2013/06/30

海外企業との交渉 コツとタブー 2



前回に引き続き、海外企業のパートナー、または顧客と交渉する上でのコツやタブーをお伝えしたい。

参考エントリー:
2013/6/30 海外企業との交渉 コツとタブー 1
2013/7/1 海外企業との交渉 コツとタブー 3

一応先に断っておくと、私の数少ない経験則から成り立っている情報にすぎないので、誤っていたり偏っている可能性があることを十分にご留意いただきたい。

さて、前回のエントリーでは開始交渉前に下調べや社内で調整しておくべきことについて触れた。
交渉は事前準備で決まると言われることもあるくらい、交渉前の準備が重要だ。
今回はさらに具体的な交渉前の下準備について解説してみよう。

■交渉開始前(続き)■

・関係者の意見をまとめ、方向性を決めておく

一番重要だと言っても過言ではない事前準備は、確実に関係者間の意見をまとめて方向性を決めておくことだ。
残念ながら、これができていない日本企業は非常に多いという印象がある。

社内のコンセンサスがとれていない状態で交渉へ望むと、交渉で得られた材料を持ち帰ると社内で議論が紛糾し、いろいろ混ぜ返した結果前回までとは全く異なった結論に到達することがありがちだ。
次の交渉のテーブルについたとき、交渉相手にとっては「どうしてそんな話になったの?」と狼狽せざるを得ないような要求をすることになる。

この問題は、日本企業では交渉窓口の人間に与えられている権限が非常に小さいことと、自部門の意見が反映されることを重視されるセクショナリズムに端を発している。
だからこのような状態にならないよう、関係者間の意見は十分に事前に協議し、自社のスタンスをまとめておく必要がある。
意見をまとめるだけでなく、交渉相手の出方によっては対応をどう変えるか、予めシナリオ分析をしておき各シナリオでの対応も予め決めておくと良いだろう。
もっと良いのは、可能ならば交渉窓口の担当者、または窓口チームに一定の方向性から外れない限りは全権限を委任してもらうことだ。

・引き継ぎならば情報は洗いざらい出してもらう

もしあなたが社内で数少ないバイリンガルならば、仕掛中だった海外パートナーとの交渉に突然駆り出されるかもしれない。
その時に重要なのは、これまでの交渉の経緯や社内での議論の内容を洗いざらい出してもらうことだ。

これまでの経緯を徹底的に洗い出して頭に叩きこんでおかないと、飛躍した要求や以前に要求して却下されたような要求を繰り返してしまうかもしれない。
交渉相手を狼狽させたりサプライズになるようなことは、テクニックとして使うのではない限り避けたほうがよい。


これまでの経緯の把握が不十分な場合も、前項の社内調整が不十分な場合もそうだが、問題は相手への要求が二転三転してしまったり、支離滅裂になってしまうことだ。
なぜこうした対応がまずいのか少し考えてみよう。

まず、とても単純な話だが、話が二転三転してしまうような交渉相手は信頼できない。
窓口担当者が相手から不信に思われてしまえば、あらゆる交渉に対して不信から入られてしまい、交渉を進めるのが困難になる。

海外企業の交渉窓口担当者は一定の決定権を与えられている人である可能性が高く、関係者間の意見調整で苦労していて何の決定権も持たない日本側担当者の苦労など知る由もない。
だから、窓口担当者のいうことが二転三転しているならば、裏で社内の意見調整で苦労しているという事情は酌量されず、その人間が頭が悪いか信頼できないという評価になってしまう。

もう一つの問題点は、時間切れで交渉が打ち切られる危険性だ。
日本側が社内の調整に時間がかかっていると、交渉相手が業を煮やし交渉をやめるかもしれない。
特にスピードをパートナー選定の重要な条件とする顧客や、リソースに余裕が無いスタートアップベンチャー企業のパートナーが相手のときは留意すべきポイントだ。



海外企業との交渉 コツとタブー 1


グローバル化の波と言われて久しいこのご時世。
多くの企業が生き残りや成長のために海外のパートナーや海外の顧客と折衝することが多くなってきたことだろう。
そして、これからも海外とのやり取りは機会を増すばかりであるはずだ。

私は英語が話せるということもあり、海外パートナーとの交渉窓口の役割を仰せつかっている。
これまでも海外企業との交渉は対象の経験はあったが、いまだビギナーのレベルにすぎない。
そんなビギナーが数々の失敗から経験則から学んだ交渉のコツとタブーをお伝えしたい。

■交渉開始前■

・相手の意思を把握する

相手が海外の企業との交渉だと、初回の交渉のテーブルに着くまでに先方とほとんど接触せず、相手の出方が皆目検討つかないまま初回のミーティングを迎えることが少なくない。
社内の他部署からの紹介だったり、コンサルからの紹介だったり、という場合だ。
相手の国や文化にもよるが、日本人の感覚で初回は面通しで具体的な話は次回以降、みたいな感覚でいるとまずいことが起きる。

特に米国企業との対等なパートナーシップなどでは顕著だが、まずこのパートナーシップに何を望んでいて、パートナーに何をして欲しいのか、自社が何をできるのかという要求を、全て初回のミーティングで明らかにすることを求められる場合がある。
しかし、相手が自社とのパートナーシップを非常に重視して乗り気で考えている場合、面通しのような場を温めるための初回ミーティングを望むこともある。
どちらのケースでも、相手のスタンスと異なるスタンスで交渉に入ろうとすると互いにフラストレーションが溜まり、特に相手が優位な立場にある場合は初回の入り方を間違えるだけで低い評価をされる可能性が高い。

日本企業相手でも必要なことではあるが、特に海外企業を相手にするのであれば事前に相手の出方を伺っておくことが不可欠だ。
そして相手の出方は、自社の規模やビジネス状況、持っている資産など、自分が相手企業だったら何を要求したいのかということを考えれば大体見えてくるはずだ。

・相手の感情を把握する

ビジネスの交渉の場であっても、感情というくびきから自由になれる人はいない。
むしろ交渉の場では難航すればするほど感情が場を支配し始める。

そんな状況に引き出されたのなら、まずは正確に相手の感情を把握することが重要だ。
特に、自社の窓口が複数ある場合、相手はそれぞれの窓口に対して異なる感情を抱いているケースがある。

例えば、海外パートナー開拓部署の窓口と実際にパートナー企業と折衝するビジネス側の部署の窓口が異なる場合だ。
海外パートナー開拓窓口はほとんどビジネスに関わらないので色よいことを言って海外パートナーと友好な関係性を作る。
相対的に、実質的でタフなビジネス交渉を行うビジネス側窓口は、海外パートナーからネガティブな印象を持たれやすい。
そして、海外パートナーから海外パートナー開拓窓口に話が違うじゃないか、というクレームを投げ込まれると一発で交渉がスタックする。

こんな事態を防ぐために、交渉相手が自分や他の交渉窓口に対してどういった感情を持っているのかを把握し、交渉相手への交渉姿勢や他の交渉窓口との根回しに活かすことが重要だ。


海外交渉シリーズ、次回へ続きます。



photo credit: U.S. Embassy Tel Aviv via photopin cc

2013/06/29

このご時世に仕事があるだけでもありがたい、というメンタリティ

たまに、「このご時世に仕事があるだけでもありがたい」という言葉を聞くことがある。
仕事が忙しい、とか仕事に不満を持っているという愚痴に対する返答だろう。

聞いた感じでは慎み深くて日本人の美徳とするところなのかもしれないが、私は好きではない。
仕事にあぶれたり、明らかに自分がやりたいと思っていない仕事をさせられている人が発することばだ。
いくら仕事を探してもなかなか見つからなければそういう気持ちになっても仕方がないかもしれない。
だが、そんな消極的なメンタリティでは仕事を楽しめないではないか。

仕事は与えられるものではなくて求めるもの。
本質的に人から仕事を与えられる立場であるサラリーマンにも、その程度の自由はある。
もっと正確に言うと、その程度の自由を求める自由はある。

今の仕事がやりたくない仕事なら、転職して本当にやりたい仕事をすればいい。
すぐにその職につくのが難しければ、いくつかの職を経てその職に辿り着くなり、その業界に人脈を作るなり、方法を考えて実行していけばいい。
その自由の海を泳ぐ意思がなければ、人の意思という波に流されてしまうだけ。

日常の仕事でも同じことが言える。
自分に仕事が沢山たまっている今の状況は、周りの環境や他の人の仕事によって生み出された仕方ない状況なのだ、と考えている人は仕事に追われてばかりで自分から仕事を追うことができない。
仕事に流される人は仕事に追われてばかりいて仕事を追うことはできない。

武士は食わねど高楊枝のメンタリティで、高望みして仕事を追おう。
ただ、自信を持つことと間違えて横柄になってはいけない。
所詮人はひとりでは大した仕事をできるわけがないのだし、誰かに必ずどこかで助けてもらう場面があるはずだ。
情けは人のためならずというが、横柄な態度でいると自分を助けてくれるはずの情けもかけてもらえなくなってしまう。
そんな人は成功できない。

「私のようなできそこないに仕事を下さってありがとうございます」というメンタリディではなくて、「私はこんなことをやってきてこんなことがしたい、だからこの仕事をさせてくれ」というメンタリティで行こう。

2013/06/28

スケールできるのか、高収益化できるのか


ある新規事業の企画をGOするかしないか判断する上で、それってスケールできるの?あるいは高収益化できるの?という問は良い判断基準をくれる。

何か企業戦略的に理由が無い限り、新規事業はビジネス的に成功したほうが良い。
だからビジネス的に成功しそうな企画を選びたいというのは、どんな事業開発マネージャーにも共通する志向だろう。

ビジネス的に成功という言葉はとてもあやふやだ。
一人ひとり定義が違うだろうし、同じ人でも時と場合によって判断基準を変えてしまうかもしれない。
だがこの質問を問いかければブレることはない。

