2013/04/30

企画家を活用するために会社がすべきこと 後編


前回のエントリー、「企画家を活用するために会社がすべきこと」の後編。

前回、今回のエントリーで列挙している「会社がすべきこと」は、私が実際に会社の新規事業企画メンバーとして携わった中で気づいたことを書いている。
だから必ずしもここに書いてあることが一般論として通用することではないし、その通りにしたところで成功確率が上がるかは分からない。
それぞれの会社は環境が異なるもので、かつ新規事業を立ち上げるという特殊なケースであれば尚更一般論を導き出すのは難しい。
それでもこうした条件が揃っていれば企画メンバーはやりやすいだろうな、ということを書いていきたい。


新規事業立ち上げのために経営者が整えておくべき環境

・事業化にあたっての事業部の協力体制

企画段階とテストマーティングを経て、いよいよ本格的に事業を立ち上げようとするときに社内の協力が得られないと、事業の立ち上げは一気に失速してしまう。
状況によるが、企画やテストマーケティングは少数の企画室メンバーが行い、ある程度可能性が見えてきた段階で事業部へビジネスを引き継ぐケースが多いのではないだろうか。
しかし、その事業部長やその下の各部の部長が新規事業立ち上げの協力を惜しみなく行わなければ、生まれたばかりの雛のような一番か弱い状態にある新規事業はすぐに空中分解してしまうだろう。
だが、現実はビジネス部門の協力体制を上手く得られないケースが多いのではないだろうか。

ビジネス部門の事業部長や部長が乗り気でないのは、事業部と企画室の価値観が異なることと人事考課の評価軸が異なることに端を発している。
彼らにとっては今の事業をしっかり回すことが最重要課題なのであり、またそれが彼らの評価軸である。
新規事業は余裕があれば協力する、程度で十分だと考えている。
本来そのアティテュードが正しいし当然なのだ。

だから社長や役員は、しっかり新規事業の重要性を解いてビジネス部門に新規事業への協力を求めなければならない。
それなのに、社長や役員はビジネス部門が当たり前のように協力するだろうと思っている。
ビジネス部門から色よい返答がなければ、慌てて何故協力できないのか詰問し、今のビジネスを守らなければならないという至極真っ当な理由を聞いてうろたえ、変な妥協点を探ろうとし始めたりするから始末が悪い。

ビジネス部門は新規事業が長期的な企業の成長に必要だと百も承知しているが、それが既存顧客へ迷惑をかけ、自部門の社員に負担を掛け、自身の評価に全くつながらないのであれば誰もリスクを取りたがらない。
だから経営者が新規事業の立ち上げ重要性をしっかりとビジネス部門の幹部へ説明し協力を取り付けることが不可欠だ。
そして、新規事業への貢献をビジネス部門幹部の評価軸に加える事だ。


・新規事業を立ち上げるという明確なトップの意思

全ての項目に共通することだが、まずはトップが新しい事業を打ち立てる必要があるのだという断固とした意思を示すことだ。
こうした断固たる意志がなければ企画メンバーの士気は下がり、ビジネス部門も経営者の顔色を見て適当に協力したふりをしておけばいいだろうという考えになってしまう。

特にサラリーマン社長にありがちだが、売上・利益低下への対策としてとりあえず新規事業企画部門やプロジェクトを立ち上げることがある。
こうした場合、事業の具体的な方向性が全く決まっておらず、また経営者のコミットメントも高くないため、先にあげたような新規事業立ち上げの下地が会社にできていない。
結果、プロジェクトが空中分解したり、先が見えない失敗作ビジネスが立ち上がってしまう。
こんな結果を望まないのであれば、経営者が本気である意志を示す必要があるだろう。


いろいろ経営者に対する要求をあげたが、企画メンバーのやる気とスキルと熱意が一番重要であることは言うまでもない。
上記にあげたような、全ての条件がベストな状態で取り組めるということもありえない。
むしろそんな環境では緊張感が少なく、メンバーがパフォーマンスを発揮しきれなくなってしまうだろう。
だが、経営者は新規事業を立ち上げるという大仕事を成し遂げたいのなら、下地を整えることを怠ってはいけない。


関連エントリー

企画家を活用するために会社がすべきこと 前編


前回のポストでは起業家型と企画家型の新規事業立ち上げスタイルについて、それぞれのメリットとデメリットについて見解を示してみた。
どちらかというと、資金集めや組織づくりに時間とエネルギーを注がなければいけない起業家型よりも企画家型のほうが、素早くインパクトの大きい事業が立ち上げやすいのではないか、だから企画家型のほうが良いのではないか、という論調になってしまった。
しかし、決して起業家型よりも企画家型のほうが必ずしも簡単に事業立ち上げができるというわけではない。
事業が成立して日々の業務が動いている会社で新規事業という異質なモノを始めようとするには、それなりに手はずを整えて取り組まなければ起業家型よりも苦労することになる。

既存企業が新規事業に取り組むにあたっては、特に経営者が留意すべき点が多い。
社内に企画家が現れるのを待っているだけでもだめだし、企画室を作りさえすれば良いという訳ではない。
私が新規事業企画室を経験して、こうした体制が整っていればもっと新規事業を生み出しやすいだろうな、と感じたことを提案してみよう。

新規事業立ち上げのために経営者が整えておくべき環境

十分なリソースの確保

資金、人材、そして次の項目であげる人脈も含め、どれだけのリソースを確保できるかで新規事業の成功確率は変わってくる。
できるだけ多くの資金や人材があれば、立ち上げの成功率は上がるだろう。

しかしながら、必要十分以上の新規事業立ち上げ資金を捻出できるほど儲かっている企業が、新規事業の立ち上げに本腰を入れることは少ない。
既存事業に暗雲が立ち込め、すでに利益が減少してあまり新規事業に資金を使えない状態になって初めて新規ビジネス立ち上げの必要性を感じるのだ。
潤沢な資金がある方が好ましいが、資金が不足している状態でこそ企画家の真価を発揮する番だ。

必要十分な資金を集めることはほとんどの場合難しいが、1つだけ絶対に必要なコミットメントがある。
それは、ある程度金をドブに捨てるつもりで、新規事業に割いた予算は企画メンバーの自由に使わせることだ。

私の経験で、立ち上がりかけの新規事業を既存事業部へトランスファーした際、この事業のために用意されたマーケティング予算があったのだが事業部長の一存で一切使わせてもらえないという事態が発生した。
事業部長としては事業部の利益目標達成が厳しい状態なので、販管費を抑えた、という至極正しいオペレーションをしただけなのだが、新規事業の場合マーケティングにかける予算が少なすぎることで露出が足りず、ターゲットユーザーへ自社商品を知ってもらうことが困難になった。
事業立ち上げは初期にこそ多くの資金が必要になるという共通認識を社内で持っていなければならなかったのだ。

社内外の人脈の共有

新しい事業が既存事業分野と異なる場合、新しく踏み出す事業領域の有識者や企業とのつながりが欲しい。
自社がノウハウを持たない事業領域の企業とアライアンスを組めれば、スピード感のある事業立ち上げが可能になるだろう。

だが、アライアンスを持ちかけたい企業に対して人脈がないとなかなか話を聞いてもらうのも難しい。
私がいた会社は大企業子会社であったため話しぐらいは聞いてくれることも多かったが、企業名にブランドがない会社はまず門を開いてもらうことすら困難だろう。
このため、社員一人ひとりがもつ社内・社外の人脈を最大限に活用することが求められる。
そのためにも、新規事業立ち上げは直接関係のない事業部メンバーにとっても自分事として捉えてもらえるように地ならしされていることが好ましい。


長くなってきたので、後編へ続きます。

2013/04/28

起業家スタイルと企画家スタイル



新しい事業を立ち上げるにあたって、大きく2つのアプローチがある。
それは自分で会社を立ち上げて新たな事業を始める起業家スタイルと、企業に属してその企業の中で新たな事業を立ち上げる企画家スタイルだ。


起業家的な新規事業企画のメリットは、自分が正しいと思える事業を自分の裁量で立ち上げられる自由度があることだ。
起業家はその会社の最高経営責任者なので、ほとんどの場合社内に抵抗勢力がなく自分の考えで事業を立ち上げることができる。
しかしながら、起業間もない会社は常に資金が不足しているので、起業家は資金提供者を探すことにかなりのエネルギーを割かなければならない運命にある。
そして、企画家が社内から受ける制約ほどではないが、投資家の期待に応える事業運営をしなければならない。

