2014/02/04

不動産取引の重要事項説明ネット化のまとめと影響について考えてみた

不動産取引の重要事項説明ネット化

Webやテクノロジー系の仕事をしている人はついつい忘れがちになってしまうが、世の中まだまだネット化が進んでいない業界が多い。地方のひなびた温泉宿でも旅行サイトに掲載される時代になったが、未だにネットと縁がなく予約も電話でしか取らないなんて旅館が数えきれないほど存在している。

不動産業という世界は少し特殊だ。市場に出回る不動産はレインズという国の認定を受けたシステムにほとんどの物件が流通していて、どの不動産会社も一つのデータベースから日本中の物件を取り扱うことができる。さらに、アットホームやスーモといった民間のマッチングサイトも充実している。こうしたサイトを利用すれば転勤先がはるか遠い場所にあったとしても、自宅から賃貸物件を選ぶことができる。当たり前のサービスになっているが、よく考えれば非常に便利だ。

一方、いざ契約の段になると必ず不動産業者に訪れなければならないという、前時代的な流れも残る。不動産売買の取引はおろおか、賃貸契約でも対面で重要事項説明を受けて契約書にサインしなければならない。それどころか、契約の進め方にもよるが複数回不動産屋への訪問を必要とすることも多い。結果的に不動産取引には長い時間がかかるのが現状だ。

また、重要事項説明を対面で受けても不動産のプロではない我々が不動産のプロにしか説明できないようなことを口頭で言われてもその重要さは分からない。何も判断の基準が見いだせないまま、私たち素人は信用して契約書にサインせざるを得ないのだ。


■不動産業界に新たな兆し

物件のネット化は進んでいるものの、契約締結がひどくアナログな不動産業界。その不動産業界がより自由で効率的な取引が実現できるよう、さらなるIT化の議論が生まれてきている。

2013年12月20日のIT総合戦略本部の会合で、IT活用に向けた行動計画の中に非対面での重要事項説明と契約書の電磁的方法を進めていくことが盛り込まれた。国土交通省が2014年6月に中間とりまとめを行い、2014年中に結論を得る方針だ。 早ければ2015年にも完全オンラインで賃貸契約と不動産売買取引が完結できるようになるかもしれない。

12月20日の会合に先立ち、楽天の三木谷社長が代表を務める新経済連盟が2013年11月に政府のIT総合戦略本部分科会で関連法の変更や、行動計画を提案していた。薬品のオンライン販売では完全オンライン取引化に失敗した新経済連盟だが、不動産取引のオンライン化では是非ともうまくやって欲しい。

資料

■不動産取引完全オンライン化のメリット

不動産取引が完全にオンライン化され、無訪問で完結するようになったらどのようなメリットがあるだろうか。

現在の対面による重要事項説明と契約書交付の問題点は冒頭にも述べた3点に絞られるだろう。

1) 不動産会社を訪問する、あるいは訪問をしてもらうという手間
2) 契約締結までの時間
3) 口頭での重要事項説明では十分な検討なしに判断せざるを得ない状況

これらの問題は、新経済連盟が指摘している通りオンライン化で解決される可能性が高い。


1)の訪問の手間は不動産取引をする人と仲介する不動産会社双方にメリットがあるだろう。賃貸にしろ売買にしろ、取引主体者はフルタイムで働いている可能性が高い。すると自然と土日に重要事項説明を受けたい人が増えて、不動産会社も土日ばかりがピークになってしまう。不動産会社もピークに合わせて社員を用意しておく必要があるから、閑散期には人件費のムダが出てしまうだろう。オンライン化が実現すれば、利用者も平日に重要事項説明と契約締結がしやすくなるためピークが平準化されて、2)の問題も自然緩和されるだろう。

3)の問題も重要事項説明がオンラインで文書化されれば、自分で調べたりセカンドオピニオンを人に求めることで冷静によく考えた上で判断することができるようになる。もちろん、すべての人がこうした方法を望むわけではないだろうが、オプションとして文書による需要次項説明があればそれを選択する人も多いはずだ。

