2014/02/20

shazamのコンバージョンまでのルートが美しすぎる件

Shazamロゴ

Shazamというサービスをご存知だろうか。iOSとAndroidの専用アプリを立ち上げ、内蔵マイクで流れている音楽を拾わせるとものの数秒でその曲を探し当てるという便利アプリだ。全世界で1000万以上ダウンロードされていてファンも多く、つい最近Androidアプリがアドネットワークへ個人情報を送信していたことが発覚した事件もあってご存知の方も多いだろう。

私は流行りのアプリやガジェットにそこそこアンテナを張っているつもりなのだが、Shazamはつい最近まで知らなかった。使ってみて数秒で曲を確実に当てるテクノロジーと、利用からコンバージョンまでの流れがあまりにも美しかったので取り上げてみたい。

■利用場面からコンバージョンまでの美しい流れ

Shazamの何が一番気に入ったかというと、ユーザーがこのサービスを利用してコンバージョンに至るまでの心理的なハードルを下げる仕組みと、さらにそれを増長するようなシンプルで利便性の高いUI・UXだ。

・気になった曲≒欲しい曲

Shazamのサービスでは探し当てた曲を購入できるiTunesリンクやそのアーティストのコンサート情報にワンクリックでアクセスできるようになっている。いわゆる購入に至った曲のアフィリエイト収入が主な課金方法のようだが、これが実に上手くできている。

同じアフィリエイトビジネスとしてブログアフィリエイトとの比較を考えてみよう。一般的に言って、そのアフィリエイトブログにランディングするユーザー(=利用ユーザー)が購入意欲の高いユーザーである確率はあまり高くない。ブログアフィリエイト商品というと、よくダイエット食品なんかが取り上げられていたりするが、そのページに辿り着いたユーザーの多くはそのダイエット食品についての情報を集めている人である可能性が高い。そして本当に購入したい人は、楽天やamazonで検索するだろう。そこをなんとか構成や文章で購買意欲を高めてコンバージョンに持っていくのがブログアフィリエイトなのだ。

一方、Shazamのケースを考えてみよう。ふとレストランで流れている曲や垂れ流しにしていたネットラジオで流れている曲で、これちょっと良いなと思った曲を検索する、というのがモデルケースだろう。この時、ユーザーはどんな心理状態だろうか。この曲いいな、と思って探す時点で高確率で購入を希望しているはずだ。また、この曲いいな、と思った時点でタイムラグ無しで購入を薦められれば高確率でコンバージョンするはずだ。

ブログアフィリエイトと比較すると、サービス利用者が商品を購入したい人である可能性が高いのだ。
アフィリエイトモデル、広告モデルのネットビジネスは数多いが、これだけ購入意欲の高いユーザーにサービスを利用してもらえるビジネスモデルはそう多くない。このサービス設計に美しさを感じずにはいられない。

補足すると、iTunesやAmazonのような1曲1曲ダウンロード購入できるミュージックストアの普及もこの動きに拍車をかけている。かつては音楽を購入するといえばアルバムCDをまるまる1枚数千円かけて購入するのが当たり前だったが、いまや1曲ずつ購入して自分の好きなプレイリストを作るのが常識になりつつある。Shazamはこのトレンドともすこぶる取り合わせが良い。


・購買までの障壁が低いUX

購買意欲の高いユーザーにサービスを利用してもらってからコンバージョンまでのUXは重要だ。ここで使いにくさがあれば、ユーザーはiTunesアプリやブラウザからAmazonのMP3ダウンロードサイトで検索して自分で購入してしまうだろう。

Shazamはユーザーが購入するまでの離脱の可能性を最小限に保つ工夫に優れている。
一つはその場ですぐに購入できるiTunesリンクが挿入されている点だ。音楽の検索結果が出ると、ユーザーはワンクリックでiTunesでその曲の購入ページに飛べる。まあこれはよくある設計だ。

よく考えられているなと感心させられるのは、ワンクリックでその曲を視聴できるボタンが付いていることだ。コンバージョン率を高めることに焦れば、視聴ボタンを置かずにiTunesへのリンクだけ張り、とりあえずiTunesにユーザーを飛ばしてしまうという設計もできただろう。しかし、本当にその曲が正解なのかまず確かめたいというユーザーの当然の心理を汲み取って視聴ボタンを置いたのだろう。