世の中には特定のスポンサー・投資家がついた状態で事業を始めることができる運の良い起業家もある。
スポンサーの付いている起業家は資金提供者を探すという大仕事を免れるが、スポンサーの意見に方針を大きく左右されることになる。
ある意味では、権限の大きさが大きい企画家ということになる。


企画家は社内の資産を使って新規事業を立ち上げるスペシャリストだ。
社内の資産とは主に新規事業開発に必要な人的資本と金銭的資本、そしてその会社が持っているノウハウやブランドといった無形の資本が含まれる。
特にノウハウやブランドといった無形の資本を作り出すのはとても時間がかかるので、それらを持っていない起業家と比較すると企画家は大きなアドバンテージを持っている。

また、起業家のように多大なエネルギーを資金を集めるために浪費する必要がなく、新規事業の企画のために全エネルギーを集中させることができる。
その代わり、社内の社長から役員から部長、他事業部などさまざまなステークホルダーとの利害調整を余儀なくされるのが企画家の宿命だ。


昨今ニュースで新鋭起業家の成功譚がとりざたされるので、新しい事業を起こしたいと思ったら起業家にならなければいけない、という考え方を持つ人が多いようだ。
しかし、企業内で事業を立ち上げるという考え方がもっとあってもいいと思うのだ。

前述のようにすでに存在している企業は、事業を立ち上げるために必要な資産の多くを所有している。
もし起業家として事業の立ち上げをするのであれば、全てを1から集めなければならない。

目の肥えた投資家に、企画段階で資金を出させるのは難しい。
だから、ある程度形になるまで自分の資金を使うか、家族・親類・友人などから資金を集めることになる。
それに比べれば社内を説得して事業立ち上げ資金を獲得するほうが容易いだろう。

このため、起業家のビジネスはスモールスタートであることを余儀なくされ、社会的なインパクトを持つ事業になるまで早くて数年、普通なら10年以上かかることもざらだ。
対して企業内企画家として事業を立ち上げるならば、既存の資金や人材を投入して素早く事業を立ち上げ、既存の顧客リストを使い、一気に大きなインパクトを持つ事業へ育てられる可能性がある。

自分が一国一城の主になりたいのであれば起業家というスタイルが正しいのかもしれないが、経済的・社会的インパクトの大きい事業を立ち上げることに主眼を置くのであれば、社内企画家というポジションが有効なのではないだろうか。

2013/04/26

中国コミュニティを参考にできない日本

チャイナタウンの送金窓口

シンガポールのチャイナタウンには沢山の海外送金専用の銀行窓口がある。
物価水準も所得水準も高いシンガポールは、中国人にとって格好の出稼ぎ先であることを表している。

特に移民がまず最初に働く場所として多いのが飲食店だが、実際にチャイナタウンの飲食店に行くと英語が喋れない中国人がとても多いのだ。
なので私のような中国語の喋れない観光客が来ると結構困ったりする。


このようなチャイナタウンの光景は、私が行ったことのあるどの国にもある姿だ。
そしてこのチャイナタウンの存在は、世界中で華僑が成功するための下地となっている。


前述のとおり、チャイナタウンに住んでいる中国からの移民は現地の言葉を喋れない人が多い。
チャイナタウンはそれだけ強力で包括的なコミュニティなのだ。
包括的と言ったのは、そこだけで生活を完結できるくらい、このコミュニティが完成し成熟しているという意味だ。
他の国のチャイナタウンに行ってみても、中国語しか喋れない人が結構おり、どの国においても中国移民にとって居心地の良い受け入れ先になっていることがわかる。


シンガポールの歴史を見ても、中国からの移民が現地でビジネスを成功させると現地チャイニーズコミュニティの会長になって、中国からの移民の受け入れの世話をするという仕組みができている。
有名どころで言えばタイガーバームの胡兄弟もそうだし、シンガポールの中国コミュニティに貢献したタン・カーキーもそうだ。
中国コミュニティではさらに出身地ごとに細分化されて「バン」というコミュニティを形成し、出身地からの移民者を世話する仕組みができている。
これがどの国でも行われているものだから、中国系の実業家は世界中の至るところに存在するのだ。


単一民族国家である日本からすると、他所の国に勝手に「ミニ中国」を作るのってどうよ、と思う向きもあるかもしれない。
だがそのお陰で世界中で華僑が実業家として活躍しているという事実を鑑み、日本人にも学ぶことがあるのではないだろうか。
日本人が海外に出ようとすると、こうしたコミュニティの後押しがなければ人脈もなく、自分の腕一つでやって行かなければならない。

わざわざ海外に出ずとも国内だけで殆どの人が満足に生きていけるくらい日本が成熟していることは喜ぶべきことだが、シュリンクする国内で斜陽のもとで粛々と日々生活するだけでいいのだろうか。
海外へ飛び出したいという日本人の若者を受け入れる仕組みがもっとあればいいのにと思わずにいられない。

途上国と労働生産性


今回東南アジア諸国を旅していて気づいたのは、発展途上の段階にある国ほど労働生産性が低いということだ。
労働生産性を高めるための仕組みが不足しているということも理由の一つにあげられるだろうが、人々が労働生産性を追求していないことも原因の一つではないだろうか。

今回訪問したシンガポール、カンボジア、マレーシアのなかで最も発展が遅れているカンボジアではホテルやレストランで働いている人員にどう見ても余剰が多く、これだけ余分に人がいて潰れないものかと余計な心配をしてしまった。
また、彼らの活動を見ていると、付加価値を生み出している稼働時間が短く、恐らく50%に満たないレベルなのではないかという状況であった。

しかし、よくよく考えて見れば労働者の給与と比べれば観光客向けのレストランやホテルは相対的に高価で、多少人員がだぶついていても十分に利益をあげられるのだろう。
例えば、カンボジア人の平均所得が2年前のデータで年間$830なので、いまでは$1000程度、つまり月額$80ほどになるだろう。
日給で言えば、$4弱程度だ。

それに対し、観光客が普通に飲み食いすると1食$7〜10、ホテルの宿泊費は一人一泊$50程度だ、
日本人の感覚で言えば、観光客は1食3万〜4万円、ホテルに一泊20万ほど払っていることになる。
それだけ労働者の単価と顧客の支払額に差があれば、十分成り立つということなのだろう。

カンボジア人たちは仕事の合間によく昼寝をしているし、とても人懐っこくて観光客に気軽に話しかけてくる。
気さくで明るくて、私としてはとても好きな人々だった。
彼らをこのような途上国特有の明るくてあっけらかんとした正確にとどめているのは、こうした労働生産性を求めないゆとりのある労働環境に一つの理由があるのではないだろうか。
彼らを見ていると、多少生活は不便な面もあるのかもしれないが、果たして彼らと自分たちを比較してどちらが人間的に満たされた生活をしているのか考えてしまうのだ。

2013/04/25

観光地経済とグローバルな観光需給関係


どの国もそれぞれの国に適した物価というものがある。
何の商品の価格を基準にするかによっても変わってくるが、日本の物価に対する中国の物価だったら概ね1/5程度、東南アジア諸国であれば大抵更に低いものだ。
様々な要素が物価の形成に寄与するが、基本的に国民の所得によって決まる。

しかし、その国の平均所得などに左右されず、国家を超えてグローバルな需給関係で決まる物価がある。
それは観光地物価だ。

今私は世界遺産であるアンコールワットがあるカンボジアの街、シェムリアップに滞在している。
カンボジアの平均所得は2年前に$830を超えたというニュースがあったので、現在でも$1000前後だろう。
日本との所得の差は30〜40倍あるので物価の差は10倍以上は軽くあるはずなのだが、どうも観光地の価格を見るとほとんど物価が変わらない。

500mlペットボトルは1ドルで売られているし、観光客向けのレストランでランチをすると7ドル程度もする。
それに対し、カンボジア人の所得は一日3〜5ドル程度なので、いかに法外な値段なのかがよく分かる。

観光地の物価はその国の物価にもいくらか影響を受けることは確かだが、その影響の程度はあまり大きくない。
とくに観光客だけで成り立つ店舗やレストランではその傾向が更に高まる。
観光地経済はどちらかと言うと、その国の経済状況よりも、その国を訪れる人々の経済状況によって価格が左右されるのだろう。

その観光地の競争力が高まって観光客が訪れやすくなる、いわゆる売り手市場状態になればレストランや土産物の価格は上がるだろうし、観光地の競争力が下がればレストランや土産物の価格も下げざるを得ない。
観光地の経済は必然的にグローバル競争にさらされるのだ。