「その事業はスケールできるのか?はたまた高収益化できるのか?」

スケールできるか

ビジネスがスケールできるのかという問は、そのビジネスモデルを展開して別のマーケットにも適用できるのかどうか、という問に置き換えられる。
ある顧客層から別の顧客層へ、ある地域から別の地域へ、日本市場からアジア市場へ、などいろいろなバリエーションが考えられるが、根底にあるのは完全に、またはほとんど同じビジネスモデルを反復させることができるということ。

一度成功したモデルを別のマーケットでも反復できると大きなメリットがある。
まず、純粋に新しいマーケットの分だけ売上を増やすことができる。
スキルやナレッジ、リソースが社内に溜まっているはずなので、マーケットを変えても他社が一から同じ事をするよりも早く正確にできるはずだ。
また、場合によっては資産も再活用でき、資産回転率が上がって利益率も改善するだろう。

高収益化できるか

ビジネスの目的は、つまるところどれだけ利益を稼ぐことが出来るかだ。
あくまでも売上の大きさは最終利益を稼ぐための手段であり、目的ではない。
一番重要なのは最終利益を出来るだけ多くだし、キャッシュフローを出すことだ。

そういう意味では期待できる最大の売上のインパクトが2,3%で取るに取らないボリュームの新規事業であったとしても、利益への貢献が10%見込めるのであれば十分に価値があるといえるだろう。
たとえスケールする余地がなかったとしても、高収益事業はさらにメイン事業を拡大するための投資資金を稼ぐ有効な支援ビジネスとなりえるのだ。

2013/06/27

東南アジアセミナーに参加して


先日日系企業の東南アジアへ進出を手助けしているコンサルタントが公演する勉強会に参加した。
現地でビジネスの立ち上げに関わっている人の一次情報だけあってとても参考になったのだが、さすがに全部を全部シェアするわけにはいかないので、いくつか参考になった重要なトピックを共有したい。


■国策や、国民の意向に反するビジネスは成立しにくい

東南アジア諸国に進出しようと考えるとき、その持ち込もうとしているビジネスが国策に合うか、国民の文化的・宗教的タブーに触れるものでないかを十分に調査する必要がある。
国策に適うものであれば助成金やその他数々の優遇を受けられるだろうが、国策にそぐわない場合、助成金や優遇を受けられないばかりか国がライバルとなる現地企業の側についたり、ネガティブインパクトの大きい法令を制定されてしまうかもしれない。

かと言って袖の下を贈るようなことをしてはいけない。
確かにその時は一時的にうまくいくだろうが、後で問題が発覚したときのリスクが大きすぎる。
その国の刑法で罰せられるのだから、ヘタしたら本当に厳罰に処されるかもしれない。

国民の文化的な背景や宗教的な志向への配慮も不可欠だ。
文化や宗教でタブーとされている商品やサービスが受け入れられる可能性は低いだろう。
また、複数の民族や宗教が同居している国はさらに注意が必要だ。
マジョリティにとって受け入れられるものであっても、一部のマイノリティから強烈に批判を受けて、それが政府をも動かすかもしれない。


■東南アジアで有名な日本企業と言えばマンダムとフマキラー

日系企業で東南アジアに進出して大きな成功をあげているのはマンダムとフマキラーだ。
どちらの企業にも共通するのは、現地化されすぎていて現地の人々も日系企業であることをあまり認識していないということだ。
現地企業と思われることが必ずしも良いわけではないが、それだけ人々の生活に溶けこむ努力が必要であることを示している。

マンダムはインドネシアで200億円程度の売上をあげ、現地で上場もしている。
しかしここまでインドネシアに浸透するまで10年単位で辛抱強く販路を広げてきた。
インドネシアには150万店ほどのパパママショップを含めた小売店があるが、一つ一つ足を使って販路を作り上げたのだという。


■東南アジアでの競争相手は現地企業+世界中の企業

東南アジアに進出するときに留意すべきは、競合が現地企業とその国に進出している日系企業だけではなく、世界中の有名企業も競合するのだという認識を持つこと。
いま東南アジアの国々には世界中の企業が熱い視線を注いでいる。
生産拠点やオフショアセンターの設立先として、そして今後大きなマーケットになることを見越して企業力の高い企業ほど果敢に東南アジアへ進出している。

得てしてそんな外資のスター企業は強力なライバルになる。
例えばサムスンはベトナムやその他東南アジアでも発展が進んだ地域にGalaxyのショップを展開している。
現地の人々は所得が増えてきているとはいえ、日本人にとっても高価なGalaxyの最新のモデルを買えるのはほんの一部の人たちにすぎない。
それでもサムスンが店舗を維持し続けるのは、数年後ベトナムの人々がGalaxyを購入できるだけの購買力を付けた時に憧れのブランドになるためだ。

こうした戦略的かつ忍耐を要する打ち手を実行できる企業と渡り合わなければならないのだ。


photo credit: Stuck in Customs via photopin cc

2013/06/26

大衆薬のネット販売解禁によって起こるだろう変化は?



一般大衆薬品のネット販売が事実上解禁となり、大衆薬販売の間口が一気に広がった。
2009年に規制緩和で登録販売者という資格を獲得すれば大衆薬を販売できるようになった。
2011年時点で10万名を超える登録があったようだが、さらに今回のネット販売によって大衆薬販売のハードルが下がったのだ。

一気に間口が広がることによって、今後どんな変化が起こるだろうか?

今まず足元で起きている変化は、大衆薬定価販売の終焉だ。
価格.comではパソコンや家電と同じようにネット販売されている大衆薬の最安価格情報を掲載されている。
口裏を合わせるようにどのドラッグストアでも定価で薬が販売されている時代は終わったのだ。

これまで大衆薬の販売は規制の上に成り立っていたビジネスモデルだった。
しかし、これまでその規制の恩恵にあずかっていたドラッグストアは独占的ポジションを剥奪されて不満だろうが、消費者にとっては大いに歓迎すべき変化だ。


今後大衆薬周辺の業界ではさらに大きな変化が起こるのではないだろうか。
まず考えられるのは、現在のリテールショップ=ドラッグストアの相対的な地位の低下だ。
大衆薬をネット販売する業者が沢山生まれるだろうから、卸売業者にとっては取引先小売店が増えることになる。
一方、これまで販売を独占していたドラッグストアの大衆薬販売シェアは減少し、卸売業者への交渉力が弱まる。
すると、卸売業者は相対的にリテールよりも交渉力が強くなるかもしれない。

次に訪れる変化としては、卸売業者が流通小売化して自ら販売を始めるかもしれない。
ECならば販売店よりもはるかに低コストで素早く出店できるし、卸売業者の商品仕入価格は当然小売店よりも安価なので消費者へ低価格を訴求できる。

2013/06/25

他社資産を借りてリーン・スタートアップ

スタートアップや新規事業を素早く立ち上げる方法論として、リーン・スタートアップという概念がここ数年ホットな話題になっている。
リーン・スタートアップとはコストや時間を最小限に抑え、テストマーケティング的に最小限のサービスをコアターゲット顧客に対してセールスしていく方法だ。
自分たちが立ち上げようとしている事業の仮説を早い段階でマーケットへぶつけ、そのフィードバックから学んで素早く戦略を修正する。
その結果、スピーディな事業立ち上げを実現し(急がばまわれの理論)、また、立ち上げ失敗の可能性を減らすことができるとされている。

リーン・スタートアップで有効な方法論の1つは、他社の資産を借りることだ。

やや抽象的な表現になるが、いかに競合よりも強い資産を持ちそれらを有効に活用するかが強い事業を作るポイントだ。
だが、スタートアップ企業が自社商品に対するマーケットの反応を知らないまま資産へ多大な投資をしてしまうと、マーケットの読みが誤っていることに気付いた時にはもう後戻りができない状況に陥っていしまう。
そういったリスクを避けるため、多少のコストはかかっても他社の資産を借りるという手段が有効だ。

例として、中国や東南アジアのマーケットでアッパーミドル階級の消費者向けにカタログショッピング事業を立ち上げようと考えているとする。
すると、まずターゲットであるアッパーミドル階級の消費者へカタログを配布することが非常に重要になるが、スタートアップや小予算の新規事業が海外のマーケットに一から流通網を敷くのは不可能だ。

そんなときには、すでに進出している日系企業のインフラを借りることを検討しよう。
例えば、アジア進出しているクロネコヤマトやヤクルトレディのような物流インフラを持つ会社とのジョイントベンチャーが考えられる。

いかんせん自分たちは規模の小さいスタートアップなので、提携先が金銭的に儲かるような提案をするのは難しいかもしれない。
しかし、カタログ一冊配布につき少額のインセンティブを末端のドライバーやヤクルトレディに提供できれば、彼ら彼女らのやる気とリテンションが上がるだろう。
それだけでも提携先企業には大きなメリットを与えられるかもしれない。


スタートアップのベンチャー企業はこうした泥臭くてスマートなやり方を違和感なく使えるだろうが、あまり新規事業開発に経験のない大手企業が新規事業立ち上げをしようとすると、過大な初期投資をしてしまう失敗を犯すかもしれない。
もちろんそれで上手くいくこともあるかもしれないが。
だが、新たな事業立ち上げに関わる人は、いつでも他社資産を借りるという手段を頭の隅に置いておくべきだろう。

2013/06/24

ショーウィンドウ化を逆手に取ったアパレルブランドBonobo



ECサイトが発達した影響で、多くのアパレルブランドやファッション雑貨店は店舗ショーウィンドウ化の恐怖におののいている。
ショーウィンドウ化とは顧客が小売店では商品を見たり試着したりするだけで商品を購入せず、実店鋪より安かったり自宅まで届けてくれるECショップで購入してしまうという現象だ。
小売店からすれば頭の痛い問題がもしれないが、消費者からすればとても理にかなった行為と言えるだろう。

このショーウィンドウ化という現象をむしろポジティブに捉え、活用しているブランドが現れた。

米国ニューヨークにBonobos(ボノボ)というEC専門のメンズアパレルブランドがある。
このブランド、スタンフォードMBA卒のAndy DunnとBrian Spalyによってシリコンバレーで産声をあげたという珍しい経緯を持ったアパレルブランドだ。
ファッションが大好きであるにも関わらず実店舗での購入が煩わしいと感じていた創業者によって生み出されたブランドだけあって、商品の販売はECショップだけで行われている。


