると人材やノウハウなどの経営資源が無駄になってしまいます。削られたバリューチェーンを担っていた人材は配置転換を迫られるかレイオフが求められ、あるいは事業を切り出して売却するという手段を迫られます。しかも短期的に売上は減少するでしょう。子会社を作って同質化戦略を用いることもできますが、既存事業とのカニバリズムが発生することは避けられません。積み上げてきた経営資源が自社にとっての参入障壁になってしまうとは皮肉です。


■適したマーケット
次に、コアバリュー切り出しイノベーションを用いた市場参入に適したマーケットを考えてみます。

フルサービス、つまり多くのバリューチェーンステップをもつビジネスモデルが当然とされている市場が適しています。別の言い方をすると、市場のメインプレーヤーが皆同じビジネスモデルで競争している市場とも言えます。冠婚葬祭や医療関係など、これまで何から何までやってくれるのが当たり前であるサービスに機会があります。しかし、前提条件としてバリューチェーンの中に顧客にとっての付加価値が低いステップが含まれていることを確認しなければいけません。一つ一つのパーツの全てが顧客にとって付加価値があるサービスなのに一部を省いてしまえば、それは不完全なサービスに過ぎません。

別の切り口として、ある程度大規模な先行投資が必要なビジネスほどコアバリュー切り出しによる参入の効果が高まるでしょう。既存大手企業にとって、先行投資が大きければ大きいほど投資を回収せずに縮小化の方向に舵を切るのは難しくなります。


明日はコアバリュー切り出しイノベーションで市場に参入する戦法、そしてその参入者から既存企業がどう反撃すべきかを考えます。


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