2013/04/22

プロムナードでマリーナベイサンズのショーを見てるカップルに花を売りつけるとは…

マリーナ・ベイのプロムナード

観光客向けやエンタープライズ向けのビジネスはともかく、ローカルビジネスはある種原始的で、商売の基本を思いださせるような場面に出くわすことが多いのだ。

なかでもちょっと面白かったのは、ベイフロント沿いのプロムナード(湾沿いの散歩道)で花を売るカップル。
マリーナ・ベイ・サンズを始めマリーナ・ベイが一望できるので、夜にはたくさんのカップルがプロムナード沿いのベンチで語らっている。
そこに、一輪の赤い花を綺麗にラッピングした束を持ったカップルが現れ、他のカップルに売りつけているのだ。

その売り方がなかなか上手いもので、カップルの女性の方に「花をプレゼントして欲しいですよね?」と営業をかける。
うっとりするような夜景とシチュエーションで断る女性がいるわけがなく、相手の男性は有無をいわさず買うことになるのだ。
遠目だから正確な値段は分からないが、5〜15シンガポールドルで、日本円で言えば400から1200円程だ。
一輪の花にしては高い。

もう一つ上手いなあと思うのは、売り手も同じような若い善良なカップル風なので、相手のカップルも警戒することがないのだ。

マーケティング的に言えば、DU(Decision Making Unit)とCU(Consuming Unit)の役割を兼ねているカップルの女性に営業をかけて、なんの決定権もないPU(Paying Unit)である男性に、観光客価格で花を売る。
しかもカップルの雰囲気が最高潮に達する夜のプロムナードで。
シンプルでありながら、高度に戦略が練られた商売の本質とも言えるビジネスではないだろうか。

生産年齢人口に支えられているシンガポールの経済


シンガポールの街を歩いたり、MRT(地下鉄)に乗っていて気づくのが、国民全体の若さだ。
私があまり老人が多い場所に出向いていないだけかもしれないが、全体的に非常に国民が若い。
感覚的には、街を出歩いても50代、60代以上ばかりが目立つ日本と比較すると、国民の大半が10代〜30代なのではないかと思うほどだ。


実際に生産年齢人口率を見るとその差は明らかだ。

日本の生産年齢人口率(15歳〜64歳の人口率)は64.2%なのに対し、シンガポールでは74.2%と10%も差があるのだ。
この数字は経済発展が著しいアジア諸国でも顕著な数字で、東南アジアの国々のどこよりも高い。
シンガポールは今まさに旬であることが生産年齢人口率から見ても明らかだ。


しかし、シンガポール国民の年齢のアドバンテージは必ずしも永続するものではない。
実際問題、JETROによると2025年にはシンガポールの生産人口は他の東南アジア諸国よりも下位に陥ってしまう予測が立てられている。

数字を見てみると2025年の予想生産年齢人口率は64.7%だ。
現在よりも低くなるであろう日本の59.3%と比較するとまだマシだが、だいぶ差が縮まってしまうことがわかる。
それだけシンガポールでは急速に高齢化が進むことが予測されているのだ。

一方、他の東南アジア諸国は、マレーシアが67.8%、タイも67.8%、インドネシアは69.9%でフィリピンは65.2%、そしてベトナムは69.3%だ。
つまり、全ての東南アジア諸国に逆転されてしまうのだ。
しかも生産年齢人口率を下げたのはタイだけだ。


なぜこのような事態が発生するのかというと、0歳〜14歳の若年人口の問題があるからだ。
東南アジアは現時点でまだ生産年齢に達していないが、今後生産年齢人口に至る若年層が厚い。
シンガポールの若年人口率が15.6%なのに対して、最も低いタイでも21.5%、最高のフィリピンではなんと33.5%に及ぶ。
ちなみに、日本は13.2%でさほどシンガポールと変わらなかったりする。


これらのデータが示すのは、シンガポールは今が絶頂期であって今後下がり続けるという仮説だ。
しかし、私は他の国で言えば必然的にそういう仮説になるかもしれないが、シンガポールでは必ずしもこれは当てはまらないだろうと予測する。
なぜなら、シンガポールは海外から裕福で教育水準の高い移民を集めやすくなっているからだ。

実際に移民の数は増え続けている。
1990年に外国人の比率が10.2%、永住者が3.7%だったのに対して、2012年には外国人比率が28.0%、永住者比率が10.0%で合計38%が国外から来た人々によって人口が構成されている。
移民は治安の悪化と移民に職を奪われた国民による不安を招きやすい。
しかしそこは一党独裁の超管理社会シンガポールなのだから、コントロールできるだろう。
そして、資産と収入が多い人にとって税制が有利なので、裕福な外国人を呼び込みやすい。

生産年齢人口率が減ったとしても、現在よりも付加価値が高いビジネスを拡大することで成長を続けることができる可能性が高いだろう。


2013/04/21

土地活用法に見るシンガポールの管理資本主義


シンガポールは徹底的に管理された社会だ。
人民行動党の一党独裁政治状態にあり、国の資本が入った企業が国内のあらゆる業界でナンバーワン企業となっている。
普通の国ではこんな超独裁国家がまともな国として成り立つはずがないのだが、優秀な完了を生み出す仕組み汚職が起きにくい構造になっているため、奇跡的に独裁政治が成り立っている稀有な国がシンガポールなのだ。

この特徴を表すように、土地の開発が徹底的に管理されている。
土地の利用用途は国が完全に決定権を持っており、購入した土地に好きな施設を立てられる日本とは違って(もちろん日本にもある程度の規制はあるが)どこにどんな施設が建てられるべきかは国が管理する。

これを体現しているのが超密集型の金融街や高級ホテル街だ。
ラッフルズ・プレイスの金融街は、これでもかというくらいに世界でも有名な銀行の看板をしょった超高層ビルが雨後の筍のように乱立している。
そしてエスプラネード駅とプロムナード駅の間にはマンダリンオリエンタルをはじめ、これまた超有名ホテルが乱立している。

マリーナ・ベイ・サンズから見ればその徹底した土地管理具合が一目瞭然だ。
これだけ管理された社会だからこそ、効率的なビジネスができる。
アジアからも欧米からもアクセスしやすいということも手伝って、各種コンベンションが開催しやすいようにビジネス街から違い場所にコンベンションホールとホテルが存在している(国土が狭いからというのもあるが)。
そして、マリーナ・ベイや川沿いのプロムナードの土地は完全に観光用に拠出されているので、うっとりするような華やかな光景がクラーク・キーやマリーナ・ベイで展開されている。
これだけ整備されていれば、それはビジネスでの利用価値も高いし、観光に来やすいものだ。

一般的に、管理社会は資本主義を阻害するものだと見られがちだが、
シンガポールは管理社会でも資本主義を徹底できることを表している。
上記にあげたような観光にもビジネスにも適した街づくりなんていうものは、自由資本主義を徹底すればするほど手に入りにくいものだ。

とは言うものの、東南アジアの周辺国でもシンガポール並みかそれ以上の勢いで成長してきている。
今までは経済発展というインセンティブのお陰で押されられていた管理社会への不満も徐々に出始めているという。
世界一優秀な完了を有するシンガポールがこの問題にどのように対処していくのかはとても興味深い。

願わくば、唯一の難点であるとんでもなくすごしにくい気候を何とかしてほしいものだ・・・


2013/04/19

コスト削減だけじゃない!LCCのビジネスモデルはマルチコンポーネント利益モデル



今回の東南アジア旅行はツアーとかではなく、全て自分で航空チケットを購入してホテルをブックして、という手作りの旅行だ。
貧乏旅行がしたいので航空会社は当然LCCを使用するのだが、国内からシンガポールへ、最低価格保証を謳うLCCのJetstarを利用して、様々な面でコストダウンを徹底していることがよくわかった。

さらに、LCCは実はコスト削減だけでなく、マルチコンポーネント利益モデルを利用することで利益を嵩上げしているビジネスモデルなのだ。


預入荷物の有料化
Jetstarに限らずほとんどのLCCでそうだが、機内に持ち込む手荷物一つまでは無料だが、預け入れて輸送してもらうと有料になる。
しかも、$20とか$30とか結構バカにならない金額を要求される。
ヘタしたら、フライトチケットの半分程度になりかねない。

預入荷物有料化のメリットは2つある。
一つはフライトチケットとは異なる収益源を得られることだ。
もう一つは、顧客が持ち運ぶ荷物を減らせば燃費が良くなり、燃油代を下げることができる。


JALのCAを積極再雇用
経営不振から解雇されたJALのCAを積極的に採用したようだ。
CAの教育はかなり投資が必要だろう。
曲がりなりにもJALのCAを務めていた人たちを再雇用すれば、この教育コストを最小限に抑えることができる。