瑣末なことかもしれないが、ユーザーにとっては満足度が高まるはずだ。


■どんな曲でも見つけてくれるテクノロジー

もう一つShazamについて語るべきは、その楽曲検索のテクノロジーだ。私が試したところ、5秒もかからず百発百中で探し出してきてくれる。1000万曲を超えるデータベースからこのスピードでこの確実性で見つけ出してくれるのは素晴らしいとしか言いようがない。

Shazamのライバル製品には鼻歌から曲を当ててくれるというものもあるようだが、Shazamでは原曲をマイクで取り込まなければならない。なぜならメロディーラインの音階といった抽象化された情報ではなく、オーディオフィンガープリントという曲全体のスペクトログラムをマッチングさせて正しい曲を探し出してくる。

楽曲のスペクトログラムをマッチングさせて曲を検索するという技術自体はさほど難しくないだろうが(それでも相当高度なはず)、1000万を超える曲の中から5秒程度で見つけてくる検索アルゴリズムがすごい。恐らく音楽の波形でデータベースの曲をグルーピングし、コンマ数秒単位で該当しないグループをそぎ落としていくという方法で検索しているのだろうか。

検索に数十秒、数分かかっていたら利用ユーザーはガクンと減るだろう。技術の粋を極めて作り上げた数秒で楽曲を検索するシステムも素晴らしいUXに貢献している。


■Shazamについて

超先進的なテクノロジーを有しているShazamだが、実は結構このサービスの歴史は古い。会社の設立は1999年、音楽検索サービスの開始は2002年だ。

当然当時はスマートフォンが存在していなかった。なのでその頃のサービスでは携帯電話からShazamの電話番号にダイアルし、知りたい曲を30秒程度流す。すると折り返しのテキストメッセージでアーティストと曲名を教えてくれるというサービスであった。

当時は一曲あたりの検索が0.99ドルという課金方法をとっていたようだ。スマートフォンが普及し、音楽ダウンロードサービスのお陰でCD単位ではなく曲単位で購入することが主流になってきた時代のトレンドにもマッチするビジネスモデルだ。
 

  

2014/02/09

LinkedinによるBright.com買収は求人サービスのちょっとした事件

Linkedin acquired Bright.com

Linkedinは2013年度の決算報告と同時にBright.comの買収を発表した。2003年に設立され、これまでに9社買収してきた同社にとっても、もっとも大きなディールだ。Bright.comの買収金額は1.2億ドル(約123億円)で、3600万ドルをキャッシュで残額をLinkedin株で支払う。8億ドルのキャッシュを持つ同社にとっては安い買い物だ。しかし、Linkedinに対する投資家の期待値は高く、対前年度比57%の売上増にも関わらず株価を下げていた。

このLinkedinによるBright.comの買収。日本ではほとんどニュースにもなっていないが、求人サービス市場におけるインパクトは大きい

■Linkedinとは?

Linkedinは言わずと知れた世界最大のビジネスSNSだ。ユーザーは実名で、かつ自分の詳細な仕事の経歴プロフィールをLinkedinに登録する。ビジネス上つながりのある人のプロフィールを閲覧するという使い方だけでなく、キャリアエージェントやヘッドハンターが採用活動に利用するといった場面でもよく利用されるSNSだ。

Linkedinは日本ではまだ馴染みが薄いが、ビジネスプロフェッショナルの間では徐々に浸透しつつある。特に米国のプロフェッショナル達が登録している割合が高く、名刺やメールの署名にLinkedinのIDが挿入されているのも日常の光景だ。Linkedinのプロファイルにはほとんどのユーザーが詳細な仕事の経歴やスキルを記入しているので、キャリアエージェントからダイレクトメッセージで新しいポジションのオファーが入ることも珍しくない。ビジネスでチャンスを掴みたかったらLinkedinに登録しろ、という時代と言っても過言ではないかもしれない。

2003年に創業したLinkedinは2011年5月19日にニューヨーク証券取引所に上場し、初日に売り出し価格45ドルから上昇率109%の94.25ドルで引けた後も順調に株価を伸ばし、までは210ドル近辺まで伸ばしている。時価総額は250億ドル(約2.6兆円!)にのぼり、日本で言えば三井物産やKDDIに匹敵する大企業に変貌を遂げた。起業したのはほんの11年前の2014年だ。

Linkedinのビジネスの特徴は、SNSという収益化が難しいビジネスでありながら、ビジネス向けSNSに特化したことでB2Bの安定した収益性を獲得したことにある。B2CのSNSはユーザー課金や広告モデルによる収益化が主流だが、ここでつまづくSNSは枚挙にいとまがない。Linkedinはユーザーに課金するのではなく、優秀な人材を必要としている企業を顧客とすることにより安定した収益基盤を気づくことに成功したのだ。彼らの主要顧客は企業の採用担当や斡旋事業者、ヘッドハンターだ。

■Bright.comとは?