■不動産ビジネスに与えるインパクト

2015年に不動産の重要事項説明と契約書の電磁的交付が実現したら、どのような影響が不動産業界のビジネスにあるだろうか。

ポジティブサイド

ポジティブな側面についてまずは見てみよう。

第一に、不動産取引の活発化がポジティブな側面としてあげられる。特に不動産投資の活発化だ。
現状では投資家が不動産を購入するためには下見や重要事項説明、そして契約の締結のために、何度も不動産会社を訪れることになる。私自身が投資物件を購入した時も、不動産業界の慣習なのか何かとFace to Faceでの打ち合わせを要求され、何度も不動産会社やら喫茶店やらに足を運んだ覚えがある。

さすがに下見までオンラインで完結するようになるまでにはまだ時間がかかるだろうが、重要事項説明がオンライン化されればプロの投資家やいくつも不動産を購入している個人投資家は不動産事業者と合わずに売買を完結できることに大きなメリットを感じるだろう。また、対面説明の義務がなくなることによって、外国人投資家も購入しやすくなる。


第二に、この業界で新しいビジネスモデルが生まれてくることだろう。
イメージがつきやすいのは、不動産取引を全てネットで完結できるようなネット不動産仲介事業者だ。アットホームやスーモのような不動産情報検索サイトは、不動産会社への送客が今現在の主なキャッシュポイントだろう。だが、これらの事業者がそのまま自分たちで仲介を担当してくるケースも十分に考えられる。ネット化で場所の制限がなくなれば、宅建取引主任者を何人かセンターに集めてビデオチャットや電話などで効率的に全国の顧客に重要事項説明ができる。普通の不動産事業者よりもローコストでの運営が可能になるだろう。

また、法律的にOKなのかわからないが、宅建資格保有者を集めて重要事項説明のアウトソーサーのような新たなサービスが生まれるかもしれない。あるいは外国人投資家向けに、下見を代行するサービスや日本国内での実務を請け負い、本人たちは海外から一歩も出ずに日本の不動産購入を完結できるサービスも出てくるかもしれない。

いずれにせよ、新しい価値を提供するスタートアップやベンチャー企業が出てくる可能性は十分ある。

ネガティブサイド

ネガティブな側面も少なからず出てくることが予測される。

まず、不動産取り引きの仲介手数料に値下げ圧力がかかることになる。不動産売買における仲介取引手数料には、法律で明確に上限金額が定められている。定められているのは上限だけであるが、手数料は基本常に上限金額請求されるのが現状だ。だが、完全オンライン化取引で事業を効率化した新しい不動産事業者が、安い手数料を売りにビジネスを開始するかもしれない。すると、雪崩を打ったように追従する不動産会社が出てくる可能性が高い。

不動産仲介はレインズという誰でもアクセスできるデータベースがあるお陰で、差別化が難しいビジネスだ。不動産という商品そのものは、どの業者でもラインナップが同じ(≒レインズに掲載されている不動産)だから、商品自体を差別化することができない。かといって、仲介という行為そのものも差別化することは困難だ。中には投資家クラブみたいなものを組織して、顧客の囲い込みとリファレンスによる新規顧客の獲得を狙う事業者もある。

少し話がそれたが、商品で差別化できない不動産仲介事業者は、値下げ競争に巻き込まれる可能性が高いということだ。大きな影響を受けるのは、街の小さな不動産のような体力のない小規模な不動産事業者だろう。業務の効率化、合理化と集客力のある大手事業者による統廃合が進み、小規模な事業者は困難な状況に追い込まれるケースが多くなることが予想される。


ポジティブな面でもネガティブな面でも、重要事項説明のネット化と契約書の電磁的交付は小さくな影響を業界に与えるだろう。廃業に追い込まれるような企業も出てくるだろうが、総合的に見てメリットが勝るはずだ。是非ともオープン化、ネット化がどんどん進んで欲しいものだ。
 

  

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