そんなBonobosがワシントンDCにオープンした店舗が話題になっている。
この店舗はショーウィンドウ機能として作られており、商品を見て試着することはできるが一切購入することはできない。
デザインを見繕って試着してサイズを決めたらECショップで買ってください、という極端なコンセプトで作られている。
しかもしっかりフィッティングのアドバイスができるよう、完全予約制となっている。

まさにショーウィンドウであることを極めた店舗だが、話題性だけでなく実質的なメリットも少なくない。
店舗の商品を売るわけではないからレジ担当もいらないし商品の品出しや棚卸も必要なく、一般的な小売店と比べて人件費を抑えられる。
ECショップでの購入はもちろん人件費が掛からない。

さらに、店舗で購入しないということは店舗の商品が回転しないということなので、在庫のためのバックヤードもほとんど必要ない。
店舗物件面積のうち殆どを販売スペース(販売しないけれど)に費やせるので、物件の利用効率も良い。

購入する側にとっても、カートを持ち歩かずに済む、購入するために並ばなくて済む、買わなくても罪悪感を感じずに済むというメリットがある。

ただ、もちろんネガティブな面もある。
実店舗と違って選択してからECショップで購入するまでの時間差があるため、コンバージョン率が下がってしまう可能性が高い。
平たく言うと、店舗では買う気まんまんだったが、家に帰ってきたらすっかり熱が冷めてしまってやっぱり買わなくていいや、と心変わりしてしまう可能性があるということ。



通常のアパレルショップや小売店は、店舗のショーウィンドウ化をネガティブに捉えてしまう。
店舗をショーウィンドウとして使うことは、小売店からすればあってはならないことかもしれないが、消費者からすると便利で自然な考え方だ。
両者の感覚には大きなギャップがある。

だからこそBonobosのような試みは消費者に受け入れられ、小売店の価値を根底から変える大きなトレンドの波になるかもしれない。
そのとき、実店舗を持つ小売店はこの変化に付いて行かなければ振り落とされてしまうだろう。

2013/06/22

専門店が専門店でいられなくなる理由

近年、専門店という言葉の敷居が高くなってきている。
一昔前であれば専門店として認められていた業態の店が専門店と見做されなくなって来ているのだ。

ちょっと古い例を上げれば、昭和の昔にはおもちゃ屋というのは専門店として成立していただろうが、ゲームなどはゲームショップへ、アニメやフィギアはアニメイトのようなそれ専門の店へ進化し、昔で言うおもちゃ専門店であるトイザらスのような業態は専門店よりもむしろ総合店という認識のされ方をしているだろう。


専門店が専門店であることが難しくなった理由は、Webの発達にあると思って間違いないだろう。
これまでは専門店の店員にお伺いしないと得られなかった専門性の高い情報が、誰でもWeb上で容易にアクセスできるようになったからだ。
専門店のアルバイト定員程度であれば、少し趣味に入れ込んでいる消費者のほうがよっぽど豊富な情報を持っているという倒錯的な状況になってしまった。

大塚家具という家具専門店があるが、同社はここ10年ほどで売上をコンスタントに20%程度落としている。
大塚家具の大塚社長は、売上下落の原因の一つに専門性の欠如を挙げている。
上で述べたように専門性の高い情報を消費者が得られるようになったこと、「家具専門店」よりも専門的な「ソファ専門店」や「照明器具専門店」がECショップとして現れてきたことを、大塚家具が相対的に専門性を失った理由の原因と考えている。


現代の、そしてこれからの専門店はどんどん細分化されたニッチの専門店であることが要求されていくことになる。
私はバイク好きだけど、バイク好きの中では結構一般的なバイクに乗っている。
もしもハーレーに乗っていたら今通っているような汎用的なバイク用品店では飽きたらずハーレー専門ショップに行くだろうし、オフロード好きだったらオフロード専門店に行くだろう。

やがて突き詰めていくと商売として成り立たせるのは難しいくらいのニッチになっていくので、高度に専門家した小売店というのはECに向かうことを運命づけられているのかもしれない。

新しいサービスも新規事業もきっかけは圧倒的な洞察から



新たなサービスも新規事業も、その種は顧客に対する圧倒的な洞察にある。
顧客の目線で顧客のペイン(商品にたいする不満や物足りなさ)を拾い上げると新たなサービスや事業のヒントになることが沢山あるのだ。

タクシー業界のという古い業界で何十年も生まれなかったイノベーティブな新サービスを例に、顧客に対する洞察がいかに大切か見てみよう。


2002年の規制緩和によりタクシー業界は自由に新たな事業者が参入できるようになった。
バブル崩壊以降はタクシー利用者がコンスタントに減っているのに参入者が増え、一気にタクシー業界の収益性は悪化した。
自由化は仕方ないことだが、結果的にタクシー業界は低賃金で長時間労働で体力的にきついブラック業界になってしまった。

業界としてはずっとサービスの内容に変化がなかったタクシー業界だが、日本交通はそんなタクシー業界に新たな変化の風を巻き起こした。
皆さんもご存知かもしれない、スマホのタクシー配車アプリを初めて業界で作ったのは何を隠そう日本交通だ。
スマホの配車アプリが初めて登場したのは2011年のことだが、2012年に早くも5億円の売上を配車アプリ経由で達成した。

なかなか必要なときにタクシーがつかまえられないというのは誰しもが一度は感じた悩みだろう。
誰もが感じる悩みだが、何十年も解決されることはなかった。
だが、さすがというか、マッキンゼー出身の川鍋社長は業界の他の経営者たちとは違い、スマホという新しいテクノロジーを活用することでずっと未解決であった問題に解決策を提案した。

日本交通はさらに利用者のペインを解決する新たなサービスを次々に生み出している。
例えばスマホアプリに登録しておいたクレジットカードで自動決済できる仕組みだ。

このサービス、子を持つ主婦のニーズを捉えているのだという。
なぜなら子供の塾や習い事の送り迎えにタクシーを使いたいが、大金やカードを持たせるのは心配だから。
そんな親心に対する鋭い観察眼があったからこそ、このサービスは生まれた。

エッジの効いた新しいサービスをどんどん生み出しているANZENタクシーでは、時間料金制でお年寄りのお墓参りの送迎と介助をするサービスを提供している。
ニッチではあるが、このサービスも日本交通と同じように「なんで今まで放っておかれたのだろう」と思える利用者のペインを解決している。
これもお墓参りに向かうお客さんを観察していた運転手のアイディアから生まれたのではないかと推測する。


日本交通もANZENタクシーも今までに業界になかったサービスを顧客のニーズに対する鋭い洞察から生み出している。
恐らく一番顧客に近い運転手が「こんなサービスがあったらあのお客さんはもっと喜んだのになあ」というような日常の発見から生み出されたのではないだろうか。
新しいサービスでも新規事業でも、種はいつもとは言わなくても現場に落ちていることはとても多い。
オフィスにこもりがちなマーケティングや事業開発・事業企画の人たちはこの教訓を忘れてはいけない。


photo credit: Thomas Leuthard via photopin cc

2013/06/21

フラット化する世界でSkypeでつながるフィリピン人と日本人



最近英語学習のために、フィリピン人の英語チューターとSkypeで英会話レッスンができるサービスを利用している。
月額5000円程度で毎日好きな時間に25分レッスンが受けられるという便利なサービスだ。
実際には難しいのだけれど、もし毎日受けたなら一日あたりのレッスン料はたった百数十円という破格の英会話練習だ。

このサービスがメジャーになったのは数年前で結構時間が経つのだが、今更ながらフラット化する世界というものを痛感する。
地球の裏側とは言わないが、数千キロ離れた先の人とコミュニケーションを好きなときにタダで(英会話料金は別だけど)取れるのだ。


だが、テクノロジーはドッグ・イヤー、ラット・イヤーで進んでいくが、人間の意識はそのスピードについて行くのは容易ではない。
テクノロジーの進化のおかげでフラット化した世界を猛烈なスピードで行き来できるようになったとしても、自分の意識がそれに追いついていない可能性があることを、十分に認識すべきだろう。

なんだか抽象的な表現になってしまったので、具体例を示してみよう。
私がフィリピン人の英会話レッスンを受けているのは、英会話の上達という目的の他にもう一つ、フィリピンというマーケットの定性的な調査という目的も持っている。
あるビジネスを東南アジマーケットに持ち込みたいと考えているのだが、そもそもそのマーケットが存在しているのか、日本の顧客と同じ課題を東南アジアの顧客も持っているのかということを調べている。

そんなさなか、自分がフィリピン人を大きなひとくくりのカテゴリで考えていることに気付いた。
日本人を相手に考えていたら、当然のように地理的要因やその他の要素でカテゴリ分けをしていただろう。
つまり、Skypeという技術の発達のお陰で一人ひとりのフィリピン人とアクセスできるようになっていたにも関わらず、私の認識力はその状況に追い付いておらず彼らを一人ひとりの個人として扱う準備ができていないのだ。

全くもって反省した。
私は彼らのバックグラウンドや居住地や環境などについて詳しくヒアリングしなかったのでコンテキストへの理解が足りず、彼らのインタビューから得られた情報からうまく仮説を作ることができなかったのだ
ただの事実の羅列以上のものではない。


技術の進化によって導かれた場所にふさわしい意識を獲得するには時間と経験が必要だ。
フィリピン人と気軽にSkypeで話せるようになったとしても、彼らを「フィリピン人」というマクロな目線で一緒くたにしてしまっては自分がフラット化できていないことになる。
日本人をセグメンテーションするのと同じ細かさでフィリピン人もセグメンテーションできて、はじめてフラット化を最大限に使いこなしていると言えるのではないかと思い知らされたのだ。

2013/06/20

役に立つ相談、役に立たない相談


たった一人で事業を回しているベンチャー起業家でもない限り、ビジネスは必ず他の人とのコラボレーションを必要とする。
いや、個人事業主だって社員一人のベンチャー企業だって必ず外部の人との協力があるはずだ。
いずれにせよ、ビジネスにおける成功はどれだけ上手く内部・外部のステークホルダーと上手く協力できるかにかかっている言っても過言ではない。

人と協力してビジネスを進める上で最も大切なのは、上手い「相談」だと思う。
相談はビジネスにおいて様々な機能を持っている。
情報を得る、パーミッションを得る、アイディアをもらう、共有する、というように悩みを打ち明けるだけの機能ではないのだ。


役に立たない相談とは?