一方買収されたBright.comとはどのようなスタートアップだろうか。
Bright.comは2011年2月にファンドレイズされた、わずか創業3年のスタートアップだ。Bright.comは求職者と求人情報のマッチングサイトというよくあるWebサービスであるが、ひとつ大きな特徴を持っている。それは「Bright Score」と名付けられた、その人の経歴と求人情報のマッチングを測るスコアの存在だ。

Bright.comはこのスコアを最大の差別化ポイントとして、相当のパワープレイをしている。普通のWebサービスと違い、優秀なWebディベロッパーではなくて原子力物理学者、天体物理学者、地球物理学者、組織心理学者、有名クイズ番組の優勝者など、普通じゃない頭の良さを持った人を集めに集めた。この世界屈指のブレーンを持った15人のチームが過去280万人分の経歴書と880万の求職者、210万の募集職種を分析し、18ヶ月で延べ4万時間以上の時間を投資して辿り着いたのがBright Scoreだ。

Bright Scoreは新し職を探している人と、募集ポジションのマッチングを100点満点で評価する。パターンマッチングやクラスター分析、経歴書の文書や構成まで分析してこのスコアを弾き出し、その精度は93%にも及ぶという。

参考: Bright.com - Bright Scoreについて(英語)

■なぜLinkedinはBright.comを買収した?

LinkedinがBright.comを買収した動機は、Linkedinのバイスプレジデントが明らかにしている。それは、Linkedinの世界最大のビジネスプロフェッショナルのプールとBright.comの世界最高精度のマッチングアルゴリズムを結びつけ、求職者には本人に最適な求職情報の提供を、リクルーターには募集ポジションに最適な人材を発見するための機会を提供することにある。

この世界観が実現されると、人材業界に大きな変化が訪れるだろう。
求職者が自分から転職を試みる場合、今まではネットの求人サイトや転職エージェントに頼ることが多かっただろう。求人サイトの情報を元に転職先を探しても、自分に合う企業がどこかというのは公開されている一面的な情報から得ることしかできなかった。転職エージェントを利用する場合も、その転職エージェントの情報量や判断力に依存していた。しかし、Bright ScoreがLinkedinのプラットフォームに搭載されることで、求職者はもっと良い条件の求人があるのではないか、もっと自分にあった企業があるのではないか、という終わることのない転職先企業の検索作業から開放されるだろう。企業にとっても、泥の中に篩を入れて砂金を探すような最適な求職者探しから開放され、採用コストの削減にもつながるだろう(ただし、Linkedin+Bright Scoreのサービスのコストが転職エージェントよりも安ければの話だが)。

■求人サービス市場への影響

求人サービス市場への影響を考えてみよう。

まず大きな影響を被るのは、上でも上げた求人情報サイトと転職エージェントだろう。
求人情報サイトは一面的な情報を提供することしかできていない。マッチングテクノロジーが発達し、人材市場でも活用されつつある米国では、単一的な求人情報を掲載するだけの求人情報サイト(Job Board)の存在感は相対的に低下してきている。実際、世界最大規模のJob BoardであるMonster.comも2013年度は2012年度よりも約10%売上を落とし、慌ててマッチングテクノロジーの獲得に注力している。LinkedinとBright Scoreの融合は、こうした純粋な求人情報サイトの地盤沈下を加速させることになるだろう。

転職エージェントもダイレクトな被害を受ける可能性が高い。転職エージェントの役割は、まさに求職者と求人情報をマッチさせることにあったが、Bright Scoreがその役割をリプレイスしていくことになるだろう。これもLinkedinという世界最大のプラットフォームとの融合によって加速することは間違いない。

私自身転職エージェントにお世話になって、満足の行く転職を経験することができ、優秀な転職エージェントのマッチング能力はとても有用だと感じている。求職者と面談することによって得られる言語・非言語、志向や意志や哲学といった情報からマッチングすることの精度は、そう簡単にテクノロジーが覆すことができるものではないと思う。それでもエージェントによる能力のバラ付きというネガティブもあるし、履歴書や経歴といった情報以上の求職者の情報を使ったマッチングテクノロジーが今後も磨かれていくことだろう。そうなると、転職エージェントという仕事が成り立たなくなる日も近いかもしれない。

