かつてはこの分類が明確で、製造企業、卸売企業、小売企業と明確に役割がわかれていました。
しかし、最近では役割の壁が取り払われて再編が進んでいます。
例えば紳士服の小売企業であったユニクロが製造から小売まで一気通貫の製造小売企業になったのが良い例です。
足元では製造や卸という川上企業が小売の領域に進出する流れがあります。
まずは例を見てみましょう。
島精機製作所アパレル商品を作るための産業機械を製造しています。
島精機製作所にとっての顧客はアパレル商品を製造している製造業の企業であり、エンドユーザーの消費者からは程遠い位置にある企業です。
なぜアパレル商品製造用の産業機械メーカーが小売に進出する必要があるのでしょうか?
同社は小売に進出したものの、主目的は必ずしも新たな収益源を見つけるためという訳では無さそうです。
日経MJ 2012/12/26 P.1―――――――――――――――――――――
初の小売事業として期間限定店の展開を百貨店で始めた。
その後3年間に限定店を約60店開設。今年3月には常設店を東京・日本橋に開いた。限定店には最新の編み機を持ち込み、魔法のような高速編みを呼び物に、主に中高年の客を集める。ニットの価格は平均で3万〜4万円程度。2日で約820万円売った限定店もある。
(中略) 新会社社長を兼務する西川取締役は「我々がホールガーメントを使う高収益ビジネスモデルを作り、取引先への提案は『絵に描いた餅』ではないと証明する」と語る。
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島精機製作所は売上が年間370億円ほどの企業です。
2日で820万円を売り上げるということは、順調に行けば初年度に小売だけで年間10億以上の売上が見込めそうなので、小売単体のビジネスとして見ても悪くはありません。
それでも本当の目的は産業機械を購入してもらうための販促なんですね。
面白いのは産業機械そのものを販売の場に持ち込んでの実演販売というビジネスモデルを顧客へ提案しようとしていることです。
どのように顧客へ提案しようとしているのかまでは分かりませんが、もしかしたら機械の販売という物販からビジネスモデルを販売するというプロモーションサービス、コンサルティングというビジネスモデルに踏み込もうとしているのかもしれませんね。
次は卸の例です。
最近ではSPA(製造小売)形態をとるアパレル企業が多く、大手未満の中小卸は存在感が薄れてきているようです。
中小卸は小売に進出することで生き残りの道を描いています。
日経MJ 2012/10/24 P.3―――――――――――――――――――――
三高の車社長は「小売店としては進行でも卸売分と合算することで最低1点数百枚発注できた。品質面で競争力のある衣料は製造ロットをまとめて作り続けた」と語る。
商品調達力が確保できるなら、店数の少なさに焦って出店する必要はない。出店加速で価格競争力を高める戦法とは対照的に、両社は立地や施設を厳選。
(中略) 「今の小売ブランドは各15店前後で打ち止め。次はまた卸で好調なブランドを新たな小売店に育てる」と話す。中森社長も「先々は雑貨店などの異分野の小売店も作り斬新な消費者情報を集めて卸商品に反映する。こうすれば卸も決してなくならない」と語る。
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小売業になくて卸売業が持っている無形のアセットを活かして小売業という新たな収益源を作ろうという策ですね。
卸売業の強みは、卸している先の小売企業から幅広く市場の情報が集まるということです。
小売企業が何を発注しているのかを見れば、定番商品がどれで流行りの商品がどれかというのがすぐに分かります。
小売企業は自社のデータしかありませんが、卸売業は取引先の数だけ情報が得られるのでより正確な情報を持っているという強みがあるのです。
さらに、本業で大量発注をかけるので自分たちの販売量が少なくても安い価格で仕入れることができます。
つまり、普通に小売店を運営しても自然と高収益になるはずなのです。
アパレル業界ではこのようなバリューチェーン再編の動きが目立ちます。
このように分断されていたバリューチェーンが結合されて新しい価値がもたらされます。
やがて複数のバリューチェーンにまたがる企業運営がスタンダードになると、また一つのバリューチェーンに特化した新興企業が生まれてくる。
一つの業界ではこうした大きな流れがあるに私には思われます。
そしてその潮目が変わるところに大きなビジネスチャンスもありそうです。
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