エンターテイメント端末にiPadを採用
航空会社によっては全ての席についているあの映画を見るためのちっちゃい画面。
Jetstarは当然そんな設備はつけていないが、代わりにエンターテイメント端末として映画が入ったiPadを配布している。
もちろん有料で。

恐らく全席にエンターテイメント端末を埋め込む改造を施すと、全ての席にiPadを埋め込むのと変わらないくらいのコストになるだろう。
利用率を考えると全席分用意しておく必要は全然ないので、iPadの方が初期投資は抑えられるだろう。
しかも、利益を生み出す機会にもなる。


他にも機内での飲食をすべて有料化する、チケット販売をネットメインにする、予約の変更を有料にするといった数々の施策が取られている。
それらは全てコストを下げるか、利益を押し上げるオプションの売上となる。
使い方によってはLCCとLCCでない航空会社のコストはさほど変わらないかもしれない。

メインとなる商品を安く見せて、実際はトータルで多くの利益を上げるというのはマルチコンポーネント利益モデルといってもいいだろう。
LCCは実はマルチコンポーネント利益モデルを採用しているビジネスモデルなのだ。

アジア旅行特別編?でも



個人的な話ですが、転職の有給消化で東南アジアへ旅行することになりました。
と言っても、LCCとホステルを渡り歩く貧乏旅行なのですが。

特に超人為的に経済成長を創りだしたシンガポールなんかはビジネス的な面でも発見がありそうなので、見つけたことがあればいろいろシェアしたいと思います。

とりあえず、シンガポール一日目の今日は人種のるつぼっぷりに驚いています。
米国に住んでいたこともあるけど、こんなそれぞれの人種がそれぞれに生活しているのはあまり見たことない。

合わせてシンガポールの成り立ちについて書かれた本を読んでいると、どうして今のようなシンガポールがあるのかがわかって非常におもしろい。
うーん興味が尽きない国だ。

利益モデル7. 利益増殖モデル その2


スライウォツキーの利益モデル7. 利益増殖モデルの続き。
前回のポストで利益増殖モデルが一つの資産を繰り返し活用することで、利益を積み重ねるモデルであることを説明した。
ポイントは資産再利用による研究開発費の削減と繰り返しの露出によるブランド価値の高まりだ。

今回のポストでは、利益増殖モデルの実例を取り上げてみたい。

コンテンツ
  • 利益増殖モデルとは何か (その1)
  • 利益増殖モデルとマルチコンポーネント利益モデル (その1)
  • 利益増殖モデルの実例

ウォルト・ディズニー・カンパニーの例
利益増殖モデルのイメージを得るのに最も分かりやすい例がディズニーキャラクターだ。
彼らはディズニー・アニメのスクリーンやディズニーランドを飛び出して、ぬいぐるみになったりアイススケートショーになったり、弁当箱にプリントされていたりと活躍の場の枚挙にいとまがない。

ウォルト・ディズニー・カンパニーで繰り返し活用されている資産は言うまでもなくミッキーマウスを筆頭としたキャラクターたちの著作権だ。
ミッキーマウスを生み出し、育て、今の知名度を得るまでには相当な投資が行われたことは想像に難くない。
しかし、その投資をはるかに上回る実績を上げてくれているのが利益増殖モデルだ。


キャラクターを使った利益増殖モデル
映画やアミューズメントパークで知名度を得たディズニーキャラクター達は、おもちゃやグッズを生産する企業へライセンスされはじめた。
ディズニーはキャラクターたちのブランド価値を貶めるような使われ方がしないように目を光らす以外はとくに何もせず、ディズニー関連グッズの売上から数%(一節には7%)の利益を得ていた。
この利益はキャラクターたちがより有名になればなるほど更に雪だるま式に積み上がっていく利益だ。
さらに利益を得るため、ディズニーは自らディズニーストアという小売店を立ち上げ、大きな成果をあげた。


テーマパークを中心としたマルチコンポーネント利益モデル
ディズニーの類まれな成功は利益増殖モデルだけに支えらていないことがわかる。
当初ディズニーランドはテーマパークと園内の食事とグッズ販売だけが収益源であった。
それが今やテーマパーク内にホテルなどの宿泊施設を所有し、そこでの宿泊売上や飲食店売上がテーマパークでの売上に加算された。
その発展形として、複数のテーマパーク、複数のホテルと商業施設までパッケージになったディズニーリゾートまで作り上げた。
もはや一種の不動産業といって良いレベルだが、この戦略はマルチコンポーネント利益だ。


コンテンツ創造からコンテンツ配信へ

ディズニーの利益増殖モデルは映画などのエンターテイメントメディア事業にも見て取れる。
はじめ、ディズニーは映画界の割りとスタンダードだ利益モデルであるブロックバスター利益モデルで大ヒット作品を作り上げ、利益を出していきた。
だが、映画作成コストが上がり続けたためプロフィットゾーンが徐々に動き始めたことに気づいたディズニーは、すぐに戦略を見直し、ビデオの販売に注力をし始めた。
ディズニーと言えば、自宅で家族で見る映画というイメージを持っている人が多いのはこのためかもしれない。

これだけでは飽きたらず、ディズニーはついにディズニーコンテンツ配信のためにテレビ会社(ABCキャピタルシティーズ)を買収してしまったのだ。
利益を刈り取るためでなく、さらにこのディズニーキャラクターという資産を有効に回転させて、もっと大きな利益をあとから利用するかを徹底的に考えているところにディズニーの強さの秘密がある。


2013/04/18

利益モデル7. 利益増殖モデル その1



久しぶりのスライウォツキーの利益モデルシリーズ。
今回は利益増殖モデルについて考えてみたい。
例によって、利益増殖モデルとは何かについて論じた後に、利益増殖モデルの実例について考えてみよう。

コンテンツ

  • 利益増殖モデルとは何か
  • 利益増殖モデルとマルチコンポーネント利益モデル
  • 利益増殖モデルの実例

利益増殖モデルとは何か

利益増殖モデルとは、ひとつの資産から何度も利益を生み出す利益モデルだ。
ここで言う資産とは、同じ技術、同じ商品、あるいは著作権(キャラクター)などを意味している。
実例でも紹介するが、ウォルト・ディズニー・カンパニーではご存知ミッキーマウスや他のディズニーキャラクターを、ディズニー映画やディズニーランドだけでなくぬいぐるみや子供服、弁当箱に至るまでキャラクターを登場させ、ライセンスフィーを得ている。

利益増殖モデルの最大のメリットは、研究開発コストを必要とせず、ブランド力の高い製品を次々と生み出せることにある。
研究開発費がかからないため生産コストが限界費用だけになり、価格はブランド力があるため高い水準を維持できる。
一度多額の研究開発費をかけて開発した資産を何度も回転させるので、ROIを最大化させる戦略とも言い換えることができるだろう。


利益増殖モデルとマルチコンポーネント利益モデル

マルチコンポーネント利益モデルを覚えておられるだろうか。

マルチコンポーネント利益モデルは、ある核となる商品に付随する商品やサービスを追加してトータルの利益をあげる利益モデルであった。
利益増殖モデルは同じ資産、同じ技術、同じ商品を使いまわすことによって利益をあげるモデルなので、マルチコンポーネント利益とは異なる。
だが、どちらも核となる商品または資産を活用して使い回し、利益を最大化しようとする試みにおいて類似しているモデルだ。


次回では利益増殖モデルの実例を見てみよう。
photo credit: angela7dreams via photopin cc

2013/04/17

国産ウェアラブルデバイスが照らす、国内電機産業救いの道



AR(拡張現実)アプリの「セカイカメラ」で有名な井口尊仁氏。
その井口氏がGoogleが開発しているグーグル・グラスに対向するウェアラブルデバイスのテレパシー・ワンを発表した。


スマートフォン利用者であれば恐らく「セカイカメラ」を知っている人も多いはず。
私も初めてセカイカメラを使ってみた時には、現実世界で見知らぬ人とシェアすることの奇妙な高揚感と空恐ろしさを同時に感じたものだ。
世界で最も優秀な技術者を上から順番に数千人連れてきたようなGoogleに対し、井口氏の「テレパシー」はわずか中核メンバー8名で開発が進められているが、米国で2014年3月に開催されたイベント「South by Southwest Interactive」ではグーグル・グラスの最大の対抗馬として注目されているようだ。

井口氏によると、テレパシー・ワンのコンセプトは日常のシーンを瞬間的に家族や友人と共有することを主要なテーマに定めている。
スマホやタブレットでは操作が多すぎて意識的にシェアしなければならないが、テレパシー・ワンではシェアするためのステップを極限まで少なくし、瞬時に共有したいことを共有できることを理想としているようだ。