■まとめ

米国の人材テクノロジーサービスのマーケットは日本よりも相当進んでいる。日本では未だに求人情報サイトどころか、フリーペーパーや新聞の折込チラシといった前時代的なメディアの存在感が非常に強い。これに対して米国では既に求人情報サイトすら時代遅れになりつつあり、代わりにテクノロジーによるマッチングのWebサービスに置き換わりつつあるのだ。

これは、米国における仕事の探し方が、求人情報はここに全部乗っているからさあここから探せ、というスタイルから転職エージェントが手間ひまかけてやっていなようなマッチングをWeb上でコンピューターがサクッとやってくれる時代に変わりつつあるということだ。

こうしたトレンドを踏まえると、大量の求職者予備軍と求人情報を掲載したい企業のプラットフォームであるLinkedinと、恐らく現時点で最高の求職マッチングテクノロジーを持っているであろうBright.comの組み合わせが、いかに大きな事件かが分かるだろう。
数年後には転職の仕方が今とは大きく変わっているかもしれない。
 

  

2014/02/04

不動産取引の重要事項説明ネット化のまとめと影響について考えてみた

不動産取引の重要事項説明ネット化

Webやテクノロジー系の仕事をしている人はついつい忘れがちになってしまうが、世の中まだまだネット化が進んでいない業界が多い。地方のひなびた温泉宿でも旅行サイトに掲載される時代になったが、未だにネットと縁がなく予約も電話でしか取らないなんて旅館が数えきれないほど存在している。

不動産業という世界は少し特殊だ。市場に出回る不動産はレインズという国の認定を受けたシステムにほとんどの物件が流通していて、どの不動産会社も一つのデータベースから日本中の物件を取り扱うことができる。さらに、アットホームやスーモといった民間のマッチングサイトも充実している。こうしたサイトを利用すれば転勤先がはるか遠い場所にあったとしても、自宅から賃貸物件を選ぶことができる。当たり前のサービスになっているが、よく考えれば非常に便利だ。

一方、いざ契約の段になると必ず不動産業者に訪れなければならないという、前時代的な流れも残る。不動産売買の取引はおろおか、賃貸契約でも対面で重要事項説明を受けて契約書にサインしなければならない。それどころか、契約の進め方にもよるが複数回不動産屋への訪問を必要とすることも多い。結果的に不動産取引には長い時間がかかるのが現状だ。

また、重要事項説明を対面で受けても不動産のプロではない我々が不動産のプロにしか説明できないようなことを口頭で言われてもその重要さは分からない。何も判断の基準が見いだせないまま、私たち素人は信用して契約書にサインせざるを得ないのだ。


■不動産業界に新たな兆し

物件のネット化は進んでいるものの、契約締結がひどくアナログな不動産業界。その不動産業界がより自由で効率的な取引が実現できるよう、さらなるIT化の議論が生まれてきている。

2013年12月20日のIT総合戦略本部の会合で、IT活用に向けた行動計画の中に非対面での重要事項説明と契約書の電磁的方法を進めていくことが盛り込まれた。国土交通省が2014年6月に中間とりまとめを行い、2014年中に結論を得る方針だ。 早ければ2015年にも完全オンラインで賃貸契約と不動産売買取引が完結できるようになるかもしれない。

12月20日の会合に先立ち、楽天の三木谷社長が代表を務める新経済連盟が2013年11月に政府のIT総合戦略本部分科会で関連法の変更や、行動計画を提案していた。薬品のオンライン販売では完全オンライン取引化に失敗した新経済連盟だが、不動産取引のオンライン化では是非ともうまくやって欲しい。

資料

■不動産取引完全オンライン化のメリット

不動産取引が完全にオンライン化され、無訪問で完結するようになったらどのようなメリットがあるだろうか。

現在の対面による重要事項説明と契約書交付の問題点は冒頭にも述べた3点に絞られるだろう。

1) 不動産会社を訪問する、あるいは訪問をしてもらうという手間
2) 契約締結までの時間
3) 口頭での重要事項説明では十分な検討なしに判断せざるを得ない状況

これらの問題は、新経済連盟が指摘している通りオンライン化で解決される可能性が高い。


1)の訪問の手間は不動産取引をする人と仲介する不動産会社双方にメリットがあるだろう。賃貸にしろ売買にしろ、取引主体者はフルタイムで働いている可能性が高い。すると自然と土日に重要事項説明を受けたい人が増えて、不動産会社も土日ばかりがピークになってしまう。不動産会社もピークに合わせて社員を用意しておく必要があるから、閑散期には人件費のムダが出てしまうだろう。オンライン化が実現すれば、利用者も平日に重要事項説明と契約締結がしやすくなるためピークが平準化されて、2)の問題も自然緩和されるだろう。