仕事ができないと言われる人たちには「相談が下手」という共通点があると私は感じている。
そして、下手な相談には2パターンある。

丸投げ相談

一つは、何も考えず「どうしましょう?」と聞いてくる相談。
上司が部下の思慮を試すようにこの質問を投げかけることはあるが、同僚に対して、または上司や外部の人に対してこの質問をするビジネスパーソンは要注意だ。

思考と判断を完全に人に委ねていて、私はあなたが決めたことをするだけのロボットですと言っているようなものだ。
こうした人はいくら作業が正確で早かったとしても、新たな付加価値を生み出すことはできない。
優秀なメンバーではあってもマネージャーやリーダーには向かない人材だ。

逆に多少思考が浅くても自分なりに考えて提案を持ちかけてくる相談者は優秀なビジネスパーソンの卵だ。


迷走している相談

もう一つの下手な相談は、目的がわからなくて迷走している相談だ。
こうしたい、ああしたい、という相談でもなければ何かを聞きに来たわけでもない。
相談されていても着地点が見えず、相手が何を欲しているのか分からない。

そんな相談を受けると時間と気持ちに余裕がある時ならまだしも忙しい時だととてもイライラがつのる。
相談している側が何を求めているのか分からなければ当然価値のある返答ができない。
相手に何を求めているのかをはっきりさせない相談は両者にとってただの時間の無駄だ。

迷走した相談をしてしまう人はたいてい論理的思考力が不足している。


自分への戒めも含めてダメな相談の例を挙げてみた。
人によってはこういうダメな相談を受けると、一発でその人に仕事ができないという烙印を押す人もいる。
挽回するのはなかなか難しいものなので、くれぐれも注意しよう。


2013/06/18

紙とペンが最強の思考ツールである


今日は普段と趣向をちょっと変えて、ノウハウやツールについてちょっと語ってみたい。

思考するときに使うツールについてだ。

まず初めに断っておくと、どんなツールを使おうがそれは人それぞれ好みに応じて使えば良いと思っているので、へーそう考える人もいるんだふーん、くらいのスタンスで読んでいただきたい。

結論から言うと、私は人が何か思考するのに最も適したツールは紙とペンだ。
しかもなるべく「書く」という行為に集中力が削がれないものがいい。
私はインクが途切れにくいゲルインクのボールペンと、A4見開き(つまりA3サイズ)の無掛ノートを愛用している。

反対に、パソコンのワードやパワーポイントを使って思考するの全くもって効率が悪いと思っている。
最近はマインドマップソフトもあるけれど、私も使ってみたもののやはりイマイチだ。

なんで鉛筆やシャーペンでなくてボールペンなのか、はたまたなぜA4サイズで無掛というあまり普通の文房具屋に置いていない上にちょっと高いノートを使っているのか、それぞれに明確な理由を持っている。
ちょっとうんちくを語らせていただこうじゃないか。

後戻りしない思考

ボールペンを使う理由は、鉛筆やシャーペンでは消しゴムで消して後戻りできてしまうからだ。
私たちは小学生の時から減点主義の教育を受け、間違えることは悪いこと教えられて育てられてきた。
その結果、とても多くの人達が間違えを恐れて最初の一筆を躊躇する。
あるいは、書いた事柄を振り返ってもうちょっと綺麗な字で書きな直そうかしら、とか言い回しがイマイチだなので言葉を変えようとか、いつまでもくよくよ気にしてしまう人がいるのではないだろうか。

何を隠そう私自身その手合いだ。
ついつい言葉選びで悩んでしまい、そこで手が止まってしまうことがしばしばあるのだ。
ちなみに紙と鉛筆よりも修正が容易なPCで書いているともっとこの後戻り癖は強化されてしまう。(この一文だけで7回も直した。)

新しいアイディアを探してブレストしているような場合、書き終わったことの修正に少しでも気を取られてしまうのはエネルギーの分散にほかならない。
だから、一度書いてしまったらもう修正の効かないボールペンで書きなぐってしまうのがいい。
どうせ自分が分かれば良いのだから、人が見て分かりやすいノートである必要はないのだ。
見やすさよりも思考に集中することだけに全神経を注げることが重要なんだ。



思考を制限されない無掛

ノートは無掛。
これは私にとって妥協できないこだわりだ。

むしろなんでノートに横掛の線が入っているのかが理解できない。
ノートは横掛の線が入っているが、ノートを横にして横書きにする可能性を考えないのだろうか。
ノートにチャートを書くときに横掛があることによって見辛くなることを考えないのだろうか。

掛線があるだけで、私は思考が非常に制限されてしまうように感じるのだ。
どうしても掛線に合わせて文字を書いてしまうので文字の大小で表現するときに心理的な抵抗感を感じてしまう。
チャートを書くときもどうしても掛線にとらわれてしまう。

一方、無掛の真っ白なキャンパス状態のノートであれば、紙をはみ出ない限り制限するものはない。
それはそのまま思考の広がりをも左右するだろう。

もしも、無掛では読み返したときに見やすいノートが書けないではないか、という反論があるのなら私の抗弁は一言。
PCを使えばいいじゃない。



双方向の思考に対応

PCではなくて紙とペンを使うべき需要なポイントが一つある。
それは、紙とペンなら拡散と収束、双方向の思考に一つのツールで対応できるということだ。

拡散の思考とは、ブレインストーミングのように新しいアイディアを生み出すために連鎖的に発想を広げていく思考だ。
一方、収束の思考とは、広げたアイディアをカテゴリーや時間軸などの法則に従って分類しまとめる思考を意味する。

PCで思考を行おうとすると、拡散と収束で異なるツールが必要になる。
PCで拡散思考に合うツールはなかなか無いのだが、強いてあげれば一般的なテキストパッドかマインドマップのようなブレストアプリだろう。
収束思考を助けるツールは充実していて、いわゆるワード、エクセル、パワポのオフィスツール全てが収束思考に向いている。

ある程度思考を拡散してアイディアを広げた所で収束させてまとめようとすると、PCでは2つのツールを行ったり来たりすることになってしまう。
無理やりパワポで拡散と収束をしようとすれば、ツールと合わない拡散思考に集中できず、どのフォントにするかとか、どのシェイプにするかということに意識が削がれるだろう。

紙とペンなら拡散した思考をそのまま同じシートに収束していける。
スペース不足以外に無駄なことに気をそがれることもない。
だから紙とペンは思考に最適なツールなのだ。

新興国ビジネスで気をつけるべきマクロ課題

ソブリンリスクや人件費、物価の高騰リスク、また、反日教育による反日思想というリスクを目の当たりにし、日本の企業の目は中国から東南アジアに集まり始めている。
私も企業内で事業開発屋としてASEAN諸国でのビジネス展開を企画しているのだが、魅力的な市場である反面、いろいろ難しい事情もある。

実際に自分で調査をしていて気づいた、新興国をマーケットとして参入しようとしている企業が気をつけなければならないマクロな課題を取り上げてみよう。

マーケットの成立
新しい新興国へ日本企業が進出する場合、ほぼ確実に最初に進出するのは製造業だ。
なぜなら、製造業は進出初期段階では新興国をマーケットとしては見ておらず、安価で豊富な労働力のある場所と考えるからだ。

一方、小売やサービス業が新興国へ進出するとき、それは新興国をマーケットとして見るということだ。
新興国をマーケットとして進出するには、送り込もうとしている商品やサービスに対するニーズが存在していることが前提となるが、実はこの条件が満たされていないことが多い。

先進国企業が新興国マーケットに製品を紹介しようとするとき、企業はやがて新興国の人々がその潜在的なニーズに気づくことを期待して、マーケットの掘り起こしを行う。
社会の発達度合いや都市部の発展を見てそのニーズが何年後にマーケットとして成立するのかを予想することは可能だろう。
だが、常にそのマーケットが成立しないのではないか、人々がニーズを感じないのではないかというリスクというか不安があるものなのだ。

宗教や文化に起因するリスク

この国ではニーズがあるのにあの国ではそのニーズが成立しないという状況は、宗教や文化に起因している可能性が高い。
都市化や所得といったパラメーターは十分にある製品が普及するのに必要なレベルに達していたとしても、その製品を使用することが宗教的、文化的なタブーなのだとしたら全くビジネスは成立しないだろう。
宗教と文化はマーケット成立のノックダウンファクターになりえる。

例えば、軽自動車は米国で全く見向きもされない製品であるし、逆にピックアップトラックは日本で相当な物好きしか乗らない製品グループだ。
これは、道路事情や燃費に対する意識という環境や価値観という文化的な側面にマーケットが制限されていることに起因している。

ASEAN諸国で言えば、仏教の国もあればイスラム教の国もあり、言語もそれぞれに異なる。
これらの文化的、宗教的要素は常にマーケット成立の可能性を算定する上で念頭に置いておく必要があるだろう。

政治的なリスク

政治的な要素もノックダウンファクターとして常に意識しなければならない。
成立させたいと考えいているマーケットが明示的に法律で禁止されている事柄を含んだり、税制や資格制度などで実質的に制限されてしまう恐れがあるかもしれない。

先の軽自動車とピックアップの例を考えてみよう
米国産の大型ピックアップトラックは、非常に燃費が悪い。
ガソリン価格が米国より数段高い日本では、さらに燃費・ガソリン価格比率が悪くなるので大型ピックアップトラックが流行らないのも無理は無いのだ。

