2013/08/31

企業が米国海兵隊に学ぶべきリーダーシップ 1

海兵隊

一般的に言って、海兵隊のような軍隊に求められるリーダーシップと企業に求められるリーダーシップは全く違うものだと思われている。その際たる理由は、組織の存在理由、そしてリーダーに求められるアウトプットの質が全く異なるものだからだ。
企業は海兵隊のように命をかけたミッションではない(とはいえ一つの失敗が社会的生命を奪うこともあるが)が、海兵隊に求められるよりも複雑で不確実性が高いパズルを解かなければならないというイメージがあるからではないだろうか。

ハーバードビジネスレビュー(HBR = Harvard Business Review)が2005年に発行した「いかに「サービス」を収益化するか」にも収録されている、元マッキンゼーのディレクター、Jon R. Katzenbachと当時同社ビジネス・アナリストであったJason A. Santamariaが上梓した論文、"Firing Up the Frontline"では、いかに海兵隊の伝統的なブートキャンプやトレーニングが企業にも通ずるリーダーシップの醸成につながるかが解説されている。
とても感銘を受け、すぐに使えるナレッジでもあったので自分用のメモとしてもエントリーにまとめておきたい。

強い誇りと価値観

海兵隊員を表現するキーワードとしてよく使われる「少数精鋭(The Few, The Proud)」や「一度なったら、常に海兵(Once a Marine, Always a Marine)」という言葉は、海兵隊員のキャラクターを表している(参考: Wikipedia)。
海兵隊員は皆海兵隊であることに対して強い誇りを持っており、アメリカ国民の規範たれという自負心に満ちて責務を全うしている。この組織に対する強い忠誠心を醸成しているのは価値観の共有と規律という、企業が社員に求めるものと全く同じ要素によって作り上げられている。

海兵隊の不思議さは、4年という短い任期の間にまともな企業ではなかなか採用されないような粗野で素行が悪い荒くれ者が、組織と母国に忠誠を誓い、喜んでミッションのために命を投げ打つ人材に変貌を遂げるのかというミステリーにある。
組織に対する忠誠心と誇り、そして強いリーダーシップという、企業が躍起になって得ようとしているこれらの価値をいかにして海兵隊が新兵に植え付けているのか、元の論文の同じ以下の章立てをもって説明していきたい。

1. 中核となる価値観について徹底的に教育する
2. 全員がリーダー役をこなせるように訓練する
3. チームとワーキング・グループを区別する
4. 成績の劣る人間に注意を向ける
5. 規律を利用して誇りをもたせる

1. 中核となる価値観について徹底的に教育する

海兵隊では、採用されたばかりの新兵の教育係に着くのは、組織の中でもシンボリックな忠誠心の高い隊員達だという。
企業でも最近はクレドカードなどを配ることが多いが、クレドを配るだけではその企業の価値観を紹介しただけに過ぎない。海兵隊が価値観の紹介に留まらないのは、様々な形のイニシエーション(通過儀礼)や肉体的・精神的に追い詰められるトレーニングを通じて価値観を刷り込ませているからだ。悪い言い方をすると、やっていることはカルト宗教と変わらない。

海兵隊の新兵は、過去に起こした過ちを洗いざらい告白させられ、潔白であること、組織には忠誠を誓い嘘をつかないことをこのイニシエーションを通じて刷り込まされる。また、30キロ以上の荷物を背負って24キロの行軍という肉体的にも精神的にも追い詰められるトレーニングを行いながら、勲章を受賞した英雄的な海兵隊員の逸話を絶えず話して聞かせ、価値観を刷り込んでいる。肉体的・精神的な疲労で判断力のつかなくなった状態の隊員に価値観を刷り込むという手法は、まさに新興宗教と同じ手法なのだ。

しかし、カルト宗教と違い、教えこんでいる価値観が間違ってさえいなければ、使命感に燃える優秀な人材を創りだす方法である。

2. 全員がリーダー役をこなせるように訓練する


指揮官の負傷や死亡、その他の理由でいつ指揮官がいなくなるかわからない、という極限を想定している海兵隊では、誰もがリーダー役をこなせるようになっている。いざというときに頭をなくした烏合の衆になることは、そのチームの死を意味する。
企業ではリーダーが突然いなくなるという極限の状態をそこまで想定する必要はないと思うかもしれない。最悪別の課長クラスをあてがうなり、残ったメンバーの中から優秀な人間を繰り上げれば良いと見立てて高をくくっていることも多いだろう。だが、リーダーシップ経験のない人材が突然チームを引き継いだところで失敗の可能性が高いのは海兵隊でも企業でも同じだろう。

海兵隊では、入隊したばかりの下士官候補生に初期訓練中からリーダーシップトレーニングを行う。教官はリーダーに必要な素養を常に候補生達に語りかけ、自らの行動で率先してそれを示す。また、新米のリーダーとベテランのリーダーをペアにした「リーダーシップ・パートナーシップ」という手法でリーダーシップ能力の底上げを行うのだ。


昨今企業では組織横断のタスクフォースやプロジェクト主体の動きが多い。そんな仕事の進め方が一般化してくると、海兵隊のように全員リーダーシップを取れる状態が理想的であることは創造に難くない。誰でもリーダーシップを取れる教育システムを有していることは、他の企業に対して強力な優位性になるはずだ。

しかしながら、伝統的な企業のリーダーシップに対する考え方では、リーダーシップはトレーニングで開発されるべきものではなく個人が素質として持っているもので、その素質を持っていない人はリーダーシップ能力を開発しても効率が悪い、ないし時間の無駄であるという態度をとる。だから企業では横並びの社員の中からリーダーシップがありそうな人を選定し、選ばれた人だけにリーダーシップトレーニングを行うのが常だ。だが、この方法が本当に企業にとって一番恩恵があるリーダーシップ育成方法なのだろうか。

先に上げたように、ピラミッド型組織ありきの仕事の仕方からプロジェクト型の仕事の仕方に変わってきた今、海兵隊のようにだれでもリーダーシップを取れることのほうが価値が高いのではないだろうか。


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