テレパシー・ワンはこれはこれで今後どうなるか非常に楽しみだが、それよりも井口氏のビジネスモデルについての発言に興味が引かれた。

日経MJ 2014/4/12 P.16――――――――――――
昨日はまだ粗いが、会社設立から2ヶ月弱で試作機にこぎつけた。
「セロから開発すれば何億円も必要。でも、中核部品は日本メーカーに既にあった。量産も電機大手と組む。我々日本の優れた技術を魅力的にまとめ上げる役割です。」
―――――――――――――――――――――――

電子デバイスやエレクトロニクス製品を開発するといえば、必ず製造がセットでついて回るのがこれまでのビジネスであった。
なぜなら、開発しただけではお金にならないから、それを製品化し、量産し、販売して初めて利益を上げることができた。

しかし、現在はちがう。
開発にかかる費用が小さくなったため、自分たちは商品企画だけを行うファブレス経営が成り立つようになった。
3Dプリンターのような技術革新もこの流れを助けている。

近頃日本の電機業界は全くいい話が出てこないが、このようにベンチャーや商品企画会社とアライアンスを組み、自分たちはとにかく性能と生産効率を極めるのが一つの生き残り方なのかもしれない。
そして、ベンチャー企業は旧型の大企業という土台を活かして新たな市場を開拓する。
電機業界全体としてはこのようなアライアンスモデルを中心とした業界に変化していくことが、理想的な姿なのではないだろうか。

性能と生産性を極めるための職人は消費者に受け入れられる製品の企画力には乏しいことが多いが、製品企画力に優れるベンチャー企業や企画会社には生産のノウハウが不足している。
安くて高性能というお株はとっくに中国と韓国に奪われた今、こうした新しいアライアンスモデルで高付加価値を生み出していくのが日本の産業界のモデルケースになるのではないだろうか。

2013/04/16

小包の外箱すら広告スペースにしてしまうザッドスペース


あなたは1年間で何個の小包を受け取るだろうか?
個人でも通販好きの人ならば、ヘタすると100個以上受け取っているかもしれない。
米国では3億人の国民が年間42億個の宅配小包を受け取っているという。
一人あたり単純平均13個だ。

1人が年に13回も受け取る小包を広告媒体として活用した企業がある。
米国のザッドスペース(Zadspace, Inc.)だ。

ザッドスペースのユニークなビジネスモデル

ザッドスペースのビジネスを端的にいうと、宅配小包を広告媒体にして広告主から掲載料を受け取るビジネスだ。
宅配小包に貼り付けられている宛名書きのすぐ横に、受取人の志向に基づいて個別化された広告やクーポンを貼り付けることができる。

顧客は広告スペースの売主も買主も主にEC事業者や通販業者で、ターゲットはそのEC事業者や通販業者から商品を購入する個人だ。
広告スペース(小包の広告スペース)を販売するパートナーの商品が売れると、パートナーから購入者の名前と住所がザッドスペースへ伝えられる。
ザッドスペースは膨大な個人のデータベース(2億人?)とマッチングさせて、その購入者に最適な広告をプリントし、小包へ貼り付ける。

サイト閲覧者の趣味嗜好に合わせて掲載内容を変えるWeb広告を小包の上で行なっているようなビジネスで、ある意味発想は特に真新しいものではないが、小包で行うことがユニークだ。
流通業者ならどの会社でも参入できそうなものだが、購入者の属性から最適な広告を選び出してROIを高めるというザッドスペースの強みは流通業者には真似できない。
ただ、Amazonのような流通業者でありながら消費者のデータベースを持つ事業者は非常に強力なライバルになるかもしれない。


ザッドスペースの効果

ターゲットに適した内容をマッチングして広告を挿入するため、一般的なバラマキ型DMと比べるとはるかに効果が高いのだそうだ。
通常のDMへの反応率が平均1%であるところ、ザッドスペースは4倍の4%の反応率を誇っている。
反応率が4倍も高められるのであれば、広告スペース買主からすれば原資をクーポンの割引に割り当ててさらに効果を底上げすることもできそうだ。


昨今の新しいビジネスモデルでは、これまで見過ごされていた広告スペースを見つけ出すことによって生み出されているものが多い。
アプリ内への広告配信もそうだし、ゲームやドラマの中での商品広告、あまつさえ顔や身体の一部に企業のロゴなどを入れて宣伝するというビジネスも存在している。
既存のマスメディアありきの宣伝広告ビジネスから多種多様な広告のスタイルへ、宣伝広告業界のフィールドが多様化し広がってきている。

photo credit: Flооd via photopin cc

2013/04/15

購入のしやすさは価格差を上回る


最安値という言葉は集客効果がある。
初めて購入する顧客とバーゲンハンターを集めることはできるだろうが、最安値というだけではリピート購入を促すには不十分なこともある。
何が不足しているかといえば、利便性である。
利便性が提供されていれば、多少の値段には顧客も目をつぶってくれるものではないだろうか。

現職の退職により、有給消化で海外旅行を検討している。
旅程を決める中で、ジェットスターのオンラインチケット販売サイトは私個人としては非常に使いやすいと感じた。
今回の旅行では数ヶ国を巡る予定だが、ジェットスター以外の航空会社や航空券販売サイト経由の方が安いというケースもあった。
それでもジェットスターのオンラインチケット販売サイトに慣れていた私は、多少の価格の違いや新しいサイトでアカウント作成し直すよりもジェットスターで購入することを選んだ。
つまり、最安値の他社ベンダーよりも、一度購入したことがあり購入のしやすさについてよく分かっているという理由でジェットスターを採用したのだ。

全ての商品で普遍的にリピート購入を促す要素を洗い出すことはできないが、私のジェットスターでの経験からリピート購入に関する一般論を導くことができそうだ。
それは、次の3項目にまとめられる。

1. 選択肢が多すぎない
2. 購入手順が分かりにくい
3. 確認すべき項目が多すぎない

重要なことだが、まずは選択肢が多すぎることによって消費者にストレスを与えないことだ。
シーナ・アイエンガー教授の著書「選択の科学」にも言及されているが、選択肢が多すぎることで消費者に選択することの精神的負担を与えることになってしまい、選択肢の少ない商品ブランドへ消費者が逃げ込んでしまうことがある。

「選択の科学」では、ジャムの味の種類に関する例があげられている。
数十種類のフレーバーや味があると消費者は選択に対してストレスを感じその商品ラインナップを嫌厭してしまうが、選択肢が数種類に絞られると顧客はそのブランドを選択する確率があがったのだ。

購入手順の簡便さも重要な要素であることは間違いない。
新たな航空券購入サイトを訪問して、そのサイトでの購入方法を一から学ぶのは非常に効率が悪い。

最後に、そのサイトで決済に至るまでの道筋が複雑なのはあまり喜ばれない。
購入途中でどんどんオプションのオファーが提示され、毎回どのオプション買えばいいのか悩まされるようなサイトは、人気を落とすだろう。
誰だってそのオプションのオファーがユーザーのためのものではなくてベンダーのためのものだと分かっているからだ。


利便性がリピート購入に及ぼす影響を3つあげたが、大前提として最安値との価格差がある程度リーズナブルな範囲に収まっていることが前提だ。
サイトが提供している利便性が価格差よりも大きければ、そのサイトでリピート購入を行うのだ。



photo credit: Lori Greig via photopin cc

2013/04/14

顔の見えるローカルビジネス



職場が変わるので引越しをしたのだが、なんともビジネスの原点を思いださせるような場面に出会ったのでお話したい。

私は家具付きのワンルームに住んでいたので持ち家具がなく、引越し業者を利用するまでもないと考えたので軽トラとドライバー1人を持間貸ししているサービスを利用した。
引越しにはよくある話で、荷物をまとめてみると自分が想定して業者へ伝えていたよりも倍くらいの量になってしまった。
しかも、片付けの持間が足りなかった関係でワイングラスがほぼむき出しの状態で紙袋に入れられて積んでもらうような状態だった。
で、当日現れたのは軽トラとパートと思わしきおばちゃん1名。
伝えていたより倍くらいの量になってしまったがパートのおばちゃんは文句も言わず、どうやって増えてしまった荷物を狭い軽トラの荷台に積み込むかをその場で協議し、解決していった。

これが他の一般的な大手引越し業者だったらどうなっていただろうか。
もしかしたら当初の見積と違うので超過料金を支払わされたり、割れ物は規程に従って梱包されていないと持って行けない、とけんもほろろに対応されたかもしれない。


