2014/02/09

LinkedinによるBright.com買収は求人サービスのちょっとした事件

Linkedin acquired Bright.com

Linkedinは2013年度の決算報告と同時にBright.comの買収を発表した。2003年に設立され、これまでに9社買収してきた同社にとっても、もっとも大きなディールだ。Bright.comの買収金額は1.2億ドル(約123億円)で、3600万ドルをキャッシュで残額をLinkedin株で支払う。8億ドルのキャッシュを持つ同社にとっては安い買い物だ。しかし、Linkedinに対する投資家の期待値は高く、対前年度比57%の売上増にも関わらず株価を下げていた。

このLinkedinによるBright.comの買収。日本ではほとんどニュースにもなっていないが、求人サービス市場におけるインパクトは大きい

■Linkedinとは?

Linkedinは言わずと知れた世界最大のビジネスSNSだ。ユーザーは実名で、かつ自分の詳細な仕事の経歴プロフィールをLinkedinに登録する。ビジネス上つながりのある人のプロフィールを閲覧するという使い方だけでなく、キャリアエージェントやヘッドハンターが採用活動に利用するといった場面でもよく利用されるSNSだ。

Linkedinは日本ではまだ馴染みが薄いが、ビジネスプロフェッショナルの間では徐々に浸透しつつある。特に米国のプロフェッショナル達が登録している割合が高く、名刺やメールの署名にLinkedinのIDが挿入されているのも日常の光景だ。Linkedinのプロファイルにはほとんどのユーザーが詳細な仕事の経歴やスキルを記入しているので、キャリアエージェントからダイレクトメッセージで新しいポジションのオファーが入ることも珍しくない。ビジネスでチャンスを掴みたかったらLinkedinに登録しろ、という時代と言っても過言ではないかもしれない。

2003年に創業したLinkedinは2011年5月19日にニューヨーク証券取引所に上場し、初日に売り出し価格45ドルから上昇率109%の94.25ドルで引けた後も順調に株価を伸ばし、までは210ドル近辺まで伸ばしている。時価総額は250億ドル(約2.6兆円!)にのぼり、日本で言えば三井物産やKDDIに匹敵する大企業に変貌を遂げた。起業したのはほんの11年前の2014年だ。

Linkedinのビジネスの特徴は、SNSという収益化が難しいビジネスでありながら、ビジネス向けSNSに特化したことでB2Bの安定した収益性を獲得したことにある。B2CのSNSはユーザー課金や広告モデルによる収益化が主流だが、ここでつまづくSNSは枚挙にいとまがない。Linkedinはユーザーに課金するのではなく、優秀な人材を必要としている企業を顧客とすることにより安定した収益基盤を気づくことに成功したのだ。彼らの主要顧客は企業の採用担当や斡旋事業者、ヘッドハンターだ。

■Bright.comとは?

一方買収されたBright.comとはどのようなスタートアップだろうか。
Bright.comは2011年2月にファンドレイズされた、わずか創業3年のスタートアップだ。Bright.comは求職者と求人情報のマッチングサイトというよくあるWebサービスであるが、ひとつ大きな特徴を持っている。それは「Bright Score」と名付けられた、その人の経歴と求人情報のマッチングを測るスコアの存在だ。

Bright.comはこのスコアを最大の差別化ポイントとして、相当のパワープレイをしている。普通のWebサービスと違い、優秀なWebディベロッパーではなくて原子力物理学者、天体物理学者、地球物理学者、組織心理学者、有名クイズ番組の優勝者など、普通じゃない頭の良さを持った人を集めに集めた。この世界屈指のブレーンを持った15人のチームが過去280万人分の経歴書と880万の求職者、210万の募集職種を分析し、18ヶ月で延べ4万時間以上の時間を投資して辿り着いたのがBright Scoreだ。

Bright Scoreは新し職を探している人と、募集ポジションのマッチングを100点満点で評価する。パターンマッチングやクラスター分析、経歴書の文書や構成まで分析してこのスコアを弾き出し、その精度は93%にも及ぶという。

参考: Bright.com - Bright Scoreについて(英語)

■なぜLinkedinはBright.comを買収した?