3)の問題も重要事項説明がオンラインで文書化されれば、自分で調べたりセカンドオピニオンを人に求めることで冷静によく考えた上で判断することができるようになる。もちろん、すべての人がこうした方法を望むわけではないだろうが、オプションとして文書による需要次項説明があればそれを選択する人も多いはずだ。

■不動産ビジネスに与えるインパクト

2015年に不動産の重要事項説明と契約書の電磁的交付が実現したら、どのような影響が不動産業界のビジネスにあるだろうか。

ポジティブサイド

ポジティブな側面についてまずは見てみよう。

第一に、不動産取引の活発化がポジティブな側面としてあげられる。特に不動産投資の活発化だ。
現状では投資家が不動産を購入するためには下見や重要事項説明、そして契約の締結のために、何度も不動産会社を訪れることになる。私自身が投資物件を購入した時も、不動産業界の慣習なのか何かとFace to Faceでの打ち合わせを要求され、何度も不動産会社やら喫茶店やらに足を運んだ覚えがある。

さすがに下見までオンラインで完結するようになるまでにはまだ時間がかかるだろうが、重要事項説明がオンライン化されればプロの投資家やいくつも不動産を購入している個人投資家は不動産事業者と合わずに売買を完結できることに大きなメリットを感じるだろう。また、対面説明の義務がなくなることによって、外国人投資家も購入しやすくなる。


第二に、この業界で新しいビジネスモデルが生まれてくることだろう。
イメージがつきやすいのは、不動産取引を全てネットで完結できるようなネット不動産仲介事業者だ。アットホームやスーモのような不動産情報検索サイトは、不動産会社への送客が今現在の主なキャッシュポイントだろう。だが、これらの事業者がそのまま自分たちで仲介を担当してくるケースも十分に考えられる。ネット化で場所の制限がなくなれば、宅建取引主任者を何人かセンターに集めてビデオチャットや電話などで効率的に全国の顧客に重要事項説明ができる。普通の不動産事業者よりもローコストでの運営が可能になるだろう。

また、法律的にOKなのかわからないが、宅建資格保有者を集めて重要事項説明のアウトソーサーのような新たなサービスが生まれるかもしれない。あるいは外国人投資家向けに、下見を代行するサービスや日本国内での実務を請け負い、本人たちは海外から一歩も出ずに日本の不動産購入を完結できるサービスも出てくるかもしれない。

いずれにせよ、新しい価値を提供するスタートアップやベンチャー企業が出てくる可能性は十分ある。

ネガティブサイド

ネガティブな側面も少なからず出てくることが予測される。

まず、不動産取り引きの仲介手数料に値下げ圧力がかかることになる。不動産売買における仲介取引手数料には、法律で明確に上限金額が定められている。定められているのは上限だけであるが、手数料は基本常に上限金額請求されるのが現状だ。だが、完全オンライン化取引で事業を効率化した新しい不動産事業者が、安い手数料を売りにビジネスを開始するかもしれない。すると、雪崩を打ったように追従する不動産会社が出てくる可能性が高い。

不動産仲介はレインズという誰でもアクセスできるデータベースがあるお陰で、差別化が難しいビジネスだ。不動産という商品そのものは、どの業者でもラインナップが同じ(≒レインズに掲載されている不動産)だから、商品自体を差別化することができない。かといって、仲介という行為そのものも差別化することは困難だ。中には投資家クラブみたいなものを組織して、顧客の囲い込みとリファレンスによる新規顧客の獲得を狙う事業者もある。

少し話がそれたが、商品で差別化できない不動産仲介事業者は、値下げ競争に巻き込まれる可能性が高いということだ。大きな影響を受けるのは、街の小さな不動産のような体力のない小規模な不動産事業者だろう。業務の効率化、合理化と集客力のある大手事業者による統廃合が進み、小規模な事業者は困難な状況に追い込まれるケースが多くなることが予想される。


ポジティブな面でもネガティブな面でも、重要事項説明のネット化と契約書の電磁的交付は小さくな影響を業界に与えるだろう。廃業に追い込まれるような企業も出てくるだろうが、総合的に見てメリットが勝るはずだ。是非ともオープン化、ネット化がどんどん進んで欲しいものだ。
 

  

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