何の変哲もない日常の一幕だが、私にとっては妙に印象に残った。
それは、このようなローカルビジネスではSLAや約款というものがろくに存在せず、それでも顧客の期待値をよく理解しているパートのおばちゃんは決してこちらの期待値を下回る働きをしない。
具体的には多少荷物の量が増えてもお値段据え置きで運んでほしいという心理や、破損覚悟でも現状の状態で運んでほしい物があるという心理を理解してくれている。
結局、荷物は全て一度で積み込むことに成功し、割れ物も一切割れずに済んだ。
多少割れ物が出たとしても、私としては値段が安かったこともあり、私の願いを聞きいれてくれたのだから満足だっただろう。

こうしたローカルビジネスを目の当たりにすると、私が普段扱っているビジネスの契約や約款によるガチガチの縛りは一体何なのだろうと思ってしまう。
SLAや約款は一体誰を守るためにあるのだろうか?

photo credit: Matti Mattila via photopin cc

2013/04/13

東芝ファイナンス売却に見る製造業のプロフィットゾーン移動



4月11日付けのニュースで東芝ファイナンスがイオンフィナンシャルサービスに買収されたというニュースが報道された。
参考: イオンFS(8570)東芝ファイナンスを買収61億円

東芝も年々主力の家電市場で存在感を失いつつある正念場にある企業なので、こういった不採算部門の売却もあるだろう。
だが、財務サービス子会社の売却という事態の裏には、製造業のソリューションビジネスにおけるプロフィットゾーンが移動しているということを意味するのではないだろうか


東芝やパナソニックなど国内の大手電機製造メーカーが自分たちの商品を製品と呼ばずにソリューションと称するようになってい久しい。
商品の軸足を製品からソリューションに移したことには、GEがメーカーからソリューション・プロバイダーへの転身を成功させたことに大きく影響を受けている。

GEがは日本からの安くて質の良い輸入電気製品に圧倒され、ビジネスモデルの転換を余儀なくされた。
そこでGEが選んだのは、顧客に製品を提供するだけでなく様々なサービス、例えば導入コンサル、設置サービス、運用サービス、保守サービスや、財務サービスなどをトータルで提供するソリューション利益モデルであった。
初年度の費用を抑えたい、とかバランスシートを膨らませたくないという顧客の要望に応えるために財務サービス子会社が活躍し、彼らのソリューションビジネスを大いに発展させた。
製品からはほとんど利益が上がらなくとも、様々なサービスや財務サービスから大きな利益を得ていたのだ。

東芝ファイナンスもGEと同じでソリューションの財務サービスを固めるという目的のためにあるような会社で、1959年に設立されている。
主要ビジネスはコンピュータや産業機械のファイナンスとリース事業だ。


なぜ東芝ファイナンスが売却されなければならなかったのか、という話に戻るが、恐らく製造業付きの
財務サービスがプロフィットゾーンでなくなってしまったからだ。
ファイナンス・リース事業は製造業だけでなく金融機関も手を出していて、GEの頃よりも金融機関間の競争が激しくなっているだろう。
さらに運用や保守サービスも請け負いサービス・プロバイダーが増えてきているので、価格が下がっているだろう。
つまり、機器本体は利益が上がらずとも保守サービスやメンテで稼いでいたビジネスモデルでは、崩壊しつつあるのだ。


どんなビジネスモデルも、美しい利益モデルも、そのまま変わらないというのはありえない。
製造業のソリューション利益モデルが今後どう変わっていくのか楽しみだ。

2013/04/11

ビジネス力と人格のバランス

いくらビジネス力があっても人格がなければ人がついて来ず、大きな結果は上げられない。
でも、ビジネス力がない唯の人格者は役に立たない。

ビジネスパーソンとして結果を残したいなら、数字力、判断力、行動力、人脈力といったビジネス能力が要求される。
エンジニアやスペシャリストとして結果を出したいなら広範なビジネス力は必要なく、周りとうまく調整できるコミュニケーションスキルさえあればあとは自分の専門性だけを高めていけば良いかもしれない。
だけど、企業内の階層を登ってマネージメントの立場から事業を成功へ導きたいのであれば、少なくとも平均以上のビジネス力がなければならない。

しかし、ビジネス力さえあればどんな人物でも良いのかと言えば、決してそんなことはない。
ビジネス力があればある程度の実績を出すことができるのは確かだが、人格に難ありとされている人がいざ難局に陥ったとき、どれだけの部下がついてくるだろうか?
恐らくついて来てくれる部下があったとしても、生活のためにというのが本音で、上司のためにという気持ちは薄いはずだ。
賢い人や仕事ができる人ほど、その上司を見限ってより良い選択肢を選ぶだろう。

ビジネススキルを磨くことは重要だが、人格を磨き続けることも重要なファクターであることを忘れてはいけない。
結果を出す優れた上司ではあるけれど一緒に働きたくない人ナンバーワンとみんなから言われる上司を見て帯を締めなおすのであった。

2013/04/10

利益モデル6. ブロックバスター利益モデル その3




ブロックバスター利益とは多額の研究開発費という初期費用が必要になり、変動費が小さいビジネスに適した利益モデルだと解説してきた。
そして、映画や音楽、ソフトウェアメーカーという業界に向いているモデルだとも論じてきた。
今回はブロックバスター利益モデルの成功率を上げるための施策を考察してブロックバスター利益モデルのまとめとしたい。

コンテンツ

   * ブロックバスター利益モデルとは何か (その1)
   * ブロックバスター利益と時間利益モデルの違い (その1)
   * ブロックバスター利益モデルの実例 (その2)
   * ブロックバスター商品の成功率を高める (今回)

ブロックバスター商品の成功率を高める

ブロックバスター商品の売上を予測するのは困難だが、少しでも成功率を高めるためのセオリーは存在する。

その一つはマーケティングに集中投資することだ。
ブロックバスター商品はR&Dコストが高額だが、R&Dコストに比例して売上が上がるという保証はどこにもない。
むしろ売上と相関関数が高いのは幅広い意味でのマーケティングコストだろう。
そもそもニーズがなかったり、消費者の心になんらインパクトのない商品はいくら開発費をかけても売上は立たない。
だから、開発前、開発中、プロトタイプに対する顧客の反応といったリサーチに十分投資して成功率を高めるのが手堅く効果的な手段だ。

また、市場に投下された新商品を認知してもらうための宣伝広告へも十分に投資すべきだろう。
R&Dコストが高額なのだから、万が一全く売れなかったりすれば大きな損失を出すことになる。
ブロックバスター商品は限界利益が高いのだから、認知を得るための資本を投下して広告宣伝キャンペーンを行うことで成功率を高めるべきだ。


成功率を高めるもう一つの方法はR&Dコストを抑えることだ。
開発コストを下げることは損益分岐点の低下につながるので、万が一新商品が大コケしたとしても傷は浅くなる。
多少の失敗に耐えられる資産を持つ大企業であれば即会社が潰れることはないが、駆け出しのベンチャー企業であれば研究開発コストを低く保つのは、会社を存続させて商品がブロックバスターに育つのを待つ有効な戦略だ。

ひとつ実例をあげよう。
まだディズニーが映画界で今ほどの地位がなかった頃、R&Dコストを下げるために無名の脚本家を集めて絶頂期を過ぎて出演料が下がってきている元有名俳優、女優を採用した。
映画の重要な要素である脚本を安く手に入れ、さらに元有名俳優・女優を採用していたので安価に集客もできる。
開発コストを下げてブロックバスター映画を量産することにより、ディズニーはアミューズメントパークだけでなく映画の第一人者になった。



ディズニーの場合はブロックバスター利益だけでなく、キャラクターを活用した利益モデルを展開しているのだが、これについては次の利益モデルで紹介しよう。

2013/04/09

利益モデル6. ブロックバスター利益モデル その2


前回のエントリーではブロックバスター利益モデルの特徴について説明した。
ブロックバスター利益モデルが適した企業とは、製品を企画して世に送り出すまでの研究開発費が高く、開発された商品を製造するための限界コストが低い製品を扱う業界だ。


コンテンツ

  • ブロックバスター利益モデルとは何か (その1)
  • ブロックバスター利益と時間利益モデルの違い (その1)
  • ブロックバスター利益モデルの実例 (今回)
  • ブロックバスター商品の成功率を高める

ブロックバスター利益モデルの実例

■映画業界と音楽業界

代表的なブロックバスター利益の業界は、映画業界と音楽業界だ。
どちらも封を切るまでどれだけの利益が見込めるかが分からない、売上のボラティリティが高い業界だ。
再生産にかかるコストが低いのも特徴で、映画館の観客が一人増えても、売れたCDが1枚増えてもコストはほとんど変わらない。