LinkedinがBright.comを買収した動機は、Linkedinのバイスプレジデントが明らかにしている。それは、Linkedinの世界最大のビジネスプロフェッショナルのプールとBright.comの世界最高精度のマッチングアルゴリズムを結びつけ、求職者には本人に最適な求職情報の提供を、リクルーターには募集ポジションに最適な人材を発見するための機会を提供することにある。

この世界観が実現されると、人材業界に大きな変化が訪れるだろう。
求職者が自分から転職を試みる場合、今まではネットの求人サイトや転職エージェントに頼ることが多かっただろう。求人サイトの情報を元に転職先を探しても、自分に合う企業がどこかというのは公開されている一面的な情報から得ることしかできなかった。転職エージェントを利用する場合も、その転職エージェントの情報量や判断力に依存していた。しかし、Bright ScoreがLinkedinのプラットフォームに搭載されることで、求職者はもっと良い条件の求人があるのではないか、もっと自分にあった企業があるのではないか、という終わることのない転職先企業の検索作業から開放されるだろう。企業にとっても、泥の中に篩を入れて砂金を探すような最適な求職者探しから開放され、採用コストの削減にもつながるだろう(ただし、Linkedin+Bright Scoreのサービスのコストが転職エージェントよりも安ければの話だが)。

■求人サービス市場への影響

求人サービス市場への影響を考えてみよう。

まず大きな影響を被るのは、上でも上げた求人情報サイトと転職エージェントだろう。
求人情報サイトは一面的な情報を提供することしかできていない。マッチングテクノロジーが発達し、人材市場でも活用されつつある米国では、単一的な求人情報を掲載するだけの求人情報サイト(Job Board)の存在感は相対的に低下してきている。実際、世界最大規模のJob BoardであるMonster.comも2013年度は2012年度よりも約10%売上を落とし、慌ててマッチングテクノロジーの獲得に注力している。LinkedinとBright Scoreの融合は、こうした純粋な求人情報サイトの地盤沈下を加速させることになるだろう。

転職エージェントもダイレクトな被害を受ける可能性が高い。転職エージェントの役割は、まさに求職者と求人情報をマッチさせることにあったが、Bright Scoreがその役割をリプレイスしていくことになるだろう。これもLinkedinという世界最大のプラットフォームとの融合によって加速することは間違いない。

私自身転職エージェントにお世話になって、満足の行く転職を経験することができ、優秀な転職エージェントのマッチング能力はとても有用だと感じている。求職者と面談することによって得られる言語・非言語、志向や意志や哲学といった情報からマッチングすることの精度は、そう簡単にテクノロジーが覆すことができるものではないと思う。それでもエージェントによる能力のバラ付きというネガティブもあるし、履歴書や経歴といった情報以上の求職者の情報を使ったマッチングテクノロジーが今後も磨かれていくことだろう。そうなると、転職エージェントという仕事が成り立たなくなる日も近いかもしれない。

■まとめ

米国の人材テクノロジーサービスのマーケットは日本よりも相当進んでいる。日本では未だに求人情報サイトどころか、フリーペーパーや新聞の折込チラシといった前時代的なメディアの存在感が非常に強い。これに対して米国では既に求人情報サイトすら時代遅れになりつつあり、代わりにテクノロジーによるマッチングのWebサービスに置き換わりつつあるのだ。

これは、米国における仕事の探し方が、求人情報はここに全部乗っているからさあここから探せ、というスタイルから転職エージェントが手間ひまかけてやっていなようなマッチングをWeb上でコンピューターがサクッとやってくれる時代に変わりつつあるということだ。

こうしたトレンドを踏まえると、大量の求職者予備軍と求人情報を掲載したい企業のプラットフォームであるLinkedinと、恐らく現時点で最高の求職マッチングテクノロジーを持っているであろうBright.comの組み合わせが、いかに大きな事件かが分かるだろう。
数年後には転職の仕方が今とは大きく変わっているかもしれない。
 

  

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