2013/06/16

サービスとストックビジネスに移行し始めたPCデポ



家電量販店は激動にさらされている。
2010年にピークをうった家電量販店マーケットは約9.5兆円に達したが、エコポイントや地デジ化で需要を先食いしてしまったため11年は8.5兆円に縮小し、今後も縮小傾向が続くと見られている。
縮小するマーケットで少しでも優位に立つため、家電量販店業界は買収、合併による再編が進んでいる。

業界内の競争は激化してきているが、どのメジャープレイヤーも同じビジネスモデルで競い合っている。
販売量を最大化し、メーカーからの販売報奨金でも儲けるという利益モデルだ。
だからどのプレーヤーも規模を求める。


そんな中で、PCデポはビジネスモデルを転換させて生き残りを図っている。
PCデポは厳密にいえば家電量販店ではなくてPC関連製品専門店だが、基本的に業界は家電量販店と同じ構造だ。

PCデポのサービスビジネス

PCデポが力を入れているのは修理や設定サービスだ。
各店舗に故障したPCを持ち込めば診断して修理の見積をしてくれるし、スマートフォン初心者向けにtwitterのアカウント設定もしてくれる。
また、クラウド・ストレージの提供と設定してくれるサービスもあるようだ。

料金を見ると、自分で全て出来るPCリテラシーの高い人達にとっては非常に高いと感じる価格だ。
だが、リテラシーが低い人やパソコンの問題を自己解決するために時間を取っていられない人たちには価値の高いサービスなのだろう。

PCデポの売上513億円のうち140億円をサービス売上が占めている。


PCデポのストックビジネス

PCデポのホームページを見てもらうと、他の家電量販店にない特徴的な販売方法をとっているのが分かる。

PCやタブレットなどのハードウェアと、イーモバイルやデジタルマガジン、デジタル新聞をセットで月額課金(割賦販売)型で販売しているのだ。
月額課金型の商品を増やすと、一度に大きな金額を支出するのは難しいがタブレットやPCが欲しいというニーズを持つ新たな顧客層へリーチできるのかもしれない。
しかし、PCデポがストック型ビジネスに傾倒している理由は恐らくそれだけに留まらない。

二つの商品を組み合わせて販売するということは、二つのアライアンス企業から販売リベートを受け取ることができる。
だから総額が安く見えるが十分に利益を稼ぐことができる。

また、回線や月額制デジタルマガジンやデジタル新聞をハードに組み合わせる商品が多いため、これら月額契約商品の契約数が増える。
こうした商品は物販と異なり毎月契約数分だけ仕入れて売上が上がるので、在庫を抱えるリスクがなく毎月安定した収益を上げることができる。
利益率は非常に小さいが、毎月安定した利益を得られるのは小売店にとって魅力的だろう。


他の家電量販店がスライウォツキーの利益モデルで言う「相対的市場シェア利益モデル」で争っているのに対し、PCデポはサービス型利益、ストック型利益ビジネスへとビジネスモデルを転換させて対抗している。
PCデポはこの戦略で大きく売上を上げるのは難しいかもしれないが、競合他社と比較すると安定した利益を稼ぎだす企業になれるのではないだろうか。

参考: 2013/6/6 利益モデル20. 相対的市場シェア利益モデル


2013/06/15

企画機能は企業に残るのか?


アウトソーシング。
ここ最近は少し下火になってきた言葉かもしれないが、逆に言うとそれだけエンタープライズの中で定着してきた概念だ。
企業のアウトソーシングへの意欲は伸び続ける一方なのは、下記のITアウトソーシングマーケットの右肩上がり棒グラフから明らかだ。



トーマス・フリードマンが「フラット化する世界」を出版し、多くの人が欧米や日本などの先進国企業の業務がどんどん第三国にアウトソースされていくことが予測していた。
しかしてその予測は事実のものとなり、特に欧米ではヘルプデスクやサポートセンター、人事労務管理はインドや東南アジアへアウトソースが進んでいる。
労働集約的な業務は否応なしにコストの安い世界へ輸出されていく。
まさに水は低きへ流れるだ。




このまま進めば企業から大半の業務がニアショアを含めアウトソーサーへ流れるというのが多くのビジネスリーダーたちのアウトルックだった。
その究極進化系は、企画機能と意思決定機能だけが企業に残るという考えを持つ人も多かった。
私が尊敬するビジネスパーソンもそうだったし、私自身もそうなると考えている。

だが、最近ではその企画機能ですらアウトソーシングされつつある傾向にあるようだ。


その一例として、伊藤忠ファッションシステムという企業の「ifs未来研究所」はそんな企画業務アウトソーシングの可能性を示唆している。

日経MJ 2013/6/12 p.6―――――――――
伊藤忠ファッションシステム(東京・渋谷)が設立した、企業のブランド戦略などを支援する新組織「ifs未来研究所」が話題を集めている。ファッションや建築など7人のクリエーターを中核としたチームが中心となり、消費者の視点にたって完成を重視した商品開発を支援する。 (中略) 「企業の大小を問わず、多くの経営者から商品開発の余裕が無くなってきたという声を聞く。 (中略) 未来研の幅広い分野のプロが企業を支援することでトップと現場をつなぎ、組織を束ねる横串の存在になりたい」
――――――――――――――――――

ファッション業界について私はよく知らない。
製造小売(SAP)というイノベーションが生まれ、製造原価を下げるためにもマーケットを広げるためにも新興国の開拓に待ったなしという、課題の多い業界であることは理解している。
それ故に全業界のなかでもグローバル化が進んでいる業界といえる。

だが、企業のリソースがこれらの課題解決のために割かれ、新製品開発という企画に回らないのはなんとも本末転倒だと思ってしまう。
その企業がその企業たるアイデンティティはその企業のブランド、ひいては一つひとつの製品だろう。

だからこそ企画機能はどれだけ業務がアウトソーシングされても企業に残ると思っていたのだが、現実の企業の要請は違うのかもしれない。

トレンドを見誤る恐怖!ジンガ(Zynga)の


6月の初旬、米国で最も有名だったブラウザ型ソーシャルゲームのジンガ(Zynga)が売上不振から20%近い社員をレイオフするというニュースが流れた。
2007年に創立されたこの企業はわずか5年で昨年2012年度に過去最高の1000億近い売上を上げていたというのにだ。

下図の売上推移を見てもらえれば、いかに急激な売上減少に直面しているかがわかるというものだ。
この売上減少は一時的な要因などではなく、プレイヤーの現象という本質的な価値の流出を反映しているのだ。

出展: Inside Social Games.com

なぜジンガはこんな悲惨な状況に見舞われているのか。
それは、モバイルゲームへのシフトという大きなマーケットトレンドに乗り遅れたことが原因だ。

ジンガはブラウザ主体のFacebookソーシャルゲームで大成功し驚異的な利益を上げるという成功体験を経験した。
が、これが仇になりモバイルシフトへの対応が遅れたのだ。
ここ数年、スマートフォンの普及によりモバイルへのゲームシフトが顕著だ。

ジンガにとって悪いニュースなのは、ゲームのモバイルシフトは一時的なサイクルではなくブラウザゲーム市場が縮小していく大きなトレンドだったということだ。
サイクルとトレンドを見誤ることは危機的な状況を生み出す。

サイクルとトレンド

どんな業界にもサイクルとトレンドというパターンがある。
サイクルは循環する景気のように、アップダウンを繰り返す流れを言う。
スライウォツキーの景気循環利益モデルはこの景気循環サイクルを上手く乗りこなす企業がいかに儲けるかを書いた。

参考: 2013/5/28 利益モデル17. 景気循環利益モデル

景気循環サイクルにおいては、基本的には冬の時代に力尽きなければやがて平等に夏の時代がやってくる。
だがトレンドはそうはいかない。

トレンドは、サイクルと違って不可逆な変化がマーケットに起きた状態を言う。
下りのトレンドに入ったマーケットは、早く脱却しなければ大きな火傷を負うどころか一つの事業に頼っている企業はそのまま倒産に至る可能性が低くない。

分かりやすい例はスマートフォンにマーケットを奪われたフィーチャーフォンだ。
スマートフォンはフィーチャーフォンが持っている機能を全て有しているので、スマートフォンユーザーがフィーチャーフォンに戻ることはない。
余程の物好きを除いては。

幸いフィーチャーフォンを製造しているメーカーはスマートフォンに移行できたので商品のラインナップが大きく入れ替わったというだけで済んだ。
だが、コンパクトデジカメの製造メーカーからするとスマートフォンの台頭は悪夢だ。
これまでキャリアとのビジネス経験がないコンパクトデジカメ製造メーカーがスマートフォンを製造してもそう上手くは行かないだろう。
スマートフォンは今後も普及率を伸ばし続け、コンパクトデジカメはその存在意義が変わるほどのイノベーションが起きない限りマーケットはシュリンクし続けると思われる。


トレンドは不可逆なマーケットの変化を起こしてプレイヤーに退場を迫る。
ブラウザゲーム市場とモバイルゲーム市場はさほど企業が必要とするアセットに大きな違いはない。
ジンガはトレンドを見誤って危機を迎えたが、まだまだ挽回のチャンスはある。

2013/06/13

スライウォツキーの利益モデルまとめ


スライウォツキーの23の利益モデルを一つ目から解説し始めてはや3ヶ月。
ようやくひと通り全ての利益モデルの解説を終えた。
中にはそんなの当たり前じゃん、と思われるような利益モデルもあったし、今なぜマッチングサイトやポータルサイトが花盛りなのかを教えてくれる利益モデルもあった。

読者の皆さんにもこの利益モデルを自社のビジネスに活かしてもらえれば幸いだ。
スライウォツキーの利益モデルについて筆を置く前に、この利益モデルとどう付き合えばいいのか少し考えてみたい。

 