興行収入が最も大きかったとされている2009年公開の映画「アバター」は、26億ドルの興行収入を得たが、制作費はわずかに2億ドル。
単純計算で粗利は90%を越え、映画としてもビジネスとしても大成功だ。
だが、少しでもボタンが掛け違えて興行収入が10分の1だったとしたら、コストはほとんど変わらないためギリギリ利益が出る程度のビジネスになっていただろう。
ブロックバスター商品は売上の予想が難しく、どれほどの利益を稼げるか下駄を履くまでわからない。




■ソフトウェアメーカー

MicrosoftやAdobeのようなソフトウェアメーカーもブロックバスター利益モデルの条件を十分に満たしている。
ソフトウェア開発会社は大別すると2つのタイプに分けられるが、一方は顧客企業の要件に応じてゼロから作り上げるディベロッパーと、もう一方は自社でソフトウェアを企画開発して販売するソフトウェアメーカーだ。

前者のソフトウェアディベロッパーは、顧客が自分たちのリスクで開発をディベロッパーへ依託するビジネスであるため開発会社が大損する可能性は低いが、見積時点の利益率を大幅に超えることはない。
後者のソフトウェアメーカーは自社でリスクを負ってソフトウェアを開発し販売するため、リスクは大きいが、成功したときの見返りも大きい。
ブロックバスター利益企業はもちろん後者のソフトウェアメーカーだ。

ブロックバスター利益企業のMicrosoftと、そうでないディベロッパーのNTTデータを比較してみよう。
Microsoftの売上は約7兆円(2011年6月期)でNTTデータは約1.1兆円(2012年3月期受注高)と7倍の差がある。
国内最大手のNTTデータを持ってしてもMicrosoftの1/6とその売上額の違いにも驚くが、コスト構造はさらに劇的に異なる。

売上を100とすると両者の原価はMicrosoftが22に対し、NTTデータは75にもなる。
Microsoftの原価率は実にNTTデータの1/3にすぎない。
NTTデータは積み上げたコストの上にマージンを載せるビジネスなので、粗利益率は25%程度になってしまうのに対し、Microsoftのコストはパッケージの作成と流通費用程度なので粗利益率が80%近くになるのだ。

しかし、Microsoftは毎年13%程度の研究開発費を計上している。
金額に直すと1兆円に近い額だ。
今のようにエンタープライズOSやオフィスソフトで独占的な地位を確立している限り1兆円という固定費があっても簡単に損益分岐点を超えるが、ひとたび売上が下がるとこの重い固定費が利益を圧迫することになる。


2013/04/07

利益モデル6. ブロックバスター利益モデル その1



スライウォツキーの6番目の利益モデルは、ブロックバスター利益モデルだ。
ビッグバンのごとく、大ヒット商品を生み出して利益を獲得するというモデルだ。
勘の良い人は、いち早くイノベーティブな商品を開発して市場に投入する時間利益モデルと何が違うのだろうか?という疑問を持つだろう。

関連エントリー:

どちらのモデルも一つの商品から大きな利益を稼ぎだすという部分が共通している。
しかし、時間利益モデルとブロックバスターには重用な違いがあるのだが、これは「ブロックバスター利益と時間利益モデルの違い」の中で考察したい。


コンテンツ

  • ブロックバスター利益モデルとは何か (今回)
  • ブロックバスター利益と時間利益モデルの違い (今回)
  • ブロックバスター利益モデルの実例 (その2)

ブロックバスター利益モデルとは何か

ブロックバスターというそもそも馴染みがない言葉について解説しなければならない。
ブロックバスターは良く映画業界や音楽業界、医薬品業界で使われる言葉で大ヒット商品という意味合いで用いられる。
2010年に破産してしまったが、レンタルビデオチェーンのブロックバスターは大ヒット商品という意味の企業名であった。

その名が示す通り、ブロックバスター利益モデルは爆発的なヒット商品を出して大きな利益を得るという利益モデルだ。
このモデルを学ぶことの重要性は、自社の属する業界がブロックバスター利益モデル業界かどうかを見極め、プロフィットゾーンが大ヒット商品にあるということが分かれば経営資源をブロックバスター商品開発に集中投下しなければならないという認識を得ることだ。


■プロフィットゾーンがブロックバスター商品にある業界

研究開発(R&D)コストが膨大で、生産コストが低く限界利益が高い業界にブロックバスター利益モデルが有効である。
こうした業界には製薬業界や映画業界、音楽業界などの伝統的業界や、最近はやりのインフォプレナー(情報起業)もここに含まれるだろう。
例として製薬業界を上げると、一つの商品の研究開発にかかる年数が10年以上に及び、費用も数十億円〜数百億円かかることもあるが、一度商品として販売してしまえば一つひとつの製品の原価率は非常に低く粗利益率は70%を超える。
R&Dコストが高く粗利益率が高い業界では、複数のそこそこ売れる商品があるよりも一つのブロックバスター商品があるほうが利益への貢献度が高いということがお分かりいただけるだろう。

こうしたR&Dコストが高くて粗利益率が高い商品を扱っている企業は、自社の利益特性を理解し、ブロックバスター商品を生み出すために経営資源を集中投下することが求められる。
その投資の対象とは、製品開発力の向上とマーケティングだ。


ブロックバスター利益と時間利益モデルの違い

次に時間利益モデルとブロックバスター利益モデルの違いを考えてみよう。

どちらのモデルも、一つの商品から大きな利益を得るという基本方針に変わりはない。
しかし、それぞれの商品特性が大きく異なるのだ。

時間利益モデルではインテルのプロセッサーを例にあげたが、その巨額の利益の源泉は他社製品よりも早くイノベーティブな商品を市場に提供することだと説明した。
なぜなら、先に新たなアーキテクチャを広めた商品が市場のデファクトスタンダードになり利益を稼ぐが、安定して大きな利益を稼げるのは競合他社がそれを模倣して類似商品を安価に市場へ投入するまでの間に限られるからだ。
相手よりも早く市場へ投入し素早く利益を稼ぎだすことが肝になるので、スピードが命になるのだ。

一方、ブロックバスター利益モデルでは必ずしも時間軸が最重要の課題となるわけではない。
映画を例に考えてみると、普通は映画の脚本の質やキャストの質が映画のヒットに比例するものであって、競合よりも早く映画をリリースすることではない。
KFSになるのは、一つひとつの商品をブロックバスターへ育てるために商品品質向上とマーケティングに経営資源を投下することである。
あるいは、R&Dコストを引き下げて大規模な成功とならなくても大きな利益を稼ぎだすことだ。



2013/04/06

利益モデル5. 時間利益モデル その2


前回のエントリーでは時間利益モデルの概要について説明したので、今回は時間利益モデルを採用している企業の事例を上げてみたい。

時間利益モデルで上手くいっている企業の例はあまり多くないだろう。

どの業界でも様々な企業が日々イノベーションを起こそうとしてしのぎを削っている。
常にある企業がいつも革新的な商品を一番に市場に投入するという業界は多くない。
革新的な商品を市場に一番に投入するのは、ある時は自社であるときは競合他社というのが一般的な市場なのだ。


コンテンツ

  • 時間利益モデルとは何か (その1)
  • 時間利益モデルの条件 (その1)
  • 時間利益モデルの例

時間利益モデルの例

時間利益モデルの代表例といえばマイクロプロセッサーを開発・生産を行なっているインテルだ。

インテルの歴史をご存じない方は驚くかもしれないが、今ではCPUの代名詞のインテルは実はDRAM製造メーカーとして事業をスタートしていた。
それが80年台になって日本メーカーの低価格DRAMが幅を利かせてきたことによりDRAM事業は損失を出しつつあり、DRAMメーカーからCPUメーカーへと大きく舵を切ったのだ。
米国半導体メーカーにとってはDRAMはすでにプロフィットゾーンではなくなっていたということだ。


■革新的CPUを最短で市場へ投入し続ける■

インテルはまだDRAM事業を行なっていた当時、CPU設計をライセンス提供していたためライバル企業が自社と同等のCPU設計能力を身につけるのを防げていた。
しかし、CPU専業メーカーへと舵を切った結果、ライセンス提供を打ち切り自社で生産してCPUを販売するモデルへと切り替えた。
その結果、他CPU製造メーカーと直接競合するようになったのだ。

自社が発売する新製品を他社が素早くリバースエンジニアリングし市場に投下してくることに気づいたインテルは、開発サイクルを早めるための開発プロセス改善に多大な投資を行った。
その結果インテルは開発期間を半分ほどへ短縮することに成功し、常に競合他社に先駆けて革新的な商品を市場へ投入し続けることに成功した。
競合他社が同じ商品を投入するまでの間にインテルはプロフィットゾーンを享受し、利益を上げることができたのだ。


