どのSNSも多かれ少なかれ広告収入で収益を得ています。広告を出したい企業はSNS運営者に手数料を払って広告を掲載するのですが、アイディア1つで全く新しいSNS広告が広がっているようなので紹介します。
日経MJ 2012年10月10日 P.16――――――――――――――――――――――――――
体を広告媒体とする試みは最近にわかに活気づいてきた。角川書店が10日に発行するアーティスト村上隆氏の新書「想像力なき日本」(税別 781円)の場合は女性の太もも。発売に合わせて全国の女性たちに、村上氏がデザインしたシールを貼って街を歩いてもらう。企画した角川グループパブリッシング宣伝部の菅原剛係長は「村上氏のかわいいデザインを貼った女性たちが、自分の写真をネットに投稿してくれれば、大きな拡散量が見込める」と話す。 (中略) 条件は18歳以上でSNSに20人以上の友だちがいること。指定された日時にシールを貼って1日8時間を過ごし、その画像を2枚以上SNSに投稿するのが役割だ。 (中略) 例えばフットサル場の広告を20人の女性が1日貼ったところ、20人の新規顧客獲得につながったという。渥美美紀社長は「SNSへの投稿ネタを探している女性たちにとって格好の素材になっている」と指摘する。
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SNS運営者が用意している広告スキームを全く利用せず、SNSのタイムラインに利用者自らの投稿として広告を紛れ込ませるというユニークな広告手法です。体に広告を貼り付けるという手法は以前から何度かニュースなどで目にした覚えがありますが、あくまでも話題づくりという印象でした。広告は拡散して多くの人に視聴され、反復されて視聴者の意識に刷り込まれ、視聴者の購買行動を起こさなければ広告に投資する意味がありません。その点で今までの人体広告は拡散も反復も不十分でした。しかし、この広告手法では広告媒体となった人のSNSのつながりで、自然に拡散させることができます。商品のターゲットユーザーがSNSの利用者と重なる層が多ければ、効果は高いでしょう。広告掲載価格は広告媒体となる人一人あたり数万円程度とさほど高くないので、反復もしやすいでしょう。
このSNSを広告プラットフォームにした人体広告、いくつか特有のメリットがあります。
まず、宣伝広告という捉え方がされにくく、訴求効果が高くなる可能性があります。人体広告を友人の写真投稿として視聴した人は、もちろん宣伝広告であることはすぐに分かるのですが、企業の広告というカテゴリーよりも友だちの投稿というカテゴリーで捉える可能性が高いでしょう。人は得てして広告というカテゴリーで捉えてしまうと、不要なものとか鬱陶しいものというネガティブな印象を持ってしまうものです。友達の投稿として捉えればニュートラルないし好意的に捉える人が多いでしょう。
次に、人体に広告を貼り付けるという手法は、身に着けている服やカバンに宣伝を貼り付けるよりも印象に残りやすいものです。人間にはモノを見るときよりもヒトを見るときの方が活性化する脳の部位があります。ソーシャルな動物である人間は、進化の過程でモノよりもヒトについて多くの情報を得ようとする脳力がついたのでしょう。このため、モノに広告をいれても脳に背景として処理されてしまう危険性があります。一方、人体に広告が貼り付けられていると、ヒトの一部として認識されて印象に残りやすくなります。
最後に、この広告スキームは、SNS運営者に一銭も払わずにSNSを広告プラットフォームとして利用できるという素晴らしいシステムです。ある意味、テレビ番組に無料で広告を出せるようなものです。SNS運営者がこの広告をしめ出そうとしてもただの写真投稿なので機械的に判別するのは難しいでしょうから、人的に一つ一つチェックしなければいけません。禁止しようにも、個人的な写真投稿だと言われてしまえば反論もしにくいものです。
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