プロフィットゾーンの移動と利益モデル

プロフィットゾーンは有機的に移動している。
それは以前のビジネスモデルが通用しなくなるという形で発露する。

プロフィットゾーンの移動、つまりビジネスモデルのターンオーバーは半世紀前は数十年単位の移動だったかもしれない。
しかし今では数年サイクル程度まで高速化してきている。
今の時代に生きる我々は、ビジネスパーソンとしての約40年間を1つの安定したビジネスモデルの上で胡座をかいていることはできない。
必ずビジネスモデルの大きな変化に出くわすことになる。しかも何度も。

利益モデルは、次にどのような利益モデルが台頭してくるのかを予測する羅針盤としての役割を果たしてくれる。
今後新しい利益モデルが現れることもあるだろうが、23の利益モデルを知っておけば今後起きる、もしくは今起きているプロフィットゾーンの移動がどこに向かっているのか、予想を容易にしてくれる
利益モデルを知る企業は、タイムリーに変化に対応して過去の成功体験に縛られたまま朽ちていくという成功企業によくある失敗の轍を避けられるだろう。


ウォルト・ディズニーのような優れた企業はプロフィットゾーンの変化に敏感であった。
80年台に映画のブロックバスター利益で大きな発展を遂げた同社だが、映画作成のコスト上昇によりもはや映画でブロックバスター利益を狙ってもそこはプロフィットゾーンではなくなってしまったことに気づいた。
そこでウォルト・ディズニーのCEOであったマイケル・アイズナーは、ディズニーキャラクターという資産を使った利益増殖モデルに路線変更したのだ。
このように、利益モデルは決して一つのモデルに固執するべきではなく、またモデルに当てはめるために無理にビジネスモデルを歪ませるためのものでもない。
ビジネスモデルの変更が必要になるときに経営者を導いてくれるフレームワークなのだ。


スライウォツキーの利益モデルは、一つひとつのモデルが厳密に相互排他的であるとは言えない
モデルによっては多少のオーバーラップがある。
スライウォツキーは理論の厳密さよりも、現実的に使える理論を目指していたと言える。

ビジネスのフレームワークはいかに美しい理論であるかよりもいかに使いやすいか、効果があるかが重要だ。
せっかく得た知識なのだから、失敗を恐れずに活用して結果を出していこうではないか。


利益モデルエントリー一覧



 


2013/06/12

とあるIT企業のゲリラマーケティング



先日あるITのイベントに参加したのだが、ある外資系IT企業が面白いゲリラマーケティングを行なっているのに出くわした。

私が参加したイベントは幕張メッセで開催されているもので、多くの企業がブースを開いている、いわゆる展示会形式のイベントだ。
どの企業も予算が許す限り広いスペースを獲得し、派手な飾り付けや電飾を行い、イベントコンパニオンを使ってノベルティの配布を行なっている。
みんな少しでも自社を認知してもらおうと必死なのだ。


一方、そのとあるゲリラマーケティングを行なっていた企業は最小限のブースを開いているだけで、特にノベルティを配布することもキレイなおねーさんがお客を集めるようなこともしていない。
これで本当に客を集められるのだろうか?元はとれているのだろうか?
最低限のブースでも、恐らく50万近い参加費を払っているはずだ。

しかし、その企業はとてもクレバーな戦術をとっていた。
幕張メッセの会場までは駅からそこそこ歩くのだが、駅を降りたところで社名ロゴ入りのうちわを配布していたのだ。
社名ロゴ入りのうちわを配布するなんてことは夏になればよく見かけるなんでもない広告方法であるのだが、このイベントに合わせて駅前で配るというのが名案なのだ。

このゲリラマーケティングのどこが良いのか?
まずコストが掛からない。
もちろん配布しているキャンペンガールのアルバイト代とノベルティ代はかかるが、それだけだ。
会場に付けば暑いのだからうちわを受け取る可能性は高い。
それに、イベント会場に付く前にイベント参加者に自社の名前とロゴを覚えてもらうことができる。
会場に入れば有象無象の企業が参加者の注意を奪うために苛烈な競争をしている。
だが、駅を出たばかりで会場に向かう観客の注意はノーガードだ。


他の企業は誰もルールを定めていないのに会場内だけで客引きをしていたところ、この企業だけはそのルールから自由になり最小限のコストで最大限の成果を得ていた。
これがゲリラマーケティングの真髄だ。

利益モデル23. デジタル利益モデル


ついにスライウォツキー利益モデル最後の23番目、「デジタル利益モデル」にたどり着いた。
デジタル利益モデルは、従来型の事業プロセスからデジタル化した事業プロセスへ変更し、納期や在庫回転率などの効率を高めて競合よりも利益を高めようというモデルだ。

ストレートに言って、今の時代IT化できることはIT化するのがスタンダードなので、デジタル利益モデルがプロフィットゾーンに導いてくれる可能性は低くなってしまったと言わざるを得ないだろう。
それでもまだIT化が進んでいない分野、例えば農業や林業など、ではデジタル利益モデルによってプロフィットゾーンに辿り着けるかもしれない。


デジタル利益モデルとは、IT化によって事業効率を上げ利益を得るモデルである。
効率化される領域は経理や人事・教育のようなバックオフィスの場合もあるだろうし、CRMツールやマーケティング統合プラットフォームのようなフロントオフィスかもしれないし、製造効率化や倉庫管理の効率化かもしれない。
あらゆる領域でITは業務効率を大幅に引き上げ、コストの削減や売上の拡大に結びつく可能性を秘めている。

重要なポイントは、IT化によって引き上げられる効率は数%、数十%というレベルではなく、数倍〜数十倍に至ることが多いという点だ。
もしもAmazonの在庫管理と配送システムが人力で行われていたとしたら、今の当日配送は全く不可能で最短数日後にならざるを得ないだろう。
もしも楽天というECプラットフォームがなければ、狭いローカル地域を商圏としたビジネスしか展開できず、今よりも数分の一の売上になっていた小売業が数百から数千社あっただろう。


どのような領域でIT化するのであるにしろ、IT化はゲームのルールを変え競合優位性を高めることができるのだ。
だが、初めにも書いたとおりITはそれだけ強力なツールなので、競合も手をこまぬいて自社がIT化を推進するのをただただ眺めていることはない。
IT化は業界ごとにすぐに標準化されてしまうのだ。
この状況に至ったのはIT企業乱立によるIT化コストの低減が上げられよう。


IT化にもはや聖域はなく、自社がプロフィットゾーンにたどり着くためでなく、競合にみすみすプロフィットゾーンを明け渡さないために必要な防衛手段と言えるかもしれない。

2013/06/11

利益モデル22. 低コスト・ビジネス・デザイン利益モデル


スライウォツキー利益モデルの22番目は低コスト・ビジネス・デザイン利益モデルだ。
この利益モデルでは業界の既存ビジネスモデルにまったくコスト構造が異なるビジネスモデルをぶつけ、マーケットから顧客を奪う戦略だ。
いわゆる破壊的イノベーションとも呼ばれるものだ。

低コストビジネスデザイン利益とは

低コストビジネスデザイン利益を獲得するためにはどれだけ低価格であるべきだろうか。
その基準は業界や製品ごとに異なってくるだろう。
だが、少なくとも既存顧客が大きく反応する価格差であり、それだけ低価格であっても企業が儲けられるほど生産コストが大幅に下がっていなければいけない。
それだけのコストダウンを図るには、基本的にはビジネスモデルあるいは生産バリューチェーンに大きな変更が必要不可欠となる。

例えば、何らかのコンシューマープロダクツを生産しているメーカーが賃金格差を利用して海外に工場を建設してコストダウンを図るのはまさに低コストビジネスデザイン利益の好例だ。
いくら国内工場でコストを合理化して数%の製造原価を削ったとしても、人件費や運営費が数分の1で済む海外に工場をシフトさせた企業には敵わない。
さらに、機械化で人件費をさらに圧縮した企業には人力で生産している企業にはコスト競争力で敵わない(もちろん例外もあるが)。


価格破壊か別セグメントか

低コストが別セグメントにすぎない場合もある。
低価格で業界参入したとしても、それが既存顧客を奪うことにはならず、低価格の別セグメントを生み出すかもしれない。

コストイノベーションを起こした新しいビジネスモデルは必ずしも完全に既存企業を駆逐する訳ではない。
航空業界にLCCが誕生して既にかなりの年月が経過しているが、既存の航空会社は一部統廃合などはあってもしっかりと生き残っている。

航空チケットの価格が全く違ったとしても、顧客にはそれぞれ異なるニーズがありコストだけで選択するわけではないので、既存の航空会社とLCCは共存できている。
逆に、コストイノベーション企業と既存企業が同じバリュープロポジションを持っているのであれば、顧客にとってはブランド価値以外に既存企業を選択する理由がなくなり、顧客シフトが進むだろう。


低コスト・低価格というのは基本的なバリューでありながら、やはり重要なバリューであり競争力の源泉であることを改めて認識しよう。

利益モデル21. 経験曲線利益モデル

スライウォツキー21番目の利益モデルは「経験曲線利益モデル」だ。
経験曲線利益モデルとは、その名の通りある製品の製造に携わる時間が長くなると、生産するのにかかる時間が減って利益が増えるという利益モデルだ。

経験曲線利益モデルとは

上でも説明したが、経験曲線利益モデルとは製品1ユニットあたりの製造にかかる人件費が減ることで製品1ユニットあたりのコストが減少し、利益率がアップするという利益モデルだ。
ある人材が工場に雇用され、初めは1時間に1ユニットしか製造できなかったものの、経験値が貯まることによって行動が最適化され1時間に1.2ユニット製造できるようになったとする。
すると、製造コストに占める人件費は17%減少することになる。



上記財務省の資料によると、直近の2011年で売上高人件費率は14%を占めているそうだ。
面白いことに、製造業・非製造業の数字がほぼ同じ値に集約してきている。
売上高人件費率が14%の企業が17%人件費を圧縮できるということは、2.4%最終利益率が高まるということだ。
かなり経営へのインパクトが大きいといえるだろう。