■イノベーションを市場に浸透させる■

インテルの戦略は製品開発で他社を出し抜くことだけに留まらなかった。
前のエントリーでも触れたように、時間利益モデルで利益を得ようとする企業は革新的な商品を顧客に素早く受け入れてもらう必要があった。
そのためにインテルはIntel Insideキャンペーンを打ち、直接の消費者であるコンシューマーへの認知度を高めた。

Intel Insideキャンペーンの趣旨は、IntelのCPUが使われているPCを推奨するもので、ある意味PCメーカーはなんでもいいと言っているようなものであった。
このため、一部のPCメーカーからの不評を買ったようだが、Intel Insideキャンペーンが浸透したおかけで消費者はCPUという部品を大いに重視するようになった。
CPUの認知度が上がったため、PCメーカーは新モデルでインテルの最新モデルを採用し、それを売り文句にするようになった。


利益モデル5. 時間利益モデル その1



今回はスライウォツキーの利益モデルその5 時間利益モデルについて取り上げよう。
時間利益モデルは、比較的小規模の企業でも踏襲しやすいスイッチボード利益や顧客ソリューション利益モデルと異なり、イノベーションを起こすために継続的に投資できる体力がある企業に適した利益モデルだ。


コンテンツ


  • 時間利益モデルとは何か
  • 時間利益モデルの条件
  • 時間利益モデルの例 (その2)


時間利益モデルとは何か

スライウォツキーの利益モデルその5 時間利益モデルは、どの競合よりも先にイノベーションを起こし、競合が追いついてくるまでの間に先行者利益を享受するという利益モデルだ。
最初にイノベーティブな商品、これまでの製品が解決していた顧客の課題を全く異なる角度から解決する商品や性能が飛躍的に高まった製品を市場へ供給し、競合がそれを真似て類似商品を市場に投入するまでの間に利益を稼ぎだすのだ。

法で規制されているような業界でない限り、時間利益モデル企業が利益を享受できるのは類似商品が市場に出回るまでの間だ。
競合企業は時間利益モデル企業が多大な研究費をかけて開発した商品をリバース・イノベーションをして市場に投入すれば、たいてい時間利益モデル企業よりも安価に商品を提供できる。
安価な競合製品が出まわれば、唯一の選択肢しかなかった先行企業の商品からある程度の顧客がそちらへ流れてしまうのは止めようのない流れだ。
だが、顧客が安価な競合製品に流れるまでの間、時間利益モデル企業は高いマージン率の価格を設定することが可能になり、そこがプロフィットゾーンになっているのだ。
それを表しているのがトップの画像だ。


時間利益モデルは選ばれた企業だけに許される利益モデルだ。

基本的に一つの商品カテゴリーで二つ以上の企業が時間利益モデルを構築することは不可能だろう。
時間利益モデルは競合に先駆けて一番初めにイノベーションを起こすことができる企業が享受できる利益だからだ。


時間利益モデルの条件

時間利益モデルを追求するには、最低二つの必須条件がある。
競合より早く連続的にイノベーションを起こす開発力と、それを一気に浸透させるだけのブランド力・マーケティング力だ。

■迅速で連続的なイノベーション■

先の説明の通り、時間利益モデルは競合よりも先にイノベーションを起こし、競合が安価な類似商品を市場へ投入するまでの間に利益を稼ぎきるというモデルだ。
このモデルで成長を続けるには、一発屋ではなく継続的にイノベーションを他に先駆けて生み出し続けるという困難な試練を克服しなければならないのだ。
一つのイノベーションを生み出すだけでも簡単なことではないのに、それを継続的に、しかも他社よりも数ヶ月早く市場を投入していくには、継続的に研究開発へ投資を続ける必要がある。
また、常に他社よりも先に研究成果を出すための先進的な開発のフレームワークを有していなければならない。


■革新性を浸透させるマーケティング■

次に重要なのが、イノベーティブな商品を市場へ浸透させる力だ。
革新的な商品を市場へ投入するだけでは利益は生まれない。
できるだけ多くの顧客に購入してもらわなければならないのだ。

どの点がイノベーティブなのかにもよるが、時間利益モデル企業は革新的商品の革新性を市場に認めてもらうためのマーケティング活動が不可欠だ。
AppleがiPhoneを市場へ投入しその革新性を訴えるために、ハイクオリティなデザインというブランド価値とスティーブ・ジョブズのプレゼンというマーケティングツールを活用した。


時間利益モデル企業は製品開発とマーケティングという二つの車輪を最高速度で回転させる必要がある、極めて難しい経営が求められるモデルだと言えるだろう。



関連エントリー:
2012/4/6 「利益モデル5. 時間利益モデル その2」


関連エントリー:
2012/3/16 「エイドリアン・スライウォツキーのプロフィット・ゾーン経営」
2012/10/21 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 1
2012/10/22 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 2
2012/10/22 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 3


 

2013/04/05

現状維持のための組織。作り上げるための組織。


組織には現状のビジネスを維持するため組織と作り上げるための組織がある。
分かりやすく、現状維持型組織と創造型組織としよう。

バックオフィスとフロントオフィス。
運用部門と企画部門。
営業部内でも営業部と営業企画部、というように、目標を達するための行動を実行する部隊と、目標値そのものを押し上げるための道筋やシナリオを考える部門がある。

この二つの組織はほとんどの場合水と油のような関係にあり、ビジネスに対する姿勢の違いが正反対とも言えるほど違うのだ。
二つの組織の間に広がる落とし穴は大きく、多くのことがこの落とし穴にはまって意思決定が遅れてビジネスが停滞するということが起こっている。


もちろん現状維持型組織と創造型組織、どちらの言い分も一定の正義がある。

現状維持型組織は企業を存続させるために、余計なリスクを負わず、今のビジネスで稼ぐことができている利益を守ることを至上命題としている。
創造型組織はいつだってビッグチャンスを求めているので、暴走すると会社が許容できないリスクを背負い込み、いざリスクが顕在化すると経営が傾くかもしれない。
そんなリスクを起こさせずに淡々と利益を稼ぎ、会社を支えているのが現状維持型組織だ。

縁の下の力持ちである現状維持型組織だが、行き過ぎると弊害がある。
現状維持型組織は創造型組織が持ち込む新しい風を嫌う。
新しいプロセスに変更しようという声が上がれば、ある部門では処理時間がこれまでより大幅に増加してしまうとか、変更によるエラーが増加するだとか、あらゆるリスクをまくし立てて変化を拒もうとする。
これでは新しいビジネスチャンスを獲得するのは難しい。
チャンスの女神には後ろ髪がないというのに。


一方、創造型組織はチャンスの女神の前髪を容赦なくわしづかみすることに長けている。
標準化とかドキュメント化というのは後回しにして、まずは案件を獲得することやいち早く新製品を市場でテストすることに情熱を燃やす。
意思決定は素早く行われ、決裁が下りるということは具体的な行動の開始を意味する。
翻って現状維持型組織では上申された案件が儀式的に一度二度差し戻されるのが常で、ようやく意思決定がなされてもノロノロとドキュメント化や検討会議のスケジュール調整が始まるばかりだ。

だが、創造型組織に手綱を嵌めずに放っておくと、収拾のつかない状況が待っている。
今走っているビジネスはまったくドキュメント化されず、何かを聞きたければ、まず誰がそれを知っているかを調べることからはじめなければならない。
引継ぎも口伝で行われるのが常だ。
もし創造型組織のメンバーが退職すれば、たちまちそこにブラックホールが発生する。

管理本部が内部監査に入れば、数々の問題が露呈し、管理本部長は気が気でなくてその日は眠ることができなくなるだろう。


現状維持型組織と創造型組織。
どちらの組織も企業になければ、成長も存続もできない。
互いの組織が手を取り合って、双方のパフォーマンスを最大化させるような関係であるべきだ。

ほとんどのサラリーマンは自分で道を選ぶことができない(選ぶことをしない?)だろうが、両者の違いを見極めて両方の行動様式を学ぶことが必要だ。
そして、自分と違う行動様式の同僚が何を考えてどうして自分と違う行動を取るのかにも理解を深めよう。
そうすれば、かき回すことばかり考えているガサツな連中にしっかりと定まったプロセスで仕事をさせるのも、標準化ばかり考えていて新しいことを嫌がる連中をビジネス拡大に協力させるのも、やりやすくなるだろう。

photo credit: digitalpimp. via photopin cc

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