最終利益を底上げするだけでなく、圧縮した人件費を教育プログラムへ再投資してさらに習熟度を上げるペースを高めたり、時間あたりの生産数などをKPIにおいたインセンティブ制度を導入することで更なるパフォーマンスを引き出すこともできるだろう。

相対的シェア利益モデルとの違い

相対的シェア利益モデルと経験曲線利益モデルはある意味類似している。
どちらもコスト効率を高めることで利益を上げるという意味で同じなのだ。

しかし、相対的シェア利益モデルでは規模を追うことで利益を増やすというのが基本的な立場であるのに対し、経験曲線利益モデルでは必ずしも規模が必要なわけではない。
どの企業でも20%生産性を改善すればどの企業も等しく2.4%利益が改善する。
絶対額ではもちろん規模が大きいほどレバレッジが効く。

どの企業でも経験曲線利益モデルを狙えるという意味で、門戸が広い利益モデルと言えるだろう。
反対に言うと経験曲線(もっと正しく言うと社員の生産性)を意識しない企業はないのだから、どの企業もある程度手をかけている利益モデルでもあるだろう。

2013/06/10

脱サラペンション経営とサラリーマン




先日、休日に八ヶ岳近くにあるペンションで一晩滞在してきた。
良くも悪くもオーナー夫妻のこだわりに沿って、ひとつのテーマに統一された素敵なペンションだった。

どうもそのオーナー夫妻は元サラリーマンの脱サラ経営なのだが、もうかれこれ20年ほど経営しているらしい。
そんな話を聞いているうちに、なんだかペンションオーナーも悪くないなあなんて考えてしまったので、脱サラペンション経営の現実を考えてみた。


収入的には間違いなくサラリーマン時代の方が多いだろう。
ペンションは基本休日・祝日しかお客が入らないと考えていい。

52週プラス祭日20日程度を合わせて、年間72回転すると考えよう。
大体ひとつのペンションに6部屋あるとして、満室率が辛めに50%に借り置きし、一部屋平均2.2人の利用で単価が8,000円としよう。
これらを掛け合わせると、年間380万円の営業収入がある。

年間費用を回収し、夫婦が田舎で慎ましく生きていく分には十分なキャッシュが入ると言えるかもしれない。
ただし、最初にペンション経営を始めるための資金を外部からの借り入れに頼るものとすると、たちまち難しくなる。


ペンション開業には通常3000万程度かかるとされている。
これを政策金融公庫から4% 15年で借り入れしたとして、年間270万弱の返済となる。
ペンション経営だけでの返済はどう考えても難しい。

つまり、ペンション建物を相続するか安く借りられるという特殊条件がない限り、非常に難しいのか現実だ。
多くの脱サラペンション経営者は経営が立ち行かなくなり会社に戻ってくるらしい。


収入という面で言えば、サラリーマンの時より少なくなるだろうが、生活の質はそれに高いのではないだろうか。
田舎暮らしでは決まったことにしかキャッシュがでないので、380万の収入でも十分だとも言える。

何よりこの人たちはビジネスパーソンと比べものにならないほど 豊かに時間を使うことができる。
平日はほとんどお客が集まらず休みになってしまうからだ。

結局どちらが幸せなのかは考え方次第なのだろう。


2013/06/08

お金をかけずにターゲットのインサイトを調査する方法



新規事業の構想を練るとき、そのアイディアがターゲットとなる顧客に受け入れられるのか分からない。
だからターゲットのインサイトを知る必要があるのだが、ビジネスの種を探している段階では予算を投下して調査したくてもなかなかそうはいかない。
もちろん本格的にビジネスを計画する段階になれば調査にお金をかけることもあるだろうけれど。

そこで、事業構想を練る段階で役に立ちそうなコストをかけずにできるリサーチ方法を考えてみよう。
ただし・・・フィリピンの若者がターゲットの場合限定だけど。


フィリピン人の英会話レッスン

そのアイディアは、実にシンプル。
最近フィリピン人チューターによるスカイプ英会話がにわかにブームの兆しを見せている。
「スカイプ」「英会話」で検索すればたくさんスカイプ英会話レッスンのサイトが出てくる。
英会話レッスンとはいえ、もちろんフリートークを選択することも可能なので、英会話レッスンの一環としてヒアリングしたいことを聞いてみるのだ。

むろん、いきなり込み入ったことを聞くのはマナー違反だし節度はわきまえるべきだが、こんなサービスがあったらどう?とか、日本にはこんなものがあるんだけどフィリピンで受けるかな?くらいのヒアリングは問題ないだろう。

実際に私もこの手で話を聞いてみたのだが、やはり現地に住んでいる人から聞く生の情報はとても価値があった。
本当にいい時代になったものだ。


SNSを活用しよう

このエントリーで言いたいのは、フィリピン人に話を聞くならスカイプ英会話を使おうね、というものではなくて、少し頭を使えばお金をかけずともターゲットのインサイトを知ることは難しくないということだ。
最近はSNSが発達し、新興国の若者達は先進国の人たちよりもSNSに夢中のようなので、Facebookなどから様々なターゲットにリーチすることができよう。
Facebookページを作って無料でテストマーケティングもできてしまうかもしれない。

新興国にかぎらず、北米でもヨーロッパでも国内の特定の属性を持つ人達でも、アイディア次第でターゲットを集めることができる。
起業家精神にあふれたビジネスプロデューサーたるもの、お金を使わず頭をつかってリサーチしていこうじゃないか。


2013/06/07

ZoffとJINSが満たせずオーマイグラスが満たした消費者ニーズ

通販には向かないとずっと言われて続けていたメガネ。
ZoffやJINSのような製造小売もオムニチャネルコマースの一つのチャネルとしてネット販売をしているが、eコマース専業で成功しているのは2011年に立ち上がったオーマイグラス(Oh my Glasses)が初めてだろう。



オーマイグラスのサイトを見ていただければ分かるが、彼らは今流行の製造小売ではない(一部自社企画品も扱っているようだが)。
販売しているメガネの単価は決して安いものではなく、フレームだけで一本数万円の製品だ。
ZoffやJINSのような安価な製品なら失敗しても安価なのでネット購入するのは不思議ではない。
オーマイグラスはなぜ単価でZoffやJINSの倍以上するメガネのネット販売に成功しているのだろうか。

無料フィッティング

オーマイグラスで購入する最大の魅力は、5本まで無料で自宅でフィッティングできるサービスだ。
気に入ったメガネを5本まで自宅に郵送してもらい、じっくり自宅で試着してから無料で送り返すことができる。

このサービスがすこぶる利用者に受けている。
なぜなら、いろんな服装に合わせて自宅でじっくり試着して、服装に合うことを確認してから購入することができるからだ。
店舗があるメガネ屋ならいろんな種類のメガネを試すことができるが、他の服装に合わせてみることができない。
最近メガネは視力矯正器具ではなくてファッションの一部として認知されてきているが、だからこそ自分のファッションに合うかどうかを確かめたいというニーズが高まっていた。
発見されてはいたものの、満たされていなかったこのニーズに対しての答えを提案したのがオーマイグラスなのだ。
店舗を持っている企業でも与えられなかった価値を、通販の強みを活かして提供しているのが好調たる理由だ。

このサービスに顧客はとても満足しているようで、試しに借りた後に1つも買わなかった顧客はわずか2〜3割にすぎないのだそうだ。
消費者に向き合ったこのサービスのおかげで顧客はオーマイグラスへ好意的な印象を持っており、順調にファンを増やしている。


実はこのビジネスモデル、オーマイグラスが初めてなわけではない。
もとのモデルは、眼鏡と同様に通販が難しいとされていたスニーカーやシューズのネット通販でその名を轟かせたザッポスだ。
ザッポスは顧客サービス企業が靴を売っていると言われるくらい、顧客へ最高の経験を提供することに全力を賭している。
その顧客サービスは、同じく最高の顧客サービスを目指すAmazonの肝を冷やさせたほどだ。

オーマイグラスはザッポスの顧客サービスのうち、自社に必要な部分だけ抜き出して最適なサービスを作り出したのだ。

2013/06/06

利益モデル20. 相対的市場シェア利益モデル

スライウォツキー利益モデルの20番目は「相対的市場シェア利益」だ。
相対的市場シェアは、ビジネスに携わる人なら誰でも知っている、規模の経済により利益を得るモデルだ。
規模の経済というと、大口購入で原材料費が下げられるというのが一般的な解釈だが、その効果は原価の低減に留まらない。

相対的市場シェアを高めることによる効果を見ていこう。

相対的市場シェア拡大の効能

前述のとおり、まず市場シェアでトップの企業は原価低減という特権を与えられる。
あるマーケットで相対的シェアがトップということは、原材料や中間財を仕入れるボリュームが最も大きいので、よほど購買担当者が怠けなければ競合他社よりも良いディールで原材料を調達することができる。
プロダクトにもよるが、原材料は売価の数十パーセントを占めているのだから原材料費低減によるアドバンテージは数パーセントの利益率改善と同等だろう。

相対的シェアがもたらすメリットは間接費にも及ぶ。

1ユニットのプロダクトを製造するのにかかる人件費は相対的シェアナンバーワン企業とそれ以外の企業の間でさほど変わらないだろう。
だが最も多くの製品が売れている企業は、競合よりも生産ラインに従事する人材の数は多い。
生産ラインで働く人材は入れ替わりが多いため、新たに採用された人材を一人前に育て上げる教育システムの効率性はコストへのインパクトが小さくない。
相対的シェアが大きければ、教育システムに投資をしても製品1ユニットあたりの教育システム負担割合は当然競合よりも小さくなるので、この点でもシェアが大きい企業は有利になる。

同じ理由で宣伝広告費や研究開発費も相対シェアが大きければ大きいほど製品1ユニットあたりの負担額が小さくなる。
これらを積み上げると、マーケットで首位の製品は首位であるというだけで利益に数パーセントの特権があるということだ。


他にも定性的なメリットも存在している。
例えば、マーケットでトップである企業には、2位以下の競合よりも優秀な人材を集めやすいだろう。
優秀な開発者、優秀な営業、それに優秀な経営者も集まってくる。
PLではその効果を見ることはできないだろうが、長期的にその企業にもたらす価値は計り知れない。


関連エントリー:
2013/3/16 「エイドリアン・スライウォツキーのプロフィット・ゾーン経営」
2012/10/21 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 1
2012/10/22 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 2
2012/10/22 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 3


 


2013/06/05

利益モデル19. 新製品利益モデル



スライウォツキーの利益モデル19番目は「新製品利益モデル」だ。
このモデルでは、商品のライフサイクルの中でプロフィットゾーンがいつ生まれ、最大化し、消えていくのかを理解することが求められる。
そうすれば、プロフィットゾーンではなくなってしまった商品に投資しつづけるという間違いを犯さずにすみ、利益を守ることができるからだ。

新製品利益モデルとは

ある商品が世に出され、時間の推移とともに販売量がどう変化するだろうか。
例外商品はいくらでもあるだろうが、基本的にはトップ画像のようなS字カーブを描く。

では、利益と時間の推移の関係を表す曲線はどうなるだろうか。
これまた例外商品はいくらでもあるだろうが、下図のようなパラボラ曲線になるのだ。



なぜ販売量はS字カーブにも関わらず利益カーブはパラボラ曲線になってしまうのだろうか?
答えは簡単。
あまり類似製品が存在しない新しい製品を市場へ投入すると、価格設定の自由度が高いため利益率は高いが販売量は少ないから利益の絶対額は少ない。
しかし、時間とともに市場に商品が浸透してくるとどんどん利益の絶対額が増えてくる。
頂点に近くなると、ある程度競合製品が出てくるもののマーケットでの認知度が高まり販売量が増えるため、ゴールドラッシュと言えるくらい大きな利益を生む製品になる。

しかし、頂点を超える頃になると金の匂いに釣られてきた後期参入者がぞくぞくとマーケットに雪崩れ込む。
すると、マーケットには競合製品が溢れ価格破壊が起こり、全体としての販売量が増えても総利益額は漸減していくことになる。
プロフィットゾーンはもはや破壊され、一部の上位ベンダーのみが若干の利益を上げつつも、大半のベンダーは赤字続きで撤退を余儀なくされる。


いち製品のライフサイクルと利益曲線から学べることは、常にマーケットをモニターし、プロダクトのライフサイクルが頂点に達する頃には自社は撤退の準備と次のプロダクトの市場投入に投資を切り替えるべきだということだ。
言うは易し行うは難しだが、事業戦略を担う人間はこの利益曲線を理解し、適切なタイミングで市場に参入し、撤退しなければならない。

説明してきたように、新製品利益モデルはプロフィットゾーンを探してそこに浸かるためにではなく、トレンドによってプロフィットゾーンではなくなってしまう事態を早く察知して新しい製品に投資をシフトすべきタイミングを教えてくれるものなのだ。


関連エントリー:
2013/3/16 「エイドリアン・スライウォツキーのプロフィット・ゾーン経営」
2012/10/21 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 1
2012/10/22 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 2
2012/10/22 「プロフィット・ゾーン経営戦略」ノート 3


 


2013/06/03

支払う人を変えて閉鎖された市場を拡大する



昨日のエントリーで縮小するマーケットを相手にした新規事業企画は成長が望めないと書いた。
しかし、工夫次第で一見縮小し続けるしかないように見える市場でも、成長の可能性が隠されている。

参考: 

学研ホールディングスの例から、その可能性の本質を探ってみよう。


日経MJ 2013/6/3 P.11―――――――――――
学研ホールディングス(HD)は外部の交流サイト(SNS)を活用し、高齢者をターゲットとした楽習塾や教材の販売を始める。―(中略)―シニアの利用が増えているSNSで自社の商品とサービスをアピールし、孫向けに教材・塾費用を支出する3世代消費を喚起。将来の教育事業の先細りに備える。
――――――――――――――――――――――


学研の試みは、商品とターゲットはそのままでPU(Paying Unite=支払う人)を変える試みだ。

商品を変えてもそれが大きなレベニューの増加につながるとは限らない。
いくらプロダクトディベロプメントとマーケティングを上手く実行したとしても売上が増えないことがある。
それは、マーケットそのものが制限要因になっている場合だ。

学研のターゲットは子供向けの教育教材や教育プログラムの販売だが、マーケットは成長しているだろうか、それとも縮小しているだろうか?
誰でも答えられるだろう。縮小している。

下表を見ての通り、人口動向を見ても子供の人口は減り続けるトレンドを示しているし、市場動向を見てもマーケットサイズが継続的に減り続けていることが分かる。


教育業界動向(出展:株式会社ベネッセホールディングス ホームページ)



人口推移(出展:総務省)


マーケットが縮小している以上、よそからパイを奪ってくる血で血を洗うゼロサムゲームにならざるを得ない。
業界2位の学研ならまだしも、業界シェアトップのベネッセホールディングスはいくらシェア拡大に腐心してもせいぜいゆるやかな成長にしかならない。


そんな中、学研の試みはおもしろい。
マーケット、つまり親が子供の教育にお金をいくらかけるかは頭打ちだが、祖父母には孫の教育にお金を出す意欲も余裕もあると読んだのだ。
業界や商品を変えないまま、マーケットの新しいセグメントを発見したのだ。


もちろん教育業界では祖父母の財布を狙ったマーケティングはこれまでも行なってきただろうから、このニュースはさほど目新しいことではないだろう。
だが、PUを変えることで新しいマーケットが切り開けるかもしれないという視点を引き出しにストックしておけばいつか役に立つかもしれない。


関連エントリー:


photo credit: Mrs eNil via photopin cc

新規事業アイディアをマーケット視点でふるいに掛ける



ブレインストーミングして出てきた新規事業アイディアをどのように評価すべきだろうか?
新規事業を企画する部門の人たちにとっては共通の悩みだろう。

3Cなり4Pなり必要に応じてフレームワークを活用してジャッジすることもあるのだろうが、中でも事業のスケーラビリティと収益性を規定するマーケット視点でまずふるいにかけるべきだろう。
私の経験から、マーケット視点で事業企画をジャッジするときのフレームワークを提案したい。
企画が次のいずれかの4つの原則に符合しているかを考えるといいだろう。

  • これから成長拡大するマーケット
  • 主要プレイヤー達に隙があるマーケット
  • 隣接するバリューチェーン
  • 全く新しいマーケット

これから成長拡大するマーケット

まず、強力な競合がひしめく上に縮小傾向にあるマーケットをターゲットとした事業企画は筋が悪い。
例えば、日本の若者人口の増加や所得の増加を前提としたビジネスアイディアなんかがそうだ。
マーケットのパイが縮小しているのにその市場競合が沢山いるようでは、よほどイノベーティブなアイディアでなければビジネスの成立自体が困難だし、事業が立ち上がったとしても大きなシェアを獲得することは難しいだろう。

同じ商品やサービスでも、ターゲットを新興国の若者と捉えるならばそれは筋の良い新規事業になりえる。
マーケットリーダーがいたとしてもマーケット自体が広がっているので参入の余地は十分にあるからだ。

また、意外と忘れられがちだが問題となりえるのが、自社がシェアでナンバーワンを持っている市場だ。
同じマーケットで新しい製品やサービスを投入しても、売上と利益の拡大をもたらす可能性は低い。
むしろ自社の別事業と共食いする状況になってしまい、会社の存続に関わる問題を引き起こすかもしれない。
だが、イノベーションが自社のマーケットを覆い尽くそうとしている場合は、あえて共食いしてでも自社内でそのイノベーションを活用した新規事業を立ち上げなければならない時があるだろう。
出版社と電子書籍がまさにその関係だろう。

主要商品の課題解決を必要としているマーケット

成長拡大が見込めないマーケットであっても、現在の主要プレーヤーの製品・サービスに顧客が感じている不満を解決できれば、一気にマーケットシェアを奪える可能性がある。

だが一つ注意点がある。
既存の製品やサービスの問題点を必ずしも顧客が認識しているとは限らないという事だ。
むしろ顧客は問題点に気づいていないことがほとんどだが、実は存在していた問題を指摘して解決してくれる製品やサービスが出てくると急激に今利用している製品やサービスに不満を感じ始めることがある。
そこに大きなビジネスチャンスがある。

実はイノベーティブと呼ばれるビジネスのほとんどはコレだ。
書籍を書店で探すのが大変だ、何冊も買うと重くて持ち帰るのが大変だという隠れたニーズに対する答えが書籍のECサイトを立ち上げたAmazonであったし、曲を一曲ごと買えればいいのに、視聴して欲しい曲だけ買いたいというニーズに対する答えがiTunesであった。

隣接するバリューチェーン

自社があるマーケットである程度のシェアを獲得している場合、その周辺ビジネスへ侵攻していくのが新規事業の常套手段だ。
自社がビジネスを展開している業界のバリューチェーンを描き、既存ビジネスの前後から参入できる領域が見つかるだろう。
また、顧客にとって代替手段となっている商品へ参入するのも手堅い事業展開方法だ。

一つ例を上げれば、自動車メーカーが自動車購入時に消費者が必要とするリース・ファイナンスの領域に踏み込むのは新たなバリューチェーンへの侵攻であり、自動車を所有することの大体となるレンタカーやカーシェアリングへの参入は代替手段マーケットへの侵攻だ。

全く新しいマーケット

ニッチなアイディアも、実は世界を変えるほどのポテンシャルとスケーラビリティを備えている可能性はゼロではない。
アントレプレナーはすでにそこにあるマーケットではなくて、これから自分が作り出すマーケットを考えてビジネスを立ち上げる。
だが、それだけの先見性を備えているのはごく一部の優秀なアントレプレナーだけだろうし、狙ってできるようなものでもない。
しっかりと地に足の着いた企業の中で新規事業を企画するような場合、アントレプレナーのように新しいマーケットを作り出そう!と意気込んでもそんな冒険を許してくれる会社はないだろうが。


photo credit: El Bibliomata